平穏な日々
「ここがヘイオーかー。うー寒い」
船から降りて早々、椿は震えながら紅羽の腕にしがみついていた
「おいおい椿、引っ付きすぎだ」
「喜んでいるな紅羽」
「別に喜んでなんかないぜ」
「顔が笑ってるよ。変態が」
「紅羽様は椿お嬢様がお好きですから」
そんなやりとりしていると最後の一人ルクスリアが荷物をかかえて船から降りてきた。
「ルクスリア様、私はこれから他の街を巡りますのでここで」
「あぁ、雛菊。頼んだ」
「行くのですか?雛菊」
「ミナモ、また会えますよ」
「そうですね。ではお気をつけて」
雛菊は軽く皆に会釈をしその場を後にした。
「よし、じゃあ行くか。実は北のミリオドに家は用意してあるんだ」
「ありがてぇけどよ。だからって、わざわざ北の方にしなくてもいいじゃねぇか」
「まぁそういうな。私がミリオドに住んでいるんだからいいじゃないか。いつでも会えるように」
「はぁ、仕方ねぇ。行くか」
二人のやり取りを他所に糸音は辺りを見渡していた。
「どうかしたか?糸音」
「いや。まさかこんなに早くここに帰ってくるなんてな」
「そうだな。まぁドンと胸を張ったらいいんじゃないか。お前は英雄なんだから」
「英雄か。こそばゆいな」
五人は北の街ミリオドへと出発した。特に何事もなくルクスリアの設置していた拠点で野営をしながら、五日ほどでミリオドへと到着した。
「いや、寒すぎ」
「椿は初めてだからな、私たちは慣れてるからっと言ったがやっぱり慣れないな」
「そりゃそうだぜ。あの時は戦火の中、アドレナリンが出ていたせいか、そこまで気にならなかった、ってかミナモさんは大丈夫か?」
「ええ、私は全然平気です」
「さすがミナモさん」
「時期に家につく。ほら、こっちだ!」
ルクスリアが先導してミリオドの街へと入る。ミリオドの街は以前とは打って変わって賑やかな街になっていた。
「こんなに賑やかだっけここ?」
「あぁ。皆の働きがあって、短期間でこの街の復興はもうほぼ終わった。おかげで街に活気が戻ってきた。そうだ。あとで孤児院にも寄ってやってくれ。糸音と紅羽に会いたがっている子供が多くてな」
「あいよー!」
しばらく街の中を歩いていると要塞があった場所へと辿りつく。そこは、ついこの間までは酷く残酷な場所。外観は塗装され、別の建物となっていた。
「ここは今、もう完全に取り壊して治安維持局の拠点を作っている最中なんだ。あと数日もすれば内装も完成する。それはそうと。紅羽達がこれから住む家はこっちだ」
言われて右を見てみると、京にある紅羽たちの洋館ほどの大きさではないが、それなりに大きい家がそこにあった。
「この治安維持局の真ん前だから、もし何かあればすぐに駆けつけることができるってわけだ。まぁ、何もないだろうがな」
「立派な家」
椿は家を見上げて素直に関心していた。
「ねぇ、入っていい?」
「どうぞ。はい、これ鍵。自由に使ってくれ」
椿はルクスリアから鍵を受け取り、中へと入る。
開けた瞬間、すでに暖房がついてあって、暖かい空気が外へと流れる。
「うわぁ。あったかい」
「一応、家具一式は全て揃えてある。もし、何か必要であれば遠慮なく言ってくれ」
「こんな手厚く迎えてくれるとはな。ありがてぇ」
「そりゃ当たり前だ。何たって英雄の家族なんだから」
「やめろよー、英雄なんてなんか照れるぜ」
しばらくみんなで談笑しながら家の中を見て回って、部屋の場所を決めたりなんかして気づいたら夕刻になっていた。夕刻、孤児院へと向かう為、ルクスリアと糸音、紅羽の三人は家を後にする。椿は怪我のこともあったのでミナモと家でゆっくりするためお留守番となった。
「生存した子供達は何人かは親がいなくてな。それで、私の知り合いに頼み、孤児院を開いたんだ。今や他の街の復興も始まって、各地で孤児院の設立を行っているところだ」
「そりゃあいい事だ」
「そうだな」
「お前たち二人には感謝しかないよ。それと詩織もな」
「詩織か、今頃どうしてるかな」
「そうだな。結局、向こうでは会えなかったからな」
「まぁいずれ会えるさ。ほら着いたぞ」
庭付きに修道院のような建物がそこにあった。扉をノックすると、中から若い女性が一人出てきた。
「あら、ルクスリア様」
「遅くなってしまってすまないな、ミトナ」
「いえいえ。英雄様達もわざわざお越しくださりありがとうございます」
「いやいやそんな、やめてくれよ。英雄だなんて」
「いえ、お二方はこの北の地を救ってくださったんですから。さぁ、とりあえず外は寒いので皆様方、中へどうぞ。子供達も皆様のお話を待っています」
「そうですか。では、おじゃまします」
三人が中へと入ると、たくさんの子供が所々で遊んでいたが、入ってきた三人を見ると一斉に駆け寄って来た。
「うわー、英雄様だぁ!」
「お姉さん久しぶり。あの時は、ありがとう」
「君は、あの時の」
糸音に声をかけてきたその女の子は、まだ戦時中、糸音たちがこの街へ来てすぐ家へと招きいれてくれた子供の一人だった。
「良かった。無事だったんだな」
「うん」
「そうか」
気づくと三人は人気者となっていた。特に紅羽は女の子達にずいぶんと好かれていた。
「こらこら、英雄様達も困ってるから、順番に一人ずつね」
「はーい!」
ミトナが声をかけると、子供達は少し大人しくなった。しばらく子供達の相手をした後、別の部屋で三人は椅子へと腰掛けて一息つく。
「紅羽、モテモテだな。椿が嫉妬するぞ」
「はっは。そりゃ困るな。でもよーなんか素直に嬉しいぜ」
「お前達と掴んだ平和だ。ドンと胸を張ったらいい。それに皆いい子だ。二人とも、暇があったら時々遊びに来てやってくれ。子供達も喜ぶ」
「あぁ、また顔を出すよ」
「そうだな」
三人は少しゆっくりした後、孤児院を静かに去って行った。去り際も賑やかに子供達の声に包まれていた。
家へと戻ると、椿が引っ越し祝いでパーティを開こうと言い出したので、皆んなで色々準備して楽しい時を過ごした。それから数週間経って、椿の怪我も完治して、糸音との稽古も再開した。紅羽は時々、京へ戻って皇王からの命を受けて色々な仕事をこなしていた。ルクスリアは治安維持局統括として北の地の復興に人力していた。そうして五人は平穏な日々を過ごした。そしてそれから、約三年の月日が経つ。




