27話 代償と対価
廊下を駆ける足音が、牢内に響く。
ローブで隠した顔を、見張りの兵士に晒す、オーウェン。
「私だ。中へ通せ」
「は!オーウェン様ですね。話は、聞いております」
「オーウェン⁉」
思わず開いたランベイルの口を、影から伸びたヘルの手が、押さえ付ける。
「黙れ!大きな声で、私の名前を呼ぶな」
「お前は…誰の命で動いている?」
「”上”から、オーウェン様に協力するようにと、言われております」
「上から…そうか」
兵士に疑念を懐くオーウェンは、案内されるまま進み、牢の前に立つ。
「おい、私だ。義息子、こっちを見ろ!」
後ろを向くランベイルに、小声で呼び掛ける。
「・・・ど、どうするのですか」
囁き声で、ヘルに指示を仰ぐ、ランベイル。
自白してた真犯人が、どうしてここに⁉
罠にはめたランベイルを、義息子と勘違いしているみたい
という事は…この牢のどこかに、義息子さんが居る?
「・・・とりあえず、義息子の真似をしてみたら?」
「あ、あ、え~と…」
声質を変え、聞いた事も無い義息子の声を、捻り出そうとする。
「おい…おい!聞こえいているのなら、返事をしろ!」
苛立ちを含んだオーウェンの大声が、建物に響き渡る。
「・・・ヘル様、無理です。若者の声なんて出せません!」
謀が成功したのに、随分と焦っている様だ
王襲撃は、ランベイルを陥れるためだと思っていたけど…
「王を襲ったのは、混乱に乗じて、義息子を牢から逃がすため?」
…義息子が逃げ出せば、王襲撃事件の犯人だと、自白する様なものだ
それでも、助けたかったのだろう…
じゃあ、メルウィスは、何で、ランベイルを牢へ移したのだろう?
「…ヘル様‼」
「も~うるさいな~。そんな大声ださなくても、聞こえてるよ」
ランベイルの影から、耳を押さえたヘルが顔を出した。
「こども・・・ヘルヴィルク・リッシュ⁉」
「あ・・・ふふ」
万遍のこどもスマイルで、場を乗り切ろうとする、ヘル。
「な、何故、ヘル様がここに!」
背後を取られない様、警戒心を表しながら、後退りする。
「そこまでだ!オーウェン」
振り返り、ヘルを守る様に立ち上がる、ランベイル。
「ランベイル…貴様も居たのか」
ヘル達に背を向け、出入口を目指し、全速力で走り出す。
「おっと。逃げちゃ、ダメですよ」
門番の兵士が、オーウェンの行く手を遮る。
「邪魔だ!」
腕を振り、兵士を押し倒し、進もうとする。
「そういわれても…命令なんで!」
押された兵士は、オーウェンの腕を掴み、地面に投げ飛ばす。
「ぐはっ…貴様!」
そのまま押さえこまれたオーウェンは、地面にひれ伏した。
牢を出て、地面に伏せるオーウェン近づく、ヘルとランベイル。
「なぜ、逃げだしたオーウェン?」
「ふふふ…無駄だ、証拠は無い」
「ランベイル。今のお前は、何の権力も持たない」
「確かに…今、私が見聞きした事を、証言しても、何の証拠にもならない」
「しかし、ここには、ヘル様が居られる!」
「はは…五歳児の発言が、証拠になると?」
「この牢に、王族以外が立ち入る事は、許されない」
オーウェンの名前を、ランベイルから耳打ちされた、ヘル。
「ヘルヴィルク・リッシュの名の下に、オ、オーウェン?貴様を拘束する」
「…ヘル様。私が捕まるとなると、そこに居る叔父も、捕まることになりますよ」
「ヘル様、私はここに”居りました”か」
「いいや、”居ないよ”。見てないもん」
「く、貴様!覚えてろ!」
捨て台詞を吐き、兵士に連れられて行く、オーウェン。
雑魚がよく使う捨て台詞…一度、言われてみたかったんだよね~
「よし。王に報告して、叔父さんの罪を取り消してもらおうか!」
「ヘル様が、”私を”心配なさって…冤罪をかけられて良かった!」
「叔父さん…二度と、助けないからね」
「・・・はい。用心します」
兵士に拘束され、廊下を歩く、オーウェン。
「おい、兵士!私を見捨てたな!」
「え~何の話しです?」
オーウェンの拘束を、強く引っ張る、兵士。
「ぐっ…あのお方を裏切って、只で済むとおもうなよ…」
「え~俺、言ったじゃないですか」
オーウェンの耳元に手を当て、ニヤリと笑う。
「命令だって…」
「まさか…そんな…ばかな…」
復讐に燃えるオーウェンの表情は、絶望の淵に沈んでいった。
とある屋敷にて~
「終わりましたよ、メルウィス様」
ゆっくりと開いた扉から現れる、兵士。
「・・・ご苦労様でした」
赤い果実酒を片手に、窓から月を眺める、メルウィス。
「よかったの?大きな財源を、絶っても…」
透明なグラスに、果実酒を注ぐ。
「ええ、いいんですよ…あれは」
「主の命令が聞けない物は、使えませんから」




