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闇夜に響く 〜真夜中の代打ち・玉城響〜  作者: みぃ
両手投げ(ツーハンデッド)の刺客編
3/10

パンツをバラされたバイトのお姉さん、ブチキレて一億二千万の裏レート勝負を引き受ける

初めましての方も、前話から引き続き読んでくださっている方も、ありがとうございます。

やっと続編が書けましたので、更新します。

響の表と裏の顔を、改めて楽しんでいただけたら嬉しいです。



【第1章:両手投げ(ツーハンデッド)】


 「ねえねえ、玉城ちゃん! これできる!?」


 お昼時の『Strike Palace』


 ボウラーズエリアのフロアをモップがけをしていた響は、常連の中学生三人組にスマホの画面を突きつけられた。


 液晶の中でダイナミックに躍動するのは、派手な髪色をした男。

助走をつけて信じられないほどの超高速でボールをぶん回し、レーンへと解き放つ。


 猛烈な勢いで曲がったボールが、ピンを爆発させたように弾き飛ばした。


 「これ、今ネットですごい人気のYouTuberなんだよ! 『両手投げ』ってやつ!」


 「プロでもやってる人多いんだって。玉城ちゃん、投げ方教えてよ!」





 ――両手投げ(ツーハンデッド)。

 親指を入れずに両手で抱えるように保持し、超高回転(ハイレブ)を生み出す、現代ボウリングの最新トレンド。

 もちろん、響はそのメカニズムも、メリットもデメリットも完璧に熟知している――





 「え、ええ〜? そんなの私にできるわけないじゃない。見るからに難しそうだし……」


 「いいから一回やってみてよ! いっつもガターばっかりなんだから、投げ方変えたらストライク出るかもよ?」


 「うっ……。そ、そこまで言うなら、ちょっとだけよ?」


 響はしぶしぶモップを置くと、ハウスボールを両手でそっと抱え込んだ。


 おそるおそるステップを踏み出し、そのまま抱えたボールを後ろへ大きく振り上げようとした――


 その瞬間だった。


 「わ、わわっ!?」


 慣れない体勢に足元が狂う。

自分の足に、自分の足が思いっきり引っかかってしまった。


 どっしーん!!


挿絵(By みてみん)


