三年後
一
「とうー!」
「くっ!」
糸音と椿はミンダルの近くにある森の広場で剣を交えていた。最後の一撃、椿の一刀で糸音の針剣が手から離れて、椿の剣が無防備な糸音へと向けられる
「やるなー、椿」
「やったぁ!やっと糸音から一本取れた!」
「すごい成長速度だな」
「でしょー!私って剣の才があるのかも」
「自惚れはよくないなー、」
「わかってる、っよ!?」
糸音は油断した椿の足を引っ掛けると転かして倒れた椿へ拳を構える。
「せこいーー!!今のはせこいよー!!」
「実践だと、死んでるかもしれないぞ」
「うー、でも実践じゃないもん」
「はっは。そうだな、悪かった」
糸音と椿は十六になった。あれからも、糸音は椿との稽古を続けていた。しかし、平和な地ゆえ実践などは無く、ただ剣の技術のみを磨いていた。
「おっと、そろそろ帰ろうか椿」
「そだね。帰りに孤児院に寄ってミトナさんに手作りクッキーを貰うんだったね」
「じゃあ行くか」
「うい」
二
「あっ!椿お姉ちゃんと糸音お姉ちゃんだ!」
椿と糸音が孤児院へやってくると庭で掃除をしていた女の子が一人、見つけた二人へと駆け寄ってくる。
「ジータ、今日もお掃除ご苦労様」
ジータは戦時中、ミンダルの街へ来た時に家へと招き入れてくれた子供の一人。二人と一番仲の良い子供だ。歳も椿と糸音とさほど変わらない。ジータは治安維持局のお手伝いもしていて戦時中、戦闘経験も少しあった。それを買われ、雛菊の指導の元、ルクスリアと共に戦闘員たちと悪党達の残党を捉える仕事をしていた。昨今、少しずつ燻っていた残党たちが現れ始めていた。
「最近、悪い人たちが増えてるから。ジータも少し忙しいんだけど、今日は椿姉ちゃん達が来るからお休みもらったの。だから、その・・」
ジータは少しもじもじしながら二人の方を見る。目が合った糸音は少しだけ照れながら頷く。
「たいへんだなジータも。よし!あとで糸音と三人で出かけよう!その前に、ミトナさんはいる?」
「やったぁ!うん!ミトナさんなら中だよ」
案内されて孤児院の中へと入るとミトナが子供達に囲まれていた。
「あら、やっと来たわね二人とも」
「どうも、ミトナさん。クッキー貰いに来ました」
「ちょっと待ってね」
ミトナが奥の部屋へと行くと、子供達は椿と糸音のもとへとやってきて、皆んな一斉に話出す。
「あのね、あのね、糸音さん聞いてくださいよー・・・」
「今度私と遊んでください!・・・」
「私も!」
「僕も!」
糸音と椿はミトナがクッキーを持ってくるまでの間たくさんの子供に振り回された。
しばらく子供達と遊んだ後、ミトナさんはカゴにクッキーをたくさん入れて持って奥の部屋からやって来た。
「いつもごめんなさいね。ほら!皆んな!お姉さん達が困るでしょ、さよならの挨拶をして!」
「はーい」
糸音と椿は子供達からの挨拶を受け取ると手を振り孤児院を後にする。孤児院を出ると庭に居たジータが笑顔で近づいてきた。
「長かったね。チビ達に色々振り回されたでしょ?」
「うん、皆んなかわいいね」
椿はニヤニヤしながら言った。
「椿、顔がやばいよ。兄貴に似て来たな」
「え!本当に!ってか失礼だよ糸音!」
「失礼って、はっは。ごめんごめん」
「二人って仲良いコンビですよね」
「そりゃ、親友だからねー」
「そうだな」
「いいなぁ、私もそんな風にできる親友が欲しいな」
「何言ってるのジータ。ジータも親友でしょ?ねぇ、糸音」
「そうだな。ジータは大切な親友だ。椿も」
「へっへ」
二人の言葉にジータは少し照れて頭をかいた。
その後三人は、一旦クッキーを置きに行く為に椿達の家へと向かう。その道中、大きな荷物を抱えたこの寒い地には場違いなサングラスをかけた男が声をかけてきた。
「おーい、二人共帰ったぜー。おっ、今日はジータも一緒か」
「紅羽さん、帰ってたんですね!」
「今回は早めに片付いたんで仕事早々に切り上げて帰ってきたんだ」
「おかえり、兄さん!」
「おう、ただいま!おっ!」
椿は紅羽に思いっきり飛びつくと、勢いで紅羽は後ろに倒れた。この兄妹は何年経っても変わらず仲が良かった。
「紅羽、今朝ルクスリアからの伝言をもらった。治安維持局で待ってるから帰ってきたら早くこいだって」
「はぁ、相変わらず人使いが荒いな、あの吸血鬼様は」
椿と紅羽は立ち上がり、紅羽は椿の頭を撫でてその場を後にした。気を取り直して椿は伸びをする。
「よーし!それじゃ私達の家へゴー!」
その後、三人は軽く談笑しながら歩いているといつの間にか家へと辿り着いていた。
椿が鍵を取り出そうとしていると鍵が空いて中からミナモが現れた。
「賑やかだと思ったら。おかえりなさいませ。これはまた、たくさん貰いましたね」
「ただいまミナモさん。今日のおやつだね」
「おやつっていう量ではないけどな」
「ミナモさんこんにちは!ジータはクッキー楽しみです!でもその前にお出かけ!」
「おや、また出かけるんですか?」
「うん!まぁ、夕刻には帰るよ!」
「では、いってらっしゃいませ」
三人は家を後にして街にある店を巡り歩いた。数時間、お喋りしながら遊んだ後、毎度のこと、椿はジータと共に治安維持局の訓練場へと向かい、糸音は家へと帰った。




