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この眼の名前は!  作者: 夏派
三章
19/22

ヒュドラ戦

 2日目 朝


「いてててて、ホントに昨日は死んだかと思った。走馬灯が見えたぞ」


 俺は草むらの上で伸びをする。隣には同じくパンイチの剣士、2号がいる。彼は笑いながら俺に言う。


「いやー、昨日のあれは傑作だったな。お前、骨も内臓も全部ぐちゃぐちゃになるくらいには、攻撃されてたけど、よく治ったな」


「笑いごとじゃねーぞホント。これがギャグ系の物語だから、傷は次の話で治ってるけど、良くあるファンタジーもんなら、全治何週間だぞ。……いや、そもそもファンタジー系のチート使いは、こんな風にはならずにハーレムを満喫するもんか……」


「……お前、時々よく分からないことを言うよな」


 気にするな。と俺は一言言って、朝食へと向かう。


 朝食の時間で、俺はエナに必死に告白の件を弁明した。彼女の顔が何度もピキピキしていたが、殴られなかったのは僥倖(ぎょうこう)だ。それでいて、エナももう諦めたのか俺に、


「あーもー、分かったわよ。あの件は水に流してあげるわ」


「まじですか? エナ様! ありがたき」


「……そのかわりに、今回の報酬は全部私のものになるけどいいわね?」


「「あ、別にそれは最初から分かっていたわ」」


 その返答は2号も同時に言った。俺たちは久しぶりにちゃんと笑った。



 3日目 ヒュドラのいる街


 なんか展開早くないですか? と思っても言っちゃダメだ。テンポ良く行くのが異世界ファンタジーであり、ギャグ系なのだから。


「ふー、やっと着いたわね」


「長かったな流石に。まさか3日も歩くとは」


「俺なんて力もないのに、荷物持たされてるし、骨バキバキに折られるし、不幸だ」


「業得だろ」


 2号がそう自業自得を略して言い、俺たちは街へと足を運b


「ねぇ、2人ともどこ行くの? 街に入ったってお金ないんだから、なんもできないわ。ささっとヒュドラの谷へ行くわよ」


「「………………は?」」


「いやだから、お金ないから街なんて寄らないわよ」


「……旅の疲れ癒さないの?」


「癒さないの」


「……他の街観光しないの?」


「しないの」


「「はぁーーーーー」」

 

 エナの言葉を聞いてため息を吐き、俺と2号はトボトボと歩き出す。


 なんてこった。初めて他の街まで来たのに、街の中には入れないなんて……。どれだけお金ないんだよぺたんこのやろう。


 エナとは、ライブ事件の前までの関係には戻った。これで殴られることにはなったけど、あのモヤモヤとした関係よりはずっとマシだ。


 疲れきった足で歩くこと、K分後。先程までの街らしい景色は消え、重々しい雰囲気になってきた。


 枯れた木、舗装されていない道、所々紫色の水たまりがある。


 俺の直感が言う、もうあと2分も歩いたら、目的のモンスターが居ると。


「ふー、やっとここまで歩いてきたわね。あと30分くらいで、ヒュドラのいる谷よ。……? 何落ち込んでるの1号」


「…………何でもない」


 俺はより一層重くなった足で、30分ほど歩いた。


 ヒュドラの谷への最後の道は、下り坂だ。その道は、横側に毒々しい紫色の結晶があったり、ボコボコと泡を出している毒々しい毒たまりがあった。


 坂を下ると、巨大な紫色の池があった。肝心のヒュドラはいなかった。


「おい、ヒュドラはどこだ? まだ先と言うのか?」


 俺の発言に、はぁ? と言う顔をするエナ。


「パンイチは何も知らないのね」


「おい待て、パンイチだと俺もそのバカに含まれる」


 あっそ。と2号の言葉を切り捨てたエナは、近くにあった5メートルほどの岩を両手で持ち上げる。


「……ッ! どんな力だ。……それをどうするつもりだ?!」


「ヒュドラを呼び出すのよ!!!」


 そう宣言し、その岩を池目掛けて投げつける。


 沈ッッ!!! 岩が水面に衝撃を与えることで、池の水がこちらへと跳ねてくる。


 落ちてきたその滴は、転がっている岩に当たると、シュワーとその岩をすぐに溶かした。


「…………え? 溶けた?」


 俺がそんな感想を呟くと、2号が荷物を横に投げた。そして彼は、刀を構える。


「おい、くるぞ。ヒュドラが!!!」


 咆ッッッッ!!!! 獣の叫び声がすぐ近くから聞こえた。


 顕ッッ!! エナが岩を投げ入れた毒々しいその池から、あまりに巨大なドラゴンの顔が現れた。その頭の数は、神話通り9つ。


「な、な、デカ過ぎだろ!!!」


 池から現れたヒュドラの大きさは、目測することができなかった。敢えて例えるなら、三階建ての家一軒ほどの大きさは軽くあった。


 ヒュドラが池から出てきたことにより、毒の水が波を生み出し、こちらへと向かってくる。


「や、やべー! 逃げねーと!」


 俺がそう言って来た道の方を向こうとした時。


「テメーは逃げる気か? 1号!」


 そう言って、刀を抜いた2号がその波へと突っ込んでいく。


「葉月 炎波(えんか)!!」


 彼はそう言い、炎を纏った刀を横一線に虚空を斬る。


 刹那、刀の炎が乱舞し火の波を作る。火の波と毒の波が衝突し、相殺される。


「逃げるなんてダサいわね、パンイチ。刀変態でも見習いなさいよ」


 いや、あの巨大な生物を見て逃げ出さないのは、チート使いだけだろ。


「さて、私もやるわよ! ひっさしぶりの強敵で楽しみだわ!!」


「こんな奴と戦うのが楽しみって、戦闘民族かよ……」


「あ? なんか言っt」


「いえ、滅相もございません。(わたくし)後ろで見学しています」


 俺はヒュドラから逃げるように後ろへ走り出す。


 べ、別に怖いから逃げてるんじゃないからね?! 俺がいると? 迷惑かかるし? ね? 俺だって? チート能力でもあれば? 戦ってるんだからね?!


