28話 完璧な計画は、偶然にも・・・
俺の名前は、クリス・グリオン。
平民でありながら、貴族に取り入ることで、騎士団長の職に就いた”天才”だ
しかし、兵士は皆、トール・リッシュという王子に心酔していて、
誰も、俺の話しを聞きやしない
そこへ更に、王の忠臣を冤罪で牢に捕らえたこと、
立ち入り禁止の場所に貴族を侵入させたこと、が問題となり、
俺は今、騎士団長としての責任を問われている。。。
なぜ俺が、責任を取って職を辞さなければならない?
俺は、貴族の命令に従っただけなのに…
このままでは、騎士団長の座を、王子に奪われてしまう・・・
「クリス・グリオン!」
鬼の形相をしたトールが、前を歩いていたクリスを呼び止める。
「何か御用でしょうか、トール様?」
トールを睨みつけ、あからさまに不機嫌な顔で対応する、クリス。
「貴様が、俺の事を良く思っていない事は、知っている」
「だが、俺の家族や、仲間に、危害を加えるというのなら、容赦しないからな!」
あ~ランベイルの件か…たしか、ランベイルの妹は、王子の母親だったな~
「怒りをお静めください、トール様」
「私は、そのような気持ちを懐いた事など、一度もありませんから…」
「もういい…聞くに堪えんな!」
クリスの言い訳を聞かずに、歩き去る、トール。
「ちっ!」
あいつ…兵士の事を、仲間と呼んでいるのか
気が早いな…もう、騎士団長になったつもりなのかよ!
まぁいい・・・
これから、その仲間が向ける敵意の目に、王子様は耐えられるか?
見物だな~
形ばかりの業務を終え、トールを避けるように、何時もの酒場へと来ていた、クリス。
「ねぇ~え~あの件、まだ駄目なの?」
酒に酔ったクリスに、言い寄る女性。
「うるせえな…俺は今、大事な時期なんだよ!」
「代わりに、こんなにも貢いでやってんだろ?我慢してくれよ~な?」
ちっ!めんどくせーな、この女…
まぁまぁ落ち着け、俺。
この女は、王子を貶める餌だ!
計画の日までは、大事に扱わないと…
「ねぇねぇ~お酒、追加していい?」
「ああ、好きに飲め!」
酒を飲むクリスの後ろを、重装備の大人に囲まれた少年が通り過ぎる。
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頭を押さえて、千鳥足でスラム街を歩く、クリス。
「あ~いててて…昨夜は飲み過ぎたな~」
細道に曲がる際、屈強な男とぶつかり、顔を隠すフードを慌てて深く被る、クリス。
「客を選ばないスラムとは言え、顔を晒すわけにはいかない…」
細道を進み、薬瓶を布切れに並べた老人の前で、足を止めた。
「おい、例の薬はあるか?」
「たった今、売り切れたところだよ」
「何!つ、次の入荷は?」
布切れを折り畳み、店仕舞いを始める、老人。
「あ~不定期の品物だからな~早くても一・二か月後になるだろうね」
まずい!
あの、毒が体内に残らない薬を使わなければ、計画は完遂できない
毒殺した女の死体を、王子の部屋に置き、王子の帰りを待つ
王子が部屋に帰って来たところを、俺は、兵士と共に、部屋へ突入する
証人を作りだし、証拠を残さない、完璧な計画になるはずだったのに…
「いや…まだ他に、方法はあるはずだ!」
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~人々が寝静まった真夜中~
周囲を警戒しながら、トールの部屋の前まで大きな袋を運ぶ、クリス。
「こんな良い計画を思いつくとは、我ながら天才だな!」
合鍵を使い、トールの部屋の扉を開け、袋を運び入れる。
「王子は、酒場の禁止令が解けてたおかげで、朝まで帰って来ないはずだ」
「時間はある…確実に仕留める!」
袋から小型のクロスボウを取り出し、動かないように軽く固定する。
クロスボウの引き金に紐を巻き付け、扉のドアノブに括り付けた。
「…よし」
矢を取り付け、何度も、何度も、扉を開け閉めして、矢が刺さる位置を調整する。
「ふー完璧だ。後は、女を移動して・・・!」
一瞬、ドアノブが回る音が鳴った。
急いで扉を半分開き、外の状況を半目で確認する。
「・・・気のせいか?」
女性を袋から持ち上げ、急いで所定の位置の座り下ろす。
「後は、王子が帰る時間まで、睡眠薬が持つかどうか…」
外に人が居ない事を確認して、クロスボウが起動しないよう、慎重に部屋を出る。
「・・・完璧だ」
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~日が真上まで昇る頃~
「帰ったぞ~」
酒に酔いしれたトールの陽気な挨拶が、兵舎に響き渡る。
「酒に酔い、地獄に落ちるとは…さぞかし幸せだろう」
トールの部屋が見える位置に隠れ、じっとその時を見守る、クリス。
扉の前に立ち、ドアノブに手を掛けた、トール。
「・・・鍵?」
「し、しまった!」
鍵を閉め忘れていた!
このままでは計画が…
「鍵が・・・無い!」
数十個のポケットに、次々と手を入れて鍵を捜す、トール。
「ふー良かった~」
記憶には無いが、おそらく、無意識のうちに鍵をかけていたのだろう…
これで、計画通りに・・・
いや、駄目だ!
鍵が無ければ、王子は部屋に入れない!
何か手を打たなければ…
「鍵…落ちてましたよ」
合鍵を片手に、トールの前に姿をさらけ出す、クリス。
「・・・ああ、ありがとう」
「いえ、いえ…」
苦肉の策だが、仕方ない…
このまま、第一発見者を装い、状況証拠で王子を捕らえる!
鍵を外し、ゆっくりと扉を開ける。
異様な物音と共に、発射された矢が空を切る。
何かが壊れる鈍い音が鳴り、矢は動きを止めた。
「な、なんてことを・・・」
ああ…俺の完全勝利だ!
トールの視界には、口から生温かい朱液を垂れ流し、矢が刺さり眠る女性が写っていた。




