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天使の探究者  作者: はなり
第五章 忘却再生

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夜は獣の時間(二)

「ただいま」

 

ルクスリアと紅羽は日が落ちた頃に家へと帰ってきた。紅羽の声を聞きリビングから椿がゆっくりと近づいて来る。

 

「兄さん、ルクスリアさんおかえり」

 

「ただいま、糸音は?」

 

「まだ帰ってないよ」

 

「そうか」

 

「心配するな紅羽、糸音の事だ、どうせまた入念に調べているんだろう。しばらくしたら帰ってくるだろう」

 

「そう、だな」

 

二人はリビングへと移動して、しばらくゆったりとした時間を過ごした。しかし、糸音は何時間経っても帰ってこなかった。


 

「この辺りだったな」

 

糸音は森の奥へと戻ってきたが、その頃には先ほど感じた殺気は無くなっていた。

 

(気のせいだったのか?いや、でも確かに感じた、あれは獣・・いや、それ以上の何かか・・)

 

糸音が再び洋館へと帰ろうとしたその時、背後から殺気を感じて振り向くとそこには黒い大きな一匹の狼がこちらを凝視していた。それは得物を狙う獰猛な獣の眼。

 

「狼か。しかし大きいな」

 

糸音は構えるが、その狼は襲って来なかった。

そして狼は糸音に背を向けると歩きだした。

 

(なんだ?ついて来いってことなのか)

 

糸音は少し考えたがついていく事にした。狼の後を警戒しつつ歩いて着いて行く。しばらくして大きな洞窟の入り口が現れて、その前で狼が一度止まりこちらを向くと座り込んだ。

 

(これは・・こんなものがあったのか)

 

糸音は罠があるとも考えたが、あえて乗ってやることにした。糸音は洞窟へと入って行く。その際、狼は糸音を目で追ってきはしたが、後を追ってくる事は無かった。しばらく歩いていると、大きな開けた場所へと辿り着いた。そしてそこには一人の男が大きな岩の上に座っていた。糸音はその男を警戒して構える。

 

「ようやく来たか、夕凪糸音」

 

(私の名前を知っている。誰だこいつは)

 

「何者だ?」

 

「俺はクワイエット。殺し屋だ」

 

「同業者か。誰からの依頼だ?」

 

「いいや、依頼ではない。それに正確には殺し屋というよりかは賞金稼ぎだ、お前を殺してその筋に持っていけば高額な金が手に入る。なんたって夕凪家だからな」

 

「くだらんな。それにお前が私に勝てると思っていることが腹立たしい。その前にどこからの情報元だ?私が帰って来たのはつい先日だ。それなのにこんなにすぐ素性がバレるのは変だ」

 

「はっは、随分と自身満々に・・・まぁ、そうだな。お前の情報を教えてもらったのは確かだが、教えない。さっさと終わらせよう」

 

クワイエットという男が岩から降りて、懐から鞭を取り出して地面に叩きつけると後ろの岩影から次々に狼が現れる。

 

「俺は動物を操ることのできる猛獣使いだ」

 

再びクワイエットが鞭を叩きつけると狼達は一斉に襲いかかってきた。

 

「お前達には申し訳ないが、約束しよう。この男は必ず殺すから」

 

糸音は針剣を取り出して襲い来る狼達を次々に斬っていく。

 

「流石だな。俺の力で強化されているとは言え、それをしのぎ切る。このままでは勝てんな」

 

クワイエットは狼を蹂躙する糸音を見て次の手を打つ。

 

「来い!グリズリー!」

 

糸音は狼を全滅させるとクワイエットに針を飛ばすが、何か黒いものにはたき落とされた。

 

「なんだ、何かいるな」

 

糸音は先ほどクワイエットが座っていた大きな岩がない事に気づくと辺りを見渡す。

糸音が岩だと思い込んでいた()は岩ではなかった。

 

「!?」

 

糸音は背中に殺気を感じて後ろを振り返るとそこには見た事もないほど大きな熊がこちらを見ていた。糸音はすかさず針剣で斬り上げたが熊は微動だにせず糸音を見ていた。糸音は一旦後退し熊との距離をはかる。

 

(何を見ている?いや、私か?)

 

「グリズリーは今、お前を観察して殺し方を考えているんだ」

 

「ふん。こんな隠し玉があったとは驚きだ」

 

「存分に楽しませてもらうぜ」

 

「それは、こちらのセリフだ!」

 

糸音は再び動きだす。糸を取り出して熊の体へと巻きつけ、一気に引っ張るが体に食い込むだけで切れなかった。

 

(硬いな。ならこれならどうだ)

 

次に糸音は熊へと接近して針剣で斬りつけてくがダメージは無く、まるで硬く大きな岩を切りつけているかの様な甲高い音が鳴り響くばかり。しかし糸音にとってそれは計算のうちだった。糸音は一旦動きを止めると、先ほど固定しておいた斬撃の音を剣先に載せて斬りつける。その威力は大木をもなぎ倒すほどの凄まじい一撃。

 

「ほう、これが噂に聞く音の異能か」


「!?」

 

糸音は驚愕した。斬りつけた跡を見ると、そこには一本の薄い擦り傷があるだけだった。

グリズリーは顔色一つ変えずそこに立っていた。

 

(嘘だろ!?)

