イキリYouTuberのド派手な両手投げに大苦戦!?黒の勝負師が仕掛けた、常識破りの作戦は?
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いよいよ一億二千万を賭けた裏ボウリング対決の開幕です。
堂島の圧倒的なパワーに、響がどう立ち向かうのか?
【第6章:劣勢】
「さて、始めるか。裏社会のお姉さんよ」
堂島はバッグからドライレーン用のマイボールを取り出し、歪んだ笑みを響に向けた。
「随分と薄いオイルだな。並の両手投げなら、手前で噛みすぎて苦労するパターンだ。……だが、俺のスピードならただのドライレーンだよ。普段通りだ。残念だったな」
堂島の饒舌を無視し、響は静かにアプローチへと進み出た。
照明に照らされた黒の仕事着が、しなやかな肢体を艶やかに際立たせる。
無言のままボールを構え、わずかに開いたスリットから鍛えられた腿がのぞく。
薄色の唇をそっと閉じると、夜の闇より深い冷徹な瞳でレーンを見据え、その右腕を振り抜いた。
余分な力のない流麗で洗練されたフォームから放たれた深紅のボールは、寸分違わずポケットへと吸い込まれ、短い破裂音とともに10本のピンを弾き飛ばした。
「ほぅ、いい球投げるじゃん!!」
堂島は不敵に笑うと、楽しげにアプローチへと立った。
独特の変則的なステップから、獲物を狩る肉食獣のように鋭く加速する助走。
バックスイングの頂点からダウンスイングに移行する刹那、堂島は両手でがっちりとボールを保持したまま、驚異的な柔軟性で上半身を深く沈み込ませた。
親指を穴に入れない、サムレスだからこそ可能となる、ボールに巻き付くような手首の動き。
全身のバネと体幹のパワーをすべて指先に集約し、引き絞った弓を放つように鮮黄のボールを強烈に押し出した。
超高回転の投球。
猛烈な回転でバックエンドから急激に曲がったボールが、ピンを爆発させたように粉砕した。
それは、まさに破壊そのものだった。
続く2フレーム目。
再びアプローチに立った堂島は、一切の躊躇なく2球目を解き放った。
薄いオイルの上を規格外の球速で一気に滑り抜け、バックエンドに到達した瞬間に猛然と牙を剥く。
鋭角に曲がったかと錯覚するほどの暴力的な軌道で、またしても10本のピンが木っ端微塵に弾け飛んだ。
「フッ、イージーなレーンだ」
堂島はニヤリとボールを弄びながら下りていく。
この薄いコンディションが自分のスピードとパワーを引き立てるための極上の舞台だと言わんばかりに、堂島はその確信を深め、完全にゲームの流れを支配しにかかっていた。
響はそれを視界の端に流すように捉えていた。
2フレーム目、3フレーム目。
男の圧倒的な蹂躙の後でも、響は淡々と投球を続ける。
静かなフォームから放たれたボールは、計算通りにポケットへ運ばれ、乾いた音とともにピンを綺麗に散らしていく。
精密機械のような正確さで、連続ストライクを刻む響。
だが、その静寂を嘲笑うように、すぐに堂島の爆音が会場に響きわたる。
追い討ちをかけるような暴力的なストライクの連打。
スコア画面には瞬く間に『4連続ストライク(フォース)』の文字が並んだ。
会場を吹き荒れるその暴風の前に、響のボウリングは今にも呑み込まれようとしていた。
天井まで届く、全面ガラス張りのVIP観客席。
階下の凄まじい爆音が1ミリも届かない、完全に音が遮断されたその静寂の空間で、富裕層たちは最高級のスコッチを片手に、水槽の魚でも眺めるように眼下の勝負を品評し合っていた。
「全く途切れる気配がありませんね」
「彼の両手投げは凄まじい威力だね。プロが何人も晒し者にされて潰されたというのも頷ける」
「かつての天才少女も、この化け物相手では分が悪いか。……フフ、これは大穴頂きですかな」
悪趣味に勝敗を予想し合うVIPたちの中心で、御堂貴之はグラスの氷を静かに揺らし、完璧に洗練されたセクレタリーの微笑みを浮かべた。
「ええ。堂島の回転数と破壊力は、世界でも指折りですから。並のプロでは太刀打ちできません」
優雅にグラスを傾け、軽く笑みを深める。
「ですが、彼女も裏社会屈指の勝負師。このまま圧倒されるのか、どう食い下がるのか……これからが、最高に見物ですよ」
勝負の緊張感をエンターテインメントとして美しく煽ってみせる御堂。
すると、ソファーに深く腰掛けた老紳士の一人が、口元を歪めてグラスを掲げた。
