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闇夜に響く 〜真夜中の代打ち・玉城響〜  作者: みぃ
両手投げ(ツーハンデッド)の刺客編
5/10

イキリYouTuberのド派手な両手投げに大苦戦!?黒の勝負師が仕掛けた、常識破りの作戦は?

いつもお読みいただき本当にありがとうございます。

いよいよ一億二千万を賭けた裏ボウリング対決の開幕です。

堂島の圧倒的なパワーに、響がどう立ち向かうのか?

【第6章:劣勢】


 「さて、始めるか。裏社会のお姉さんよ」


 堂島はバッグからドライレーン用のマイボールを取り出し、歪んだ笑みを響に向けた。


 「随分と薄いオイルだな。並の両手投げなら、手前で噛みすぎて苦労するパターンだ。……だが、俺のスピードならただのドライレーンだよ。普段通りだ。残念だったな」



 堂島の饒舌を無視し、響は静かにアプローチへと進み出た。


 照明に照らされた黒の仕事着が、しなやかな肢体を艶やかに際立たせる。


 無言のままボールを構え、わずかに開いたスリットから鍛えられた腿がのぞく。


 薄色の唇をそっと閉じると、夜の闇より深い冷徹な瞳でレーンを見据え、その右腕を振り抜いた。


 余分な力のない流麗で洗練されたフォームから放たれた深紅のボールは、寸分違わずポケットへと吸い込まれ、短い破裂音とともに10本のピンを弾き飛ばした。


 「ほぅ、いい球投げるじゃん!!」



 堂島は不敵に笑うと、楽しげにアプローチへと立った。


 独特の変則的なステップから、獲物を狩る肉食獣のように鋭く加速する助走。

バックスイングの頂点からダウンスイングに移行する刹那、堂島は両手でがっちりとボールを保持したまま、驚異的な柔軟性で上半身を深く沈み込ませた。


 親指を穴に入れない、サムレスだからこそ可能となる、ボールに巻き付くような手首の動き。

全身のバネと体幹のパワーをすべて指先に集約し、引き絞った弓を放つように鮮黄のボールを強烈に押し出した。


 超高回転の投球。


 猛烈な回転でバックエンドから急激に曲がったボールが、ピンを爆発させたように粉砕した。

それは、まさに破壊そのものだった。


 続く2フレーム目。

再びアプローチに立った堂島は、一切の躊躇なく2球目を解き放った。


 薄いオイルの上を規格外の球速で一気に滑り抜け、バックエンドに到達した瞬間に猛然と牙を剥く。

鋭角に曲がったかと錯覚するほどの暴力的な軌道で、またしても10本のピンが木っ端微塵に弾け飛んだ。


 「フッ、イージーなレーンだ」


挿絵(By みてみん)


 堂島はニヤリとボールを弄びながら下りていく。

この薄いコンディションが自分のスピードとパワーを引き立てるための極上の舞台だと言わんばかりに、堂島はその確信を深め、完全にゲームの流れを支配しにかかっていた。


 響はそれを視界の端に流すように捉えていた。



 2フレーム目、3フレーム目。


 男の圧倒的な蹂躙の後でも、響は淡々と投球を続ける。


 静かなフォームから放たれたボールは、計算通りにポケットへ運ばれ、乾いた音とともにピンを綺麗に散らしていく。


 精密機械のような正確さで、連続ストライクを刻む響。


 だが、その静寂を嘲笑うように、すぐに堂島の爆音が会場に響きわたる。


 追い討ちをかけるような暴力的なストライクの連打。

スコア画面には瞬く間に『4連続ストライク(フォース)』の文字が並んだ。


 会場を吹き荒れるその暴風の前に、響のボウリングは今にも呑み込まれようとしていた。




 天井まで届く、全面ガラス張りのVIP観客席。


 階下の凄まじい爆音が1ミリも届かない、完全に音が遮断されたその静寂の空間で、富裕層たちは最高級のスコッチを片手に、水槽の魚でも眺めるように眼下の勝負を品評し合っていた。


 「全く途切れる気配がありませんね」


 「彼の両手投げは凄まじい威力だね。プロが何人も晒し者にされて潰されたというのも頷ける」


 「かつての天才少女も、この化け物相手では分が悪いか。……フフ、これは大穴頂きですかな」


 悪趣味に勝敗を予想し合うVIPたちの中心で、御堂貴之はグラスの氷を静かに揺らし、完璧に洗練されたセクレタリーの微笑みを浮かべた。


 「ええ。堂島の回転数と破壊力は、世界でも指折りですから。並のプロでは太刀打ちできません」


 優雅にグラスを傾け、軽く笑みを深める。


 「ですが、彼女も裏社会屈指の勝負師。このまま圧倒されるのか、どう食い下がるのか……これからが、最高に見物ですよ」


 勝負の緊張感をエンターテインメントとして美しく煽ってみせる御堂。


 すると、ソファーに深く腰掛けた老紳士の一人が、口元を歪めてグラスを掲げた。


 「私は響くんに賭けているがね、もし彼女がこの後のパーティーにゲストとして参加してくれるというなら……これからの時間は堂島くんも応援せねばならんな」


 「ふふ、もし彼女が皆様のパーティーへ馳せ参じてくれるなら、私としてもこれ以上の喜びはありません」


 御堂はマジックミラー越しに、淡々と投げ続ける響を見下ろした。 その瞳の奥に宿るのは、勝敗や金銭などどうでもいいという、純粋な愉悦だった。


 (……苦悶に歪む顔を、見せてもらおうか)


