黒いモヤ
久しぶりの祖父からの呼び出し、最近元気が無いのを見ていたから大丈夫か心配だったけれど大丈夫なんだろうか。
それにこの神社で待ち合わせとはあまり気が進まない。山の中にポツンとあるココ『天椿神社』は祖父、父と神主が務めていた場所。椿が綺麗で時期になると神社が赤く染まる、少し不気味だからあまり近付かないようにしていたのに…
「じいちゃん大丈夫かな…」と声を漏らす。約束の時間から20分過ぎてもまだ来ないからだ。辺りを見渡しても木々ばかりで何も無いし…何か変だと考えると考えを断ち切るように音が鳴る。木々が倒れ、人では無い者の声が聞こえる。
神社の後ろ。森の中からそれは聞こえた。怖かったが走った。行かないと後悔するような気がしたから。
走って走って走って。音の所に到着するとモヤのような黒い化け物と木にもたれ掛かるじいちゃんの姿があった。言葉が出なかった。足がすくみ動けない。使い物にならない足を引きづりながらじいちゃんの方へ向かう。
「来るな!伊織!」と叫んだ。じいちゃんから聞いた事のない声。血だらけのまま刀を地面に突き立て立ち上がる。そして黒い化け物に刀を振るった。だが致命傷を負った身では戦うにも限度がある。もっと酷い怪我になるだけだった。左腕は折れ、腹は割かれ血が出ている。動いているのが不思議なくらいだ。そんなじいちゃんを見ていることしか出来ない僕は無力さに打ちひしがれた。
なぜ何もできないのだろう。僕は……
いや違う何も出来ないのでは無い何もしてこなかっただけじゃないか。今迄もこれからも何も出来なかった自分を受け入れて生活していけと?大切な人を目の前で失いそうになっているんだぞ?否…否否!僕は前とは違う。変わるって決めたんだ。
動かない足を無理矢理動かし倒れたじいちゃんから刀を奪う。か細く「やめろ…」と言ってる声が聞こえたが無視をした。怖かった。死ぬかもしれない恐怖。でも大切な人と共に死ぬ事ができるなら守ることができた最後であれば本望だ。そう思った。
黒いモヤに刀を振るう。付け焼き刃の僕の攻撃は通るはずもなく避けられる。背中に爪を立てられる。痛い痛い痛い!感じたことの無いほどの激痛。切られた部分が熱い。けれど僕の足はまだ立っていた。「絶対に殺す…」そう意気込んで前に踏み込む。黒いモヤの身体に傷が着いた。やっとの思いで付けたものだがあまり聞いていないようで直ぐに反撃される。身体は飛ばされ木にぶつかる。口から血が垂れているのが分かる。僕はもう死ぬのか。と悟った。
静かに目を閉じようとしたその時頭の中で声が聞こえた。「汝、力を欲するか?」女性の声だ。力を欲するか…?当たり前だよ、大切な人を守るための力が欲しい。僕には力が必要だと強く思った。「良かろう、では我の力を貸してやる」
そこで僕の意識は事切れた。