 そんなことを考えているうちに、戦況は変化する。


 9つのうちのひとつの頭から、毒の刃のようなものが吐き出され、2人を襲う。


「葉月 熱風(ねっぷう)


 2号は刀を右上から左下へと振り下ろす。刀に纏ってある炎が踊り、火の風となってその毒刃を触れ合い、溶かす。


「エンハンス2!!」


 エナの方はエンハンスを使う。いつもより赤く、それでいてバチバチと電気が流れているようなオーラを纏う。


「日頃のストレス発散!!!!」


 彼女はそんな気合いとともに、毒刃へ向かって拳を炸裂させる。その拳は毒刃には当たらず寸止めされる。


 風ッッ!!! その拳の風圧で、毒刃はベクトルを変えられ、サイドにある岩や石に飛ばされる。


「…………あのぺたんこやべー。拳の風圧だけで、ヒュドラの攻撃を受け流すのかよ」


 なんか言った?! と遠くからエナが叫んでくるが、俺はそれを無視しつつ、目を閉じる。


 俺も少しでも役に立たないとな。せめてこの眼でヒュドラの特徴でも理解しておくか。


 俺は念じ眼を開ける。


 黄色のフィルターを通して見たようなその視界で、ヒュドラをとらえる。


 文字が浮かび上がって来た。そこには、


 《好きなもの:人の肉 嫌いなもの:炎》


 ……なんて怖い好きなものだ。俺たちここにいていいのか? いや、今はそれよりヤツの嫌いなものが炎と分かったことが、優先だ。エナたちに伝えないと。


 エナはヒュドラの毒光線に、2号はヒュドラの毒霧の対応をしていた。


 エナはその光線をアニメの忍びのような動きで華麗にかわす。2号は毒霧に対して、これまた炎を纏った刀で応戦する。


 俺は彼らに向かって大声で叫ぶ。彼らに確実に伝えたかったからだ。


「おい! ヒュドラの弱点が分かったぞ!! コイツは! 炎に弱い!!!」

「「知ってるわ!!!!」」


「………………へ? 知ってるの?」


「ったく、弱点って聞いて期待させんな変態!」


「ホントよ! ヒュドラは炎が弱点なんて絵本にも書いてあることよ?!」


 ぐすん。そんな責めなくてもいいじゃないか。


 俺が不貞腐れてる間に、ヒュドラはその長い首を活かして、エナと2号に直接攻撃を仕掛けてくる。


 咆ッッ!! 地を這うようにその巨大な頭が、キバある口を開けてエナたちを飲み込もうとする。


 だが彼女らは、臆さない。


 エナはふーと呼吸を入れて、


「分身!!」


 というと同時に、エナが3人に増える。そのうち2人が突っ込んでくる首の横側に移動する。


 その場に残ったエナは腕組みをし、ヒュドラの頭をじっと見る。


 エナが食われるその刹那。


 ベコッッ!! プラスチックを潰すような音とともに、ヒュドラの首の左右に回っていたエナが、その首を思いっきり蹴り飛ばした。


 その蹴りでできた跡は、小さなクレーターだ。


 蹴りをいれたエナはシュンと消えるが、腕組みをしているエナは無事だ。


 一方の2号は、


「チッ、痺れをきらしやがったな首長竜がよォ。その自慢の首を切断してやるよ」


 向かってくるそのヒュドラの頭を見据えて、刀を抜刀する。


「葉月 煉獄(れんごく)


 獄ッッ!!! 先程の何倍までの炎がヒュドラの頭へと襲来する。頭に炎が触れた瞬間、その炎とヒュドラの体に纏ってある毒とが激しい押し合いをする。その炎が消えた時、断ッッ!! ヒュドラの首が切断された。


「つ、つぇーーー。毒を纏ったモンスターにアイツらビビってないぞ。ホントに倒してしまいそうだ!」


 しかし喜んだのも束の間。倒されていない7つの頭が一切に、エナと2号に襲いかかる。


「ッッ、ヤベ! 師走!!」

「ヤッバ! エンハンス3!」


 頭をひとつずつ倒したエナ達は、一瞬のうちに、何十メートルも離れた俺のところへ飛んでくる。


 流石にヒュドラの頭もここまでは届かないようだ。


「ふー、あぶねあぶね。しかしアレだな。目の数があんだけ多いと、死角がねーから戦いづらい」


「変態刀に同情するわ。頭をひとつ倒しても、次々攻撃がくるから、エンハンスレベル3まで使ってしまったわ。長時間はもうもたない」


「おい、今変態刀って言ったか?」

「うるさいそのお口、文字通りチャックにしてあげましょうか?」


「…………お前らすごいな。こんな時でも冗談を言えるのか」


「アホねパンイチ。ギャグ系なんだから言わないとダメでしょ?」


「…………仰せのままに」


「やっぱり、あやつの目を潰さないときついな」


「ホンソレね」


 ぺたんこ、ホンソレとか言うのかよ。


 俺がそんなことを考えていた時、後ろから歩く音が聞こえた。


 振り返ると…………。

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