「私は響くんに賭けているがね、もし彼女がこの後のパーティーにゲストとして参加してくれるというなら……これからの時間は堂島くんも応援せねばならんな」
「ふふ、もし彼女が皆様のパーティーへ馳せ参じてくれるなら、私としてもこれ以上の喜びはありません」
御堂はマジックミラー越しに、淡々と投げ続ける響を見下ろした。 その瞳の奥に宿るのは、勝敗や金銭などどうでもいいという、純粋な愉悦だった。
(……苦悶に歪む顔を、見せてもらおうか)
御堂はふっと我に返ったように笑みを深くすると、優雅に肩をすくめて見せた。
「おっと、私情を挟んではいけない立場だということを、すっかり忘れておりました」
「そうだよ! 御堂くん、ハハハッ!」
「さあ皆様、どうぞ今夜の極上の夜を心ゆくまでお楽しみください」
御堂の洗練された言葉と、その奥に潜む底知れない毒気に、VIPたちは感嘆の溜息を漏らし、卑俗な笑い声を響かせる。
――そんな醜悪な観客たちの視線を浴びながらも、響は顔色一つ変えずにアプローチに立ち続けていた。
だが、堂島の目にはそれが『限界』の証明に見えていた。
自分がカバーの弱いドライ用ボールでレーンを攻略しているのに対し、響が握っているのはオイリー用のボールだった。
薄いオイルの上で、道具のフック性能を強引に活かして食い下がっている。
(道具で無理やり曲げてるだけだ……)
堂島はフンと鼻を鳴らし、歪んだ笑みを浮かべる。
(涼しい顔しやがって。内心は焦ってるんだろ。早く1本残して、そのツラが青ざめるところを見せてみろ)
それでも平然とストライクを重ねる響の姿に、堂島はボールのオイルを拭き取るや否や、タオルをボールリターンに ――パンッ!と放り捨て、あからさまな舌打ちを漏らした。
【第7章:檻に潜む罠】
ピリついた苛立ちを纏ったまま、堂島はアプローチへと足を進める。
迎えた中盤、5フレーム目。
放たれた鮮黄のボールが、レーン上をドリフトのように滑り、鋭い軌跡を描いてポケットへ突っ込む。
――パァァンッ!!
重苦しい爆音を響かせ、その圧倒的な衝撃が10本のピンを叩き潰した。
スコア画面に刻まれるのは、怒涛の5連続ストライク(フィフス)。
だが、アプローチに戻る堂島の表情に、僅かな陰りが浮かんでいた。
(ほんの少し、厚めだったか……?)
ボールの曲がり始めがほんのわずかに手前だったような、奇妙な違和感が指先に残る。
――最新トレンドの『両手投げ』は、凄まじい高回転をボールに与える反面、その回転によるレーンとの接地面の増加によりオイルを大きく削り取る特性がある。
つまり投げるほどに、戦場のコンディションを激変させる――
だが、堂島はそんな事は百も承知の上だった。
(これだけの極薄のドライレーンだ。多少のブレはある……か……)
続く6フレーム目。
堂島は微調整を加え、完璧な再現性をもってボールを放ち直した。
――パカァンッ!!
ピンは激しく弾け飛んだ。
スコアは6連続ストライク(シックスパック)。
だが、堂島の胸の奥に、不穏な悪寒が湧き上がった。
(また厚めだ。アジャストしたはずなのに、それ以上にボールが手前で噛んでやがる……!)
違和感は、確信へと変わっていった。
(レーンのコンディションが、変わってきている……?)
(投球ごとに削れるのは当然だ。だが、この速さはおかしい。俺の想定を遥かに超える早さで、レーンが急激に『遅く』なっている)
「――おい、まさか」
嫌な予感に突き動かされ、堂島はアプローチへ進み出る響の姿を凝視した。
響は何も言わず、オイリーレーン用のボールを構えると、腕を振り抜いた。
オイルの吸着量が多いそのボールは全てのピンを倒しつつ、堂島の通したラインに寄り添い、ゆっくりと舐め上げるようにオイルを削りとっていた。寸分の狂いもなく……。
その瞬間、堂島は固まった。
理解が、追いつかない。
(不可能だ。こんなこと、絶対にあり得ねえ……!!)
脳裏に浮かんだ仮説を、堂島の常識が必死に拒絶する。
(ボウリングは再現性のスポーツだ。同じフォームなら同じ軌道を描く。だがそれは、あくまで自分の球での話だ)
(球速も、回転数も、ましてや真逆の特性のボールで、他人の通した細いラインをトレースし続けるなど、できるわけがない……!)
半信半疑の堂島が、隣のレーンへ目を凝らした。
深紅のボールが、またしても同じラインを正確に通過する。
そして再び、ピンが綺麗に消えた。
(……マジかよ)
(しかも、ご丁寧にサンディングまでしてやがる!!)
