運命のライブ
目が覚めたら……はい。いつも通り拘束されていました。ちゃんと目の前にもパンイチの変態がいます。
俺とヒロトは目が合う。俺は言う。
「テメェ良くも昨日は勝手に逃げてくれたな。おかげで変態の烙印を押されちまったじゃねーか!」
「あ? お前が勝手に俺の肩に手を置いてきたんじゃねーかよ。それに街をパンイチで歩いてる時点で、変態だよ!!」
あの夜。女湯で土下座をするという奇行に走った俺は、そこにいた女性たちに、ゴミより酷い扱いを受けた。エナは無言で俺の顔を何十回もビンタしてきた。その後、変態には外出させないと、ロープで拘束されたのだ。
俺はジンジンと痛む頬を気にしながらヒロトに言う。
ギャグ系のくせに、次のシーンでは怪我が治っていねーのかよ。
「それにしてもお前は昨日あの後どうなったんだ?」
「…………あの後男湯に戻ったはいいが、そこでは男性の客に、変態が帰ってきたぞ! と叫ばれその場で捕まったんだよ」
「……うっわぁ」
全裸の男を全裸の男が捕らえるシーンを想像してしまって吐き気が俺を襲う。
しかしな。とヒロトは語る。
「もう過ぎてしまった事はどうにもならん。正装でキカ様のライブに行く事はできないが、ライブそのものがなくなったわけではない」
「ああそうだな。あとどれくらい時間があるんだ?」
俺はそう言いつつ、壁にある時計を見る。針は4時半を指していた。
「ライブは17:00からだ」
「なら平気か。時間はまだまだたっぷりあるな」
俺が安心しきって言うと、ヒロトが首を横に振る。
「馬鹿か。外を見てみろと、もう夕暮れだ」
「…………え?」
俺は顔を横にして、窓の外を見る。この世界でいう太陽が、地平線に吸い込まれている。
「……マジですか。あと30分しかないぞ」
「そうだ。ここから会場までは走ればギリギリ間に合う。だがその前に、このロープをどうにかしないとな」
ヒロトは自分を縛っているロープを、なんとか動かそうとしている。
「ふっ、ロープ歴が俺より少ないお前らしい行動だ」
俺はそう言って、ブチんとロープを切った。
「なっ……なぜロープを?!」
「いつロープから脱出しなきゃいけない時が、あるか分からなかったからな。俺は普段からこのロープを椅子に擦り付けて、弱らせておいたんだよ。だからやろうと思えば、いつでも切れる状態にしてたわけだ」
おお。と感嘆の声をあげるヒロトのロープをほどき、ヒロトは刀を持ち立ち上がる。
「さて、ここから会場へ向かうのに障壁があるな」
「そうだな。まずは、」
「「エナに見つからないようにしないと」」
会場へ行くためには突然この家から出る必要がある。しかし、エナにもし見つかれば、半殺しにされるのは確定だ。
「おそらく今エナは、下の階にいるだろうな」
俺は無言で頷き、ゆっくりと窓へと向かう。
ヒロトが窓をゆっくりと開け、俺の手を取り2階から地面目掛けて、落下する。
パンイチの男がパンイチの男の手を取り、脱出する図は客観的に見なくても酷い絵面だ。
彼は乾草の上に着地して、音を最小限に抑える。
はずであった。
ドォドン!! と大きな音ともにヒロトは着地をミスり、地面に尻から落ちた。
俺はその反動で変な形になり、ヒロトの上に乗ってしまう。
その格好は第三視点で見るなら、パンイチの変態がパンイチの変態に、ラッキースケベをしている形であった。
俺は自分の左手が何かに触れていることに気づく。恐る恐る見てみると、
「キャャャャャャャャャャャャャャャャャャャャャ!!!!」
俺は黄色い悲鳴をあげる。
「てめーー! 人のを勝手に触っただけじゃなく、悲鳴まであげんじゃねーぞ!!」
「うるせぇぞ!! 俺だって触りたくて触ったわけじゃねーんだよ!!」
なんだと?!?! と俺たちはそこで意味もなく取っ組み合いになる。
そんなことをしていると、ガチャと家のドアが開いた。
俺たちはその取っ組み合いを急にやめて、一目散に駆け出す。
そこには、顔をピキピキさせているエナさんがいた。
「アナタたち、何してるのカナ(ハート)」
そんな声が聞こえたが、俺たちはガン無視して走る。
「やばいやばいやばいぞあれ。エナさん怒っちゃってるよ」
「くそ! 今あいつと殺りあってる時間はねーぞ」
今アナタ、不穏な漢字使わなかった? と俺は思いつつ、全力で走る。
「——————」
エナが何かを言って、淡い赤色のオーラを纏って、こちらへすごいスピードで走ってくる。
「ヤバイぞあのスピード! このままじゃ追いつかれる!! おい、フウタ。エナから振り切る策はないのか?!」
俺はしばしば頭を回転させて、立ち止まり後ろを向く。
「何やっt」
ヒロトがそう言つつ、俺が立ち止まったことで彼も立ち止まる。
エナがもうスピードでこちらへ向かってくる。
俺は目を閉じ、念じてから眼を開く。
“この変態眼“
その眼を通してエナを見ると、あることが表示される。
……これしかないか。
俺は心を決めて、エナに向かっていう。
「……エナ!! 大好きだ!!!!!」
「…………は?」
ヒロトがそう声を漏らす。エナは走りを止め、その場に腰を抜かして座り込む。顔がだんだん赤くなっているのが分かった。
俺は眼を閉じ、ヒロトの方を向いてから言い残す。
「じゃ、想いは伝えたからな!!」
俺はまた走り出した。
え?え?え? とヒロトが困惑しているが、俺はそれを無視して走り出す。
俺はこの眼でエナを見た時、そこには《好きなもの:恋愛》と書いてあった。なんとも乙女らしいと思ったが、ここを逃げ切るために、俺はクズ的にもこれを利用した。
告白することで、彼女の恋愛が刺激され、停止するだろうと予想したがうまくいった。
はぁ、成功したはいいが、これから帰ったらどうしましょう。
俺はそんなことを考えつつ、懸命に会場へ向かった。
17:02 ライブ会場
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」
俺たちは叫びながら、ライブ会場の扉を勢いよく開ける。
中は多くの人で賑わい活気で満ち溢れていた。
中に入った俺たちに気づく人はほとんどいなかった。なぜならそのステージ上ではもう既に始まっていたからだ。
そこにいる人たちが一斉に、その人を応援する声をあげる。その人を象徴するようなコールがあり、暗いこの空間も、色彩魔法でそのステージだけが鮮やかに輝く。
パンイチマントと、パンイチ刀の変態に気がついた警備員のような屈強な男たちが、俺たちを押さえに来る。
「「ここまで来て……負けてたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
この叫びは会場の人には聞こえなかっただろうが、俺たちは警備員と取っ組み合いをする。
しかし相手のステータスや経験がモノを言うのか、俺たちは警備員のタックルを喰らい、意識が朦朧とする。
その中でも一瞬だけでも、キカ様をこの目で見ようと、意識を強く持つ。
クソみたいなバイトに、温泉土下座……エナにも告白みたいなことまでしたんだ!!! 絶対に生キカ様を見てやる!!
俺とヒロトが、力を振り絞り目を見開いた時。そのお姿が見えた。
それは。
裸のオッサンが腹踊りをしているシーンであった。
「「………………………………………………」」
愉快なBGMにノリノリのオッサンの横には、《前座》と書いてあった。
そこで俺たちの意識は途切れた。