 

さっきまで微動だにしなかった熊は、大きな手を振り上げ、そのまま糸音の肩へ振り下ろす。糸音はギリギリのところで躱して致命傷にはならなかったが、その代わり体を庇って腕を負傷してしまった。

 

(くそ、片腕はしばらく使い物にならないか)


ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

熊は洞窟の壁を震わすほどの咆哮をあげると、糸音へと向かってきた。

 

「!?」

 

その速さは熊のそれではなかった、異常な速さで向かってきた熊からの攻撃を、糸音は神経を尖らせて紙一重で躱していく。

 

(速いな)

 

「どうした、夕凪家!そんなものかぁ?」

 

「クソッタレが」

 

糸音は隙を見て熊の足に糸を絡め転ばす。倒れたその上から針剣で突きの連撃を浴びせるが、熊は糸音の腕を掴み壁へと投げ飛ばした。叩きつけられた糸音はふらつきながら立ち上がる。

 

「終いかな」

 

クワイエットが鞭を叩きつけるとグリズリーは糸音へと向かって走り出した。

 


「兄さん達、気をつけてね」

 

「あぁ、ミナモさん頼みますね」

 

「はい」

 

いつまで経っても帰って来ない糸音を不安に思い、ルクスリアと紅羽は探しに行くことにした。

 

「さて、森の奥に行った可能性があるな」

 

「森の奥には何かあるのか?」

 

「いいや、知らないな。俺も行った事はないからな。だけど、糸音のことだ何となく念入りに調べるならそこだろうってな」

 

「お前の感はよく当たる、信じよう。そういえばあの熊。あれは普通では無かった。実は対峙した時、違和感があったんだ」

 

「違和感?」

 

「あぁ、熊の皮膚が妙に硬かった。私の爪も少し欠けるくらいにな。まるで強化された様な感じだったな。それにおそらくあれは子熊だ。もし私の読みが正しければ親がいる」

 

「まずいな、もしそうなら子を殺された恨みで凶暴化するなんてあり得る事だからな」

 

「とにかく、森の奥へ急ごう」

 

「あぁ」

 

二人は夜の森、奥深くへと入って行く。


 

(あぁ、だめだ・・ふらつく・・・くそ)

 

糸音はふらつきながら針剣を構え、向かってきたグリズリーの攻撃を受ける。しかしそれもギリギリもギリギリ。隙を見せた糸音の横腹に鋭利な爪が突き刺さる。

 

「くっ!!」

 

「いいぞ!だが死体は綺麗な方がいい。心臓だけ抉るのだ、グリズリー!」

 

「ぐおおおおおおお!!!!!」

 

グリズリーはもう片方の手で糸音の心臓目掛けて襲いかかる。

 

(だめか・・はっは。こりゃ死ぬな。ごめんな紅羽、ルクスリア。椿・・・もう少し遊びたかったな・・・)

 

そんなことを思っていると、突然脳内に声が響く。

 

(こんなところで死なれては困るな)

 

その瞬間、糸音は意識を失った。そして心臓へと向かったグリズリーの爪はその手前で割れた。そしてグリズリーの体は謎の衝撃波によって壁へと吹き飛ばされる。

 

「なっ、なんだ!?何が起こった!?」

 

糸音を中心にドン!ドン!と一定のリズムで衝撃波が放たれ洞窟内を震わす。壁へと吹き飛ばされたグリズリーが再び立ち上がり、糸音へと猛スピードで駆けてきた。

しかし次の瞬間、グリズリーの腕が飛んでいきその場に倒れた。

 

「なんなんだ!?お前は!いけぇー!狼共!」

 

クワイエットは目の前にいる者に恐怖し錯乱し、乱心で鞭を叩きつけた。無数の狼達は焚き付けられると一斉に糸音へと向かわせた。

 

「小さき命よ、すまないな」

 

()()

 

次の瞬間、糸音が手を叩くと自身を中心に衝撃波を放った。狼達を吹き飛び、その衝撃波は洞窟を内側から吹き飛ばした。

 

「ばかなーー!!!」

 

クワイエットも衝撃波により体を粉々にされた。

洞窟は吹き飛び、そこには直径約200メートルもの大きなクレーターができていた。グリズリーも無数の狼も木々と共に消えた。糸音はその中心に立っていたが、しばらくして意識を失い倒れる。

 

「なんだ!?」

 

近くまで来ていた紅羽達は凄まじい風と共に大きな音を聞いた。凄まじい風に二人はかろうじて飛ばされる事なく踏ん張った。

風邪が止み、静寂が訪れると、ルクスリアと紅羽は音が鳴った方向へと急ぐ。そして二人が音の鳴った場所に辿り着くと、そこにはまるで隕石でも落ちたかの様な巨大なクレーターがあった。

 

「これは・・なんだ・・」

 

「何があったんだ!・・ん?おい!あそこに糸音がいるぞ!」

 

ルクスリアがクレーターの中心に糸音が倒れているのを見つけて、二人は糸音のもとへと駆ける。

 

「糸音!しっかりしろ!」

 

「糸音・・しかし、一体何なんだこのクレーターは・・」

 

「心臓は動いている。紅羽、今は糸音を連れて帰ろう。何があったかは目覚めた糸音に直接聞くとしよう」

 

「そう、だな」

 

二人は糸音を連れてクレーターを後にした。

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