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この眼の名前は!  作者: 夏派
三章
20/22

獣使い

 振り返るとそこには、黒のローブに身を包んだ小柄な人間が立っていた。その手には杖がある。その人間が俺たちに話しかける。


「皆さん、ここで何をしてるんですか? それとなぜパンイチ……?」


 声は高すぎず低すぎない。


「ヒュドラを倒しにしたのよ」


 エナは優しくそう言う。


「ヒュドラをですか?! き、危険すぎます。3人で戦う相手ではないですよ!」


 正確には2人だがな。俺は戦力外だ。


 すると2号が答える。


「あ? 声変わりもしてなさそうなガキんちょよ。俺たちを舐めてもらっちゃ困る。それにテメーこそ、危ないって言ってる割にヒュドラのところまで来てんじゃねーか」


「そ、それは、大きな音が聞こえたから、心配で……。と、ともかく逃げましょう!!」


 そんな感じで俺たちを説得する黒ローブ。それを聞いて俺は、


「だってさ! はい。ということで今回はこの辺で終わっていきたいと思います。ご視聴ありがとうござ」

「何勝手に話進めてるのかしら、このパンイチは」

「…………すみません」

「そうだぞパンイチ。ここからが本番だ」

「お前もパンイチだろ」


 やんのかぁ? と俺と2号は取っ組み合いをこんなところで始める。


 エナは若干恥ずかしそうな顔をしてため息をつく。黒ローブはあわあわと慌てている。


 その時、咆ッッッッ!!!! ヒュドラが天に目掛けて雄叫びをあげる。そして、 7つの頭がそれぞれ口を開け、毒々しい玉のような物を作る。怪獣が光線を溜めているようなものであった。