表面を曇らせ、オイルへの食いつきを高めたボール。
吸着を増やし、俺のラインを確実に削るための仕様だ。
否定しきれない現実を前に、堂島の喉が小さく鳴った。
スコア画面の「X」の文字が、響にも静かに、だが確実に積み重なっていく。
「……クソがッ!」
響が涼しい顔でストライクを重ねる横で、堂島はアプローチの前で小さく悪態をついた。
かつてないほどの激しい焦燥感が、堂島を支配していた。
(まずいな……。このまま同じラインでレーンが変化していけば、先にポケットを外してストライクが切れるのは、回転数の多い俺の方だ)
(いっそ……奴が真似できそうもないディープインサイドに移って、オイルが多く残っているエリアを使うか!?)
堂島の目が、まだ誰のボールも通っていないレーン中央の厚いオイルゾーンへと向かう。
超高回転の両手投げなら、最内側から外側へ向けて大きくボールを膨らませるド派手なビッグフックが投げられるはずだ。
――いや、駄目だ!
堂島は構えかけたボールを抱え直し、激しくかぶりを振った。
(先にストライクが切れた方が、そのまま負けかねない一発勝負なんだぞ……! この極限状態での大きなライン変更は、あまりにもリスキーすぎる!)
マジックミラーの向こうで、御堂貴之が冷酷に自分を睨みつけている――そんな妄想が脳裏をよぎる。
見えない支配者の恐怖が、堂島の右腕をわずかに強張らせた。
(選択肢はねえ……! 今のラインから、アジャストしていくしかない……!)
――そして、運命の7フレーム目。
アプローチに立った堂島の額からは、大粒の冷や汗が流れ落ちていた。
呼吸を整え、意を決して解き放たれた7球目。
ボールは猛烈な唸りを上げてバックエンドで鋭く曲がり――しかし、枯れ始めたオイルに足を取られ、ヘッドピンを僅かだが厚めに叩いた。
(しまっ――!?)
堂島の顔が恐怖に歪む。
激しい衝撃音とともにピンが弾け飛ぶ中、無情にも『4番ピン』が、その場に微かに揺れながらぽつんと残ってしまった。
誰もが「ストライクが途切れた」と確信した、その刹那。
カコォォンッ!!
信じられない快音が響いた。
右側の壁に激突して跳ね返ってきたピンが、猛烈なスピードでレーンを真横に横切り、残っていた4番ピンを巻き込んだのだ。
倒れたピンたちが転がり落ちるようにして、スイープの向こう側へと消えていく。
――7連続ストライク(セブンインアロー)。
スコア画面に刻まれた完璧なストライクの数字。
その瞬間、防音の施されたマジックミラーの向こう側――VIP席は、奇跡的なピンアクションへの興奮で沸き立っていた。
「おお〜〜!!!!」
「さすがは堂島君、凄まじいピンアクションだ!」
グラスを掲げて盛り上がる観客たちの中心で、御堂貴之もまた、満足げに深く口角を吊り上げている。
――だが、そんな熱狂の光景など、遮音ガラスのこちら側にいる堂島には知る由もない。
無音に遮られたレーンの上で、命拾いをしたはずの堂島は、身の震えが止まらなくなっていた。
(……限界だ。今のアジャストじゃ、変化に全然追いつかねえ……!)
今のはただの幸運に過ぎない。
また同じラインを通せば、ピンアクションでの誤魔化しすら利かなくなる。
(次はきっと、こない……!)
――8フレーム。
追い詰められた堂島は、意を決して、レーンの最内側――ディープインサイドへと大きく立ち位置を変えた。
生き残りをかけた渾身の8球目。
厚いオイルが残る最内より放たれたボールはレーン中央を矢のように突き進み、超高回転を帯びて奥のドライエリアに触れた刹那、爆発的な横回転で牙を剥いた。
ボウリング界で『ブーマー』と呼ばれる、レーンを真横に切り裂くような、凄まじい大外からの急角度のビッグフック。
ボールはポケットを横殴りに突いた――。
――が。
カァァンッ!!
派手な破裂音とは裏腹に、右端の『10番ピン』が、まるで男をあざ笑うかのように直立不動でレーンに残された。
「クソがぁぁぁッ!!」
堂島は叫び、怒りをぶつけるように高速のストレートボールを投げ込んで10番ピンを倒した。
だが、スコア画面の連続ストライクは、ついに『7』で無情にも途切れた。
回転数で劣る響は、回転軸の角度や速度を調整することで、イメージ通りのラインをレーン上に描き、それを高い再現性で投球しています。
実際、米国にはこうした精密な投球を行うロボットもあるので、響の投球はまさに精密機械レベルです。
次回は決着まで描きます。
更新は明日、9月3日 20時10分頃を予定しています。




