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この眼の名前は!  作者: 夏派
三章
18/22

ヒュドラへの道

「つ、疲れたぁぁ」


「ハァハァ、だらしないな1号は」


 俺は額から流れる汗を腕で拭いつつ、


「ハァハァ、そう言うお前こそ、もうくたくたじゃないか」


「ふ、ここから本番だぞ。そんな疲れてたまるか。サァいくぞ!!!!」


 おっと。ここで一回言っておくと、決してパンイチ2人で変なことをしているわけではない。


 俺たち3人のパーティはヒュドラクエストのため、ヒュドラがいる場所へ3日間ほど歩いていた。


「ちょっと変態たち! アンタら疲れすぎよ。私を見習いなさい」


「「そりゃてめーは、荷物持ってねーからだよ!!」」


 なんで俺はこんなに辛いことを、異世界に来てやってるんだろ?


 


 3日前 ギルド


「「「ヒュドラだと??!!!!!」」」


 ギルド中にいる人が、2号に注目する。驚きの声がこの施設中にこだまする。


「じゃあ、俺たちヒュドラ討伐のために準備があるから。ここらへんでずらかりますわ!!」


 そう2号が言うと、彼は俺とエナの手を引っ張って、逃げるようにギルドから飛び出していった。


「ちょ、ちょ、どゆこと?!」

「ねぇ2号、私ヒュドラクエストなんて聞いてないんだけど?! 確かに討伐金は高いから魅力的だけど」

「うるせぇ!! これはお前らのためでもあんだよ! 黙ってついてこい」


 


 E分後 エナハウス


「ったく、急にヒュドラクエストするなんて困るのよね。まぁ倒せれば大金手に入るから、今回は許すわ」


「そりゃどうもエナさん」


 エナの家に走り逃げてきた俺たちは、ヒュドラクエストのために、荷造りをしていた。


 帰りながらヒュドラについて聞いたところ、ヒュドラはここから馬車で1日かかる街の外れにある、谷にいるらしい。その強さは異常で、どうやらなんでも溶かす毒を吐くとか云々。駆け出しの街ライトの冒険者では歯が立たないらしいが、2号は俺とエナ交際説を闇に葬るために、わざわざこのクエストを選択したのだとか。


 いや、アホやん。確かに2号やエナは素人目で見ても強いとは思うけど、毒に剣や拳で勝てると思ってるのか? いや、そもそも討伐などどうでも良くて、ギルドから日を空けるということが狙いなのか……?


 俺が1人考察していると、2号が声をかけてくる。


「おい1号、荷物持ちジャンケンするぞ」


「……は?」


「いやだから荷物持ちだって! テントとかあるだろ?」


「ああ、そういうことか。馬車の場所までは自分たちの力で持っていかないといけないもんな」


「そういうことだ。気づくのが遅ぞ」


 そんな団欒(だんらん)をしていると、エナが会話に混ざってきた。


「2人とも何を言ってるのかしら? 馬車なんて使うお金ないわよ」


「「………………まじ??」」


「ええ大マジよ。3人で片道12,000ゴルドよ。そんな大金叩けると思ってるの?」


「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! そんな馬車で1日かかる距離歩きたくない!!」


 俺は叫び始め、その場に転がる。それは子供がオモチャを買ってもらえない時に駄々をこねるようなものだ。


「いーやーだー! いーやーだー! 歩きたくない!! 荷物も持ちたくない!! ヤダヤダヤダヤダヤダヤダ!!!」


 18のパンイチの男性が駄々をこねる様子は、通報されるレベルだ。いや、そもそもパンイチの時点で通報もんか。


 2号は、カレーを溢してしまった給食係を見るような目で俺を見てくる。おっと、読者のトラウマを刺激してしまったかな?