「や、やばいですよあの攻撃は! 以前あの攻撃をした時に、半径5キロほど毒の雨が降り注ぎました!」


 慌ててそう言うと、


「早くここから逃げまs」


「アホだな少年。雨だろうが槍だろうが、俺はそれすら斬りたいね」


 カッコつけてるけど、雨は斬れないだろ。


「同感だわ。私もあーゆーのを殴ってみたいわ」


 同情してるけど、雨は殴れないだろ。


「異議だな、おふたりさん。俺は今すぐにでも逃げ出したい」

「「なんか言ったか?」」

「いえ、何も」


 2人に睨まれ、俺は恐縮する。


「すまんな少年。この脳筋バカどもは、毒の雨と戦いたいらしい。ぐすん。遺言預かってくれるか?」


 俺は泣き目になりながら、黒ローブに伝える。すると彼は、


「何言ってんですか?! ここで死ぬなんてアホらしいですよ!! それにボクは少年じゃなく、女だ!!!」


「「「…………………………は???」」」


 刹那、砲ッッ!! とヒュドラがその口に溜めていた毒の塊を空へと放つ。7つの玉は、空で融合し爆発を生み出す。


 そんな危険な状況になっているにも関わらず、俺たちは放心状態であった。その理由はもちろん、黒ローブの女発言だ。


「お、お前女……なのか?」

「ええ、そうです。しかし今はそれよりも」

「ありえん!! 貧乳より貧乳じゃないkグハァ!」

「アンタは黙ってなさい。刀変態」


 ぺたんこ、失礼エナにみぞおちに殴りを入れられ、倒れる2号。


「今はエンハンス3状態を解除してるけど、いつでも出力をあげれるわよ?」


 俺はその痛がってる様子を見て、高笑いをする。


「こ、この緊急時にアナタたちは何をやってるんですか?! ホントに死にますよ?!」


 黒ローブが俺たちにそう言ってくると同時に、空には毒々しい雲ができた。


「まぁ、ここで死ぬのは嫌だけど、半径5キロの雨なんて避けれないだろ」


「そうね。良い人生だったわ」


「…………いてぇ」


「あーもー!! アンタらはホントにバカパーティですか? ボクがやりますよ!」


 そう言って、彼じゃなくて彼女は、杖を構える。


「召喚 アルマジーロ!」


 その言葉とともに前方に巨大な魔法陣が出現し、光出す。生物の鳴き声が鳴り始め、その魔法陣から巨大なアルマジロのような生物が現れた。


「…………ッ。デケェ」

「な、大きなアルマジーロね。報酬いくらかしら?」

「…………いてぇ」


 何やら不穏な声が聞こえてきたが今は無視だ。


 そのアルマジーロは俺たちを包むように移動する。


 ザァァ!! と毒の雨が降り始めたのはその時であった。


「おーおー、スゲェー雨だな。スゲェー」


「語彙力が子どもねパンイチは。あとさっきからうるさいのよ刀変態!」


「あ? どこの貧乳のせいだ、こら?」


「まだ殴り足りないらしいわね?」


 そう言って、2人はアルマジーロの中で暴れだす。黒ローブがあわあわ言って焦っているが、俺は無視して質問する。


「おい。少年のような少女で、一人称がボクのパーティメンバーで良くいるロリ枠敬語系、質問があるんだが」


「…………? 何のことか分かりませんが、ボクに言ってます?」


「このアルマジーロは毒の雨から俺たちを守ってくれているみたいだけど、平気なのか?」


「やっぱりボクに言っていたんですね? ぶち殺しますよ。まぁ、ボクのアルマジーロのウロコは特殊で、ヒュドラの毒でも平気で耐えます」


「ぶち殺しますと聞こえたんだけど」


「やっぱりボクのアルマジーロはすごいですね!! 毒の雨から守ってくれますよ!」


「…………ソウダネ」


 そんなことをしていると、毒の雨が上がった。アルマジーロというモンスターは、黒ローブが解除と言うと、光に包まれ消えた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 雨が上がっちまった……」


「アンタのせいよ!! アンタが私をバカにするから!!」


「うるせぇぞ! バカにはしてねーよ。事実だろ!」


「このクソ変態がァ!!」


 なんだろうこの気持ち。この2人がこんなやり取りをしているのを見ると、心が痛い。


 嫉妬か? しかしエナには好意はないはず……ま、まさか、俺は2号のことを……。


「オッオェ、オェー」


「ど、どうしたんですか?! 急に吐き出して。パンイチで吐くなんて規制入りますよ?!」


「う、うるせぇ。変な想像したからだ。気にするな」


 その時、ズドォン!! と三階建ての家の大きさ以上のヒュドラが俺たち目掛けて動き出した。


「や、やばいですよ。いよいよヒュドラがこちらにきます!! 逃げましょう」


「だからここまできて逃げれるかよ。俺はアイツをここで倒すぞ」


 2号の言葉を聞いてより慌てる黒ローブ。するとエナが言う。


「逃げるって選択はないけど、どのみちあの目を潰さないとキツいわね」


 そのエナの言葉に2号はうんうんと首を縦にふる。俺は嫌だ嫌だと首を横にふる。


「……皆さん逃げないのですか。ならボクも手伝いますよ」


 いや、俺は逃げたいんだけどね。


「そうですよね、1000万ゴルドの大金モンスターですもんね。ここで倒したいですもんね」


「え? そんな大金なの?」


「ええそうよ。こんな大金目の前にして帰れるわけないでしょ」


 その言葉で俺の心に光が宿る。それほどの大金があれば、服のひとつくらい買ってもらえるかもしれないからだ。


「ったく、お前らには世話かかるぜ。ささっと倒しに行くぞ野郎ども」


「「どの口が言うんだ??」」


 2号とエナに突っ込まれるが、俺は気にしない。しかしそんなことより、さっきから“この変態眼”でヒュドラを見てるのに、全然更新されない。


「じゃあボクが目をつぶすんでお3人はヒュドラをお願いしますね?」


「「任せとけ」」


 俺は……何もできんなこれ。


 黒ローブは俺たちの前に立ち、杖を構える。


「召喚 フライハアト」


 その言葉とともに魔法陣が展開され、光に包まれる。そして、バタバタと大きさ3メートルくらいの鳥類が現れた。


 その姿は、ハトであった。


 ハトかよ。ハアトって、ハトの文字を無理やりいじったのかよ。しかもフライって……飛ぶって意味じゃねーか。飛ぶハトですか? 当たり前じゃねーか。この世界のモンスターの名前が色々と雑だろ。作者しっかり考えろよ。


 すると、そのフライハアトは高く跳び上がる。黒ローブが指示を出す。


「ハアト! フェザーカッター!!」


 その指示でフライハアトは、自身の羽をヒュドラ向かって打ち出す。


 グシャッ! と何とも気持ち悪い音が鳴り響き、ヒュドラは奇声をあげる。その目からは、血が流れていた。


 うわ……グロい。てか、ハアトって呼ぶのかよ。フライどこに行った?