 御堂はふっと我に返ったように笑みを深くすると、優雅に肩をすくめて見せた。


 「おっと、私情を挟んではいけない立場だということを、すっかり忘れておりました」


 「そうだよ! 御堂くん、ハハハッ!」


 「さあ皆様、どうぞ今夜の極上の夜を心ゆくまでお楽しみください」


 御堂の洗練された言葉と、その奥に潜む底知れない毒気に、VIPたちは感嘆の溜息を漏らし、卑俗な笑い声を響かせる。




 ――そんな醜悪な観客たちの視線を浴びながらも、響は顔色一つ変えずにアプローチに立ち続けていた。


 だが、堂島の目にはそれが『限界』の証明に見えていた。


 自分がカバーの弱いドライ用ボールでレーンを攻略しているのに対し、響が握っているのはオイリー用のボールだった。

 薄いオイルの上で、道具のフック性能を強引に活かして食い下がっている。


 (道具で無理やり曲げてるだけだ……)


 堂島はフンと鼻を鳴らし、歪んだ笑みを浮かべる。


 (涼しい顔しやがって。内心は焦ってるんだろ。早く1本残して、そのツラが青ざめるところを見せてみろ)


 それでも平然とストライクを重ねる響の姿に、堂島はボールのオイルを拭き取るや否や、タオルをボールリターンに ――パンッ!と放り捨て、あからさまな舌打ちを漏らした。





【第7章:檻に潜む罠】


 ピリついた苛立ちを纏ったまま、堂島はアプローチへと足を進める。


 迎えた中盤、5フレーム目。


 放たれた鮮黄のボールが、レーン上をドリフトのように滑り、鋭い軌跡を描いてポケットへ突っ込む。


 ――パァァンッ!!


 重苦しい爆音を響かせ、その圧倒的な衝撃が10本のピンを叩き潰した。


  スコア画面に刻まれるのは、怒涛の5連続ストライク(フィフス)。

だが、アプローチに戻る堂島の表情に、僅かな陰りが浮かんでいた。


 (ほんの少し、厚めだったか……?)


 ボールの曲がり始めがほんのわずかに手前だったような、奇妙な違和感が指先に残る。




 ――最新トレンドの『両手投げ』は、凄まじい高回転をボールに与える反面、その回転によるレーンとの接地面の増加によりオイルを大きく削り取る特性がある。

つまり投げるほどに、戦場のコンディションを激変させる――




 だが、堂島はそんな事は百も承知の上だった。


 (これだけの極薄のドライレーンだ。多少のブレはある……か……)


 続く6フレーム目。

 堂島は微調整(アジャスト)を加え、完璧な再現性をもってボールを放ち直した。


 ――パカァンッ!!


 ピンは激しく弾け飛んだ。

 スコアは6連続ストライク(シックスパック)。

 だが、堂島の胸の奥に、不穏な悪寒が湧き上がった。


 (また厚めだ。アジャストしたはずなのに、それ以上にボールが手前で噛んでやがる……!)


 違和感は、確信へと変わっていった。


 (レーンのコンディションが、変わってきている……?)


 (投球ごとに削れるのは当然だ。だが、この速さはおかしい。俺の想定を遥かに超える早さで、レーンが急激に『遅く』なっている)



 「――おい、まさか」


 嫌な予感に突き動かされ、堂島はアプローチへ進み出る響の姿を凝視した。


 響は何も言わず、オイリーレーン用のボールを構えると、腕を振り抜いた。


 オイルの吸着量が多いそのボールは全てのピンを倒しつつ、堂島の通したラインに寄り添い、ゆっくりと舐め上げるようにオイルを削りとっていた。寸分の狂いもなく……。


 その瞬間、堂島は固まった。

 理解が、追いつかない。


 (不可能だ。こんなこと、絶対にあり得ねえ……!!)


 脳裏に浮かんだ仮説を、堂島の常識が必死に拒絶する。


 (ボウリングは再現性のスポーツだ。同じフォームなら同じ軌道を描く。だがそれは、あくまで自分の球での話だ)


 (球速も、回転数も、ましてや真逆の特性のボールで、他人の通した細いラインをトレースし続けるなど、できるわけがない……!)


 半信半疑の堂島が、隣のレーンへ目を凝らした。


 深紅のボールが、またしても同じラインを正確に通過する。

そして再び、ピンが綺麗に消えた。


 (……マジかよ)


 (しかも、ご丁寧にサンディングまでしてやがる!!)