 いつもこんなことをすると、顔をピキピキさせるか、共感性羞恥を発動させるエナは、俺の横にしゃがみ込み。


「一緒に頑張ろ?」


 と顔を赤くして、俺の手を握ってくる。


「……ッッ??!?!」


 俺はすぐに手をほどき、立ち上がる。


「よし!! ささっと行くぞお前ら!!」


 そう言い、エナから逃げるように荷物を持ち歩き始めた。


「「そっちじゃないぞ[わよ]」」


 過去一恥ずかしかった。





 歩き始めて1日目 夜


「今日はここらへんで、テントでも立てて休みましょうか」


 荷物もなんも持っていないエナがそう言う。アンタ俺より力あるんだから、持ちなさいよ。


 ライトの街を出てから、どれくらい歩いたかは分からないが、身体的精神的にもうキツかった。


 ハァハァハァハァ、キツすぎる。体感富士山5回登ったくらいのキツさだ。ちなみに富士山は登ったことはない。


 隣を歩く2号は、俺よりも重いテントを背負っているが、キツくはなさそうだ。


 これが無職と剣士の差か……。


「どうした? 1号。すげーキツそうだが」


「キツいんだよ! お前と違ってパワーも体力もねーからよ。早くテント立てて寝よーぜ」


 へいへいと2号は乾いた返事をして、テントの組み立てを始める。


 10分もしないうちにテントは出来上がった。貧乏性のエナが保有しているからなのか、このテントは2人くらいしか寝るスペースがなかった。


 俺は焚き火のための薪を並べつつ、テントを立てた2号に話しかける。


「随分小さいな。2人入るかどうかだぞ、それ」

「流石は貧乏性のテントだ。俺たちは外で寝る羽目になりそうだ」

「その言葉エナの前では言うなよ。外で寝るなんて初めてだ」

「俺はいつもそうだったからな。久しぶりで楽しみだ」


 そんな会話をしていると、エナがご飯よと呼んでくる。


「外で食う飯は楽しみだな。道中で倒したラビトの肉かな」


 ラビトとは、道中に出てきたウサギ型のモンスターだ。可愛らしい姿であったが、エナはそれを容赦なく殴り倒した。


 俺らはそう期待を膨らませ、食事へ向かう。そこにあったのは。


「「また、モヤッシーかよ!!!!」」


 エナはその言葉を聞いて、いつも通りのピキピキを入れる。


「何かしら? 文句があるのかしら? 黙って食べなさいね?」


「「…………………御意(ぎょい)」」


 俺たちは何も喋らず、キャンプモヤッシーを堪能した。ちなみに味は家で食う時と何も変わらない。


「おい貧乳。ラビトの肉はどこやっt」


 蹴ッッ!!! 久しぶりにエナがキレて、蹴りが2号の鼻先で止まる。


 もちろんその風圧で彼の顔は、鼻の穴が広がるような顔になる。


「おいおい、ぺたんこ。そんなキレなくて……ハッ」


 しまった。2号の貧乳発言につられて、俺もぺたんこと言ってしまった……エナに殴られる……。


 俺がそう覚悟した時、


「ラビトのお肉は後で売るために残してあるのよ。それを伝えなくてごめんなさいね」


 そう俺に頬を赤くして言ってくる。


 俺は寒気が走り、2号に伝える。


「(おい、エナのやつ。ホントにヤバくないか?)」


「(自業自得だろお前。しかし恋愛脳を刺激するだけで、ここまでくるとはな)」


「(ここまで優しいと軽く恐怖を覚えるぞ)」


「(俺には優しくはないがな)」


 そんな会話をしていると、ご飯も食べ終わった。ごちそうさまと言い、俺と2号は立ち上がる。


「じゃあまた明日なエナ。俺らはあっちの草むらで寝てくるわ」


「ふ、感謝しろよ。お前のためだけにテントを立ててやったんだからな」


 そう言って俺たちは草むらへと歩き始める。その時、ギュッと俺の手が握られた。


「……へ?」


 もちろん握っているのはエナだ。彼女は俺にこう言ってくる。


「い、い、一緒に…………寝よ?」


 俺の思考が停止……


 喝ッッ!!! 俺は停止する前に舌を噛んだ。意識が遠のくのを防いだのだ。


 エナのやつ……ホントにあの告白まがいなことでここまでくるのか……。いや、ここで誤解を解くか。


「なぁエナ」


「なぁに?」


 俺はエナの方を振り向いてから言う。


「確認だけど、なんで昨日一緒に俺たち寝ていたんだ?」


 それを聞いたエナはモジモジしつつ答える。


「そ、それは……き、昨日フウタがわ、た、私にこ、告白してきて……嬉しくて……それで、ライブ会場で倒れているのを見つけて……そのままの気持ちで……」


「OK把握できたぞ」


 俺は一呼吸置いて、


「エナしっかり聞いてくれ」


「……うん」


 その言葉で2号は俺たちの様子をガン見する。彼もどうなるのか気になるようだ。


 ここでもう一度好きといえば、俺たちは付き合うことができるだろう。俺の人生初の彼女だ。しかし……はっきり言うとエナは可愛いとは思うが、残念ながら俺のタイプではない。それに俺は大好きとは言ったが、それはあの場で逃げるための技だ。加えて言うなら、あんな形で付き合いたくないし、物語的にも恋愛関係は早すぎる。あれは焦らすから良いのだ。そして何より……俺は恋愛として好きとは一言も言っていない。ここまでくれば勘のいい読者は気づいたか?


「エナ……昨日言ったことだけど、あれ、仲間として大好きなだけで、決して恋愛的に好きとかそう言うもんじゃ」


 殴ッッ!! 蹴ッッ!!! 破ッッ!!!! 壊ッッ!!!!!! 絶ッッ!!!!! 殺ッッ!!!!!!!


 俺の言葉が言い終わる前に、顔を赤くして涙を浮かべつつ、過去一のピキピキを入れたエナの、空前な攻撃が俺の体を破壊する。


 空中何十メートルまで飛ばされた、俺は意識が遠のく中思ったことを言う。


「……嘘はつくもん……じゃねーな」

  

 落ッッ!!! 近くの湖に俺は隕石の如く落下した。

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