 俺がそんなことを考えていると、黒ローブが俺たちに言う。


「今です!! 14個の目は潰しました!!」


「良くやったぞ、自称少女よ! ここからは、」


「ナイスよ! 男か女か分からない子よ! ここからは、」


「完璧だ! エナより超ぺたんこよ!! ここからは、」


 俺たち3人は同時に言う。


「「俺[私]たちに任せろ」」

「アイツらに任せろ」


 そう言うと同時に3人は行動を始める。


 エナは、エンハンス3再開と言う。その体からは、真っ赤で紫色の電気を帯びるオーラが出ている。


 2号は刀を構える。その体からは青いオーラが湧き出ていた。


 俺は、その場から一目散に逃げ出す。眼を閉じ、少しでも体力に回す。


 いいか? 強敵がいたら逃げる。それがヒーローってもんだ。


 咆ッッッッ!!!! と今までで一番の叫び声を上げ、7つの頭が暴れだす。目が見えてない影響か、その首同士が絡まったりしている。


「ハァーーー!!!」


 そう気合を入れる言葉を出しつつ、エナは3人に分身する。それぞれが空中を凄まじい速さで殴り始める。


 バチッ! バチッ! と電流の音がする。その空中に、空気が丸みを帯びて収束していく。そして、業ッッ!! とその空気玉に電気が交錯して炎を纏う。


 そして。


 殴ッッッッ!!!! 3つの火炎玉を3人のエナが力を込め殴る。


 レーザービームのようにその火炎玉は、暴れているヒュドラへと向かう。


 爆ッッ!!! その体に当たった火炎玉が弾け、ヒュドラを真っ赤な炎で包み込む。


 その技を打った本人は、分身は解けその場に座り込んでいる。


 弱点である炎に包まれ、さらに声を上げ暴れるヒュドラに、2号が攻撃する。その技は、


「睦月 伊邪那岐(イザナギ)


 青のオーラに包まれた彼の目が、凄まじい光を放つ。


 その極限の状態で、ヒュドラへと飛翔する。


 2号とヒュドラが交錯した時、音が遅く聞こえてくるほどの並外れた爆発と光が起きた。




 そしてだ。





 俺たちは死ぬ気で走っていた。


「おい!! 何で俺たち走ってんだよ!!!! ヒュドラを倒したヒーローじゃねーのかよ?」


「ヒュドラが放った毒雨に、倒されたときに起こった毒の地下水浸食。これが起きて街に被害が出ました。それをヒュドラに戦いを挑んだお前らのせいだと、街の人たちが怒ってるからですよ!」


「クソみてーな街だな!! ヒュドラという害悪を倒したのに、それよりも酷い扱いされてるんのかよ!」


「……それで、街の人たちがヒュドラ討伐金を渡してくれるなら、許すと言ってきましたが……」


「い・や・よ!! これは私のお金なの!! 絶対に渡すもんですか!」


「ハハハ、いいぞ貧乳!! その金は俺たちのだ。あんな街の奴らにあげれるか!」


「今、貧乳って言っt」


「言ってないです」


「しかも俺『たち』のではないわ。私のよ」


「し、しかし、エナさん。お金を渡さないと、この街の精鋭たちがずっと追ってきますよ」


「諦めろ黒ローブ。エナはお金に関しては鬼のように厳しい」


「誰が鬼ですって?」


「で、でも、エナさんも2号さんもそう強気の割には、先程の戦いで体力切れになって、ボクのジャカールに乗って、寝込んでいる状態じゃないですか」


「少年のような少女よ。そこに突っ込んだらおしまいだ」


「別に疲れてはないんだけど? たまたま眠くてね?」


「あーー! ダメだこの人たち」


「ハァハァハァハァ、なんで一番ステータスが低い俺がずっと走らされてるんだよ!! そろそろ変われ!」


「「お前[アンタ]何もしてないだろ」」


「…………すいません」


 俺たち、何故か一緒に走る黒ローブを含めた4人とモンスター1匹は、丸々2日間ライトに向かって、ヒュドラの街の精鋭たちから逃げた。

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