 表面を曇らせ、オイルへの食いつきを高めたボール。

吸着を増やし、俺のラインを確実に削るための仕様だ。


 否定しきれない現実を前に、堂島の喉が小さく鳴った。


 スコア画面の「X」の文字が、響にも静かに、だが確実に積み重なっていく。


 「……クソがッ!」


 響が涼しい顔でストライクを重ねる横で、堂島はアプローチの前で小さく悪態をついた。

かつてないほどの激しい焦燥感が、堂島を支配していた。


 (まずいな……。このまま同じラインでレーンが変化していけば、先にポケットを外してストライクが切れるのは、回転数の多い俺の方だ)


 (いっそ……奴が真似できそうもないディープインサイドに移って、オイルが多く残っているエリアを使うか!?)


 堂島の目が、まだ誰のボールも通っていないレーン中央の厚いオイルゾーンへと向かう。


 超高回転の両手投げなら、最内側から外側へ向けて大きくボールを膨らませるド派手なビッグフックが投げられるはずだ。


 ――いや、駄目だ!


 堂島は構えかけたボールを抱え直し、激しくかぶりを振った。


 (先にストライクが切れた方が、そのまま負けかねない一発勝負なんだぞ……! この極限状態での大きなライン変更は、あまりにもリスキーすぎる!)


 マジックミラーの向こうで、御堂貴之が冷酷に自分を睨みつけている――そんな妄想が脳裏をよぎる。


 見えない支配者の恐怖が、堂島の右腕をわずかに強張らせた。


 (選択肢はねえ……! 今のラインから、アジャストしていくしかない……!)



 ――そして、運命の7フレーム目。


 アプローチに立った堂島の額からは、大粒の冷や汗が流れ落ちていた。


 呼吸を整え、意を決して解き放たれた7球目。


 ボールは猛烈な唸りを上げてバックエンドで鋭く曲がり――しかし、枯れ始めたオイルに足を取られ、ヘッドピンを僅かだが厚めに叩いた。


 (しまっ――!?)


 堂島の顔が恐怖に歪む。


 激しい衝撃音とともにピンが弾け飛ぶ中、無情にも『4番ピン』が、その場に微かに揺れながらぽつんと残ってしまった。


 誰もが「ストライクが途切れた」と確信した、その刹那。


 カコォォンッ!!


 信じられない快音が響いた。


 右側の壁に激突して跳ね返ってきたピンが、猛烈なスピードでレーンを真横に横切り、残っていた4番ピンを巻き込んだのだ。

倒れたピンたちが転がり落ちるようにして、スイープの向こう側へと消えていく。


 ――7連続ストライク(セブンインアロー)。


 スコア画面に刻まれた完璧なストライクの数字。




 その瞬間、防音の施されたマジックミラーの向こう側――VIP席は、奇跡的なピンアクションへの興奮で沸き立っていた。


 「おお〜〜!!!!」


 「さすがは堂島君、凄まじいピンアクションだ!」


 グラスを掲げて盛り上がる観客たちの中心で、御堂貴之もまた、満足げに深く口角を吊り上げている。




 ――だが、そんな熱狂の光景など、遮音ガラスのこちら側にいる堂島には知る由もない。


 無音に遮られたレーンの上で、命拾いをしたはずの堂島は、身の震えが止まらなくなっていた。


 (……限界だ。今のアジャストじゃ、変化に全然追いつかねえ……!)


 今のはただの幸運に過ぎない。

また同じラインを通せば、ピンアクションでの誤魔化しすら利かなくなる。


 (次はきっと、こない……!)



 ――8フレーム。


 追い詰められた堂島は、意を決して、レーンの最内側――ディープインサイドへと大きく立ち位置を変えた。


 生き残りをかけた渾身の8球目。


 厚いオイルが残る最内より放たれたボールはレーン中央を矢のように突き進み、超高回転を帯びて奥のドライエリアに触れた刹那、爆発的な横回転で牙を剥いた。


 ボウリング界で『ブーマー』と呼ばれる、レーンを真横に切り裂くような、凄まじい大外からの急角度のビッグフック。


 ボールはポケットを横殴りに突いた――。


 ――が。


 カァァンッ!!


 派手な破裂音とは裏腹に、右端の『10番ピン』が、まるで男をあざ笑うかのように直立不動でレーンに残された。


 「クソがぁぁぁッ!!」


 堂島は叫び、怒りをぶつけるように高速のストレートボールを投げ込んで10番ピンを倒した。


 だが、スコア画面の連続ストライクは、ついに『7』で無情にも途切れた。


回転数で劣る響は、回転軸の角度や速度を調整することで、イメージ通りのラインをレーン上に描き、それを高い再現性で投球しています。

実際、米国にはこうした精密な投球を行うロボットもあるので、響の投球はまさに精密機械レベルです。

次回は決着まで描きます。


更新は明日、9月3日 20時10分頃を予定しています。

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― 新着の感想 ―
とても緊張感のある勝負でハラハラドキドキしながら読んでいました。堂島視点で読んでいたので、響の恐ろしさと美しさが、より際立っていました。「ボウリングは再現性のスポーツだ」のあたり、ゾクゾクするほどに面…
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