 派手な音がフロアに響き渡る。


 ボールはよろよろと隣のアプローチへと転がり、響は派手にアプローチの床へ突っ伏していた。


 ネイビーのタイトスカートのスリットから、白い太ももが大胆にのぞいている。


 「あっはははは! またやってるよ!」


 「お腹痛い! ギャグじゃん!」


 痛む鼻頭を押さえながら、真っ赤になってスカートの裾を引っ張り、慌てて足を隠す。


  すると、スマホを持った男の子が、にやにやしながら顔を覗き込んできた。


 「でもよかったわー。玉城ちゃん、割と普通のパンツ履いてるんだね」


  「……へ?」


 「いやさ、普段ドジだからさ。クマの絵とか付いてるキャラもののパンツだったらどうしようって、俺心配しちゃったよ!」


 「なっ……み、見たの!?」


 瞬間、頭の中でパチンと何かが弾けた。


 顔から火が出るどころか、全身の血が沸騰する。


 「このガキどもぉぉぉ!! そこへ直れぇぇぇ!!」


  「うわっ、玉城ちゃんが化けた! 逃げろ!」


 クモの子を散らすように逃げる中学生の後を、響はなりふり構わず大股で追いかける。


 「ちょっと、玉城さん!! フロアで走らないで!!」


 背後から、先輩従業員の鋭い怒声が飛んできた。


 「あーあ、玉城ちゃん怒られてやんのー!」


  「ださっ!!」


 フロアの向こうでベロを出す中学生たちに、響はギリぃ……と奥歯を噛み締めることしかできなかった。





【第2章:拡散】


 夜19時。


 シフトを終えてタイムカードを押した響は、併設されたレストラン『Lumen Pins』のカウンター席に滑り込み、まだ引きずっている昼間の屈辱に一人で悶えていた。


 「はい、玉城ちゃん。今日もお疲れ様。お腹ペコペコでしょ?」


 店員が笑顔で運んできてくれたのは、湯気がふわりと立ち上るアツアツのオムレツと、キンキンに冷えたアイスティー。


 「わあ……! ありがとうございます!」


 大好きなご飯を前に、口元がだらしなく緩む。


 スプーンを手に取り、いざ綺麗な黄色い卵にスプーンを入れようとした――その瞬間だった。


 「おーい、玉城ちゃん! 聞いたぞー!」


 すぐ後ろのテーブル席から、楽しげな声が飛んできた。

 常連のサラリーマンたちと、近所のおばさんたちが仲良く一緒にビールジョッキを傾けている。


 「昼間、アプローチにダイブしたんだって? 常連の奴がさ、『玉城ちゃんがすげえ派手に床に突っ込んでた』って大笑いして酒が進んじゃってさ!」


 「ぶっ――!? げほっ、ごほっ!」


 危うく喉を詰まらせかけ、響は真っ赤になって振り返った。


 「な、何言ってるんですか! あれは、その……最新トレンドの『両手投げ』を、彼らに見せようとしただけなんですっ! そしたらたまたま足がもつれただけで……!」


 「あはは! それで両手投げじゃなくてパンツを見せちゃったんだ? あっはははは!!」


 サラリーマンたちがビールグラスを片手にドッと沸くと、響の頭は一瞬で真っ白になった。


 「ひゃ、ひゃいっ!?」


 まさか下着の件まで筒抜けになっているとは思わず、変な悲鳴を上げて完全に硬直した。


  顔から火が出るどころか、全身の血がオムレツにかけたケチャップよりも真っ赤に染まっていく。


 「み、皆さん、それ誰から……っ!」


 すると、同じテーブルにいたおばさんが、にこにこしながら身を乗り出してきた。


 「さっきあの子たちがジュース買いに来たときに、嬉しそうに話してたのよ。『玉城ちゃんは意外と普通のパンツ履いてた!』って。もう、男の子なんて中学生になってもバカなんだから」


 「あの子たちぃぃぃ……!!」


 あのクソガキども、色んなところで言い触らしやがって……!


 別のおばさんも、心配そうに、でもどこか楽しそうに目を細めて言葉を重ねた。


 「でも玉城ちゃん、恥ずかしいパンツじゃなくて、普通の大人っぽいパンツでセーフだったじゃない?」


 「セ、セーフじゃないです! アウトです、アウト!! 大不覚です……! っていうか、普通のパンツって強調しないでくださいっ!」


 恥ずかしさのあまり両手で顔を覆ってカウンターに突っ伏す響を見て、レストラン全体がまたドッと温かい笑い声に包まれていく。


 「ははは、まあ怪我がなくて良かったよ。玉城ちゃん、ほら、オムレツ冷めちゃうぞ」


 お隣でビールを飲んでいた佐藤さんが優しくフォローしてくれて、響はようやく顔を上げた。


 ぷっと頬をわざとらしく膨らませながら、スプーンでオムレツを口に運ぶ。

ふわふわの卵の甘みとケチャップの酸味が口いっぱいに広がって、少しだけ心が落ち着いた。


 「正直、ちょっと羨ましかったなぁ……俺もその場にいれば……」


  「ちょっ!! ちょっと、佐藤さん!!」


 「冗談、冗談だってば」


 「もう……みんなして私をいじめて楽しいですか? 今度みんなでボウリングするときは、全員のレーンに嫌がらせのオイルをたっぷり塗って、ガターしか出ないようにしてやりますからね……っ!」


 「わはは! そりゃ怖い、お手柔らかに頼むよ!」


 負け惜しみのセリフを言いながら、響はオムレツを勢いよく頬張る。


 しかし、佐藤さんは顎に手を当てて、ぽつりと呟いた。


 「でも、やっぱり彼らに、色だけでも……」



ピタッ、とスプーンが止まった。




 「……あ?」




 響はゆっくりとスプーンをお皿の上に戻すと、静かに、本当に静かに顔を上げた。


 にぎやかだったレストランのBGMが、一瞬で遠ざかったような錯覚。


 さっきまで茹でダコのように真っ赤だった顔から、一切の血の気が引き、瞳の奥の光が完全に消え失せている。


 「……佐藤さん」


 極低温の掠れた声。


 そのたった一言に込められた絶対的な「死」の気配に、お隣のサラリーマンたちも、おばさんグループも、一瞬で笑顔を凍らせて会話をピタリと止めた。


 「ひっ……!? う、嘘! 冗談だって玉城ちゃん! 本気で許して!!」


 背筋をこれ以上ないほどピンと伸ばし、冷や汗を滝のように流しながら両手を合わせる佐藤さんを、響は氷の塊のような視線で見つめ返す。


  それから、ふっとわざとらしく息を吐き出し、ふくれっ面を作ってみせた。


 「……もう、本当に怒りますからね」


 「あはは、ごめんごめん! 今度ビール奢るからさ!」


 響がいつもの「ドジっ娘・玉城ちゃん」の表情に戻ると、店内の張り詰めた空気が一気に弛緩し、またドッと温かい笑い声が戻ってきた。


 そんな大好きな常連さんたちが作り出す、和気藹々とした店内の賑やかさに、響は心地よく身を委ねていた。





【第3章:因縁】


 ――夜22時。


 営業が終了し、静まり返った『Strike Palace』の従業員控室。


 響はパイプ椅子に深く腰掛け、一人でまだ昼間の屈辱を思い出して奥歯を噛み締めていた。

よりによって中学生のガキに下着を品評されるなんて、前代未聞の失態だ。


 恥ずかしさと怒りで、未だに耳の裏がカッカと熱い。


 ブーッ、ブーッ。


 誰もいない薄暗い部屋に、机の上に置いたスマホが重く震えた。


 画面に表示されたのは、登録名のない番号――仲介屋からの着信だ。

響は小さく息を吐き出し、スマホを耳に当てた。


 「……私よ」


 『機嫌が悪いな。何かあったか?』


  「別に。……それより、話は?」


 『フッ、その不機嫌なところに悪いが……組織(うえ)からお前に仕事が来ている。あまりいい仕事ではないがな』


 「……それで?」


 『今夜の裏幕は、例の【あの件】のスポンサーの息子、御堂貴之だ。奴らは今夜のリングにお前を指名してきた』


 受話器の向こうの仲介屋は、響の怒りなど意に介せず、冷淡に今回のビジネスの条件を語り始めた。


 負けた場合のリスク、そして動く大金の額を、淡々と並べ立てていく。


 『もしお前が負けた場合、御堂と親交のあるVIPたちが開く【特別なパーティー】に、お前をゲストとして出席させろという条件だ。おおかたVIPの連中とのパイプを築きつつ、大金も巻き上げる算段なんだろう』


 「……御堂……」


 その不快な名前を聞いた瞬間、響の眼が冷たく据わった。 忘れるはずがない。


 かつて、有力スポンサーの息子である御堂貴之に八百長を強要され、それを拒否した代償。

薬物使用の濡れ衣を着せられ、自身の人生をめちゃくちゃに壊した、あの男。


  今度は勝負師としての信用ごと、VIPたちの慰み者にしようというのだ。


 『さらに奴らの代打ちは、今ネットで人気のYouTuberの男、堂島陽斗だ。配信名はHARUTO。奴がお前との対決をエンタメ動画として撮影し、ネットに配信することを条件に求めてきている。もちろん賭博には触れない、ただのお前との対決動画としてな』


 『奴は自分の実力を誇示するため、既に何人もプロや実力者を動画の餌食にして晒しものにしてきた、肥大化したプライドの化け物だが、実力は超一流だ。しかも当日は、お前の【ファン】であるVIPの連中が、わざわざ観戦に来るそうだ』


 (御堂の奴、この勝負すら賭博の糧に、自分たちが元締めとして稼ぐつもりね……)


 (観客を入れれば、私にイカサマもさせられないってわけね)


 『……だが、お前が勝てば奴らは組織に一億二千万円を支払う。お前の取り分は二千万だ』


 「はした金ね……」


 『動画の配信も、お前のパーティー出席もなしだ』


 「断ったら? そんなおふざけ、蹴ればいいじゃない。私のリスクが割に合わないわ。降りると言ったら?」


 『断れば、組織の闇賭博を警察にリークすると脅されてる。堂島に直接手を下すのも駄目だ。……それだけじゃない。もしお前が拒否すれば、お前やお前の身の回りで【面白いニュース】が上がることになる、昔のお前のように、と御堂が言っている』


 スマホを握る指先が、怒りで微かに震える。


 過去だけじゃない。

奴らは、響が今ここで守っているこの愛おしい場所や、大好きな常連さんたち、そしてあの中学生のクソガキどもまで巻き込もうと脅してきているのだ。


 響はフッと冷たい笑みを漏らし、受話器の向こうの仲介屋に告げた。

「いいわ、その汚い一億二千万円、まとめて組織に毟り取らせてあげる。……ただし、会場は組織の【特設レーン】を使わせてもらうわよ」


 「周りを壁で遮断して、動画の撮影もこちらで用意した機材で撮るわ。外部からの撮影は一切禁止。持ち物検査も厳重にね。悪趣味なお遊びに付き合ってあげるわ」


 「奴らに当日の集合場所や試合のオイルパターンは添付して送っておいて」


 『フッ、分かった。檻(おり)の手配はこちらでしておこう。頼んだぞ、響』


 響は小さく息を吐き、薄く目を細めた。


 「……ええ」


 それだけ短く応えると、通話は切れた。


 響はスマホをポケットに押し込み、パイプ椅子から静かに立ち上がった。


響は裏の顔を隠すため、普段は完璧に擬態しています。

なので転倒も、わざとです。

ただ、パンツを見られたのは不可抗力だったので、わりと今回マジでキレてます。


続編は、明日9月1日 20時10分更新予定です。

よければ、またお付き合いください。



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