早い再開(二)
一
洋館へと着いて早々椿は自分の部屋へと戻っていった。
「はぁ、子供とは難しいな」
椅子に座り一息ついたルクスリアはため息混じりにそんな事を呟いた。
「私の時より酷いな。まぁ滞在中、頑張って仲良くなるんだな」
「また、人ごとみたいに言って」
「まぁ、そのうち椿もお前がいい吸血鬼だってわかってくれるさ」
「紅羽のその言葉を信じるよ」
「どうぞ」
ミナモさんが三人分のお茶を用意して持ってくる。
「ありがとう。それで神薙の館へはいつ行くんだ?」
「そうだな。日も傾いているし、今日はゆっくりさせてもらって明日にするよ。付き添い頼むぜ紅羽」
「任せろ。それで、糸音はどうする?」
「私は椿と一緒にいるよ」
「じゃあ留守はよろしく頼むよ。ちょっと早いが、飯の準備でもするか。ミナモさん!今日は豪勢に頼むよ!」
「承知しました」
「ミナモ。私も手伝います。久しぶりに一緒にやりましょう」
「助かります雛菊。では、お言葉に甘えて」
ミナモと雛菊はキッチンへ移動し、残った三人はしばらく談笑した。
ミナモと雛菊がご飯の準備をして、下で三人が談笑している間、椿は時間を持て余していたのでいつもの刀を持ってこっそり家を出て森へと向かった。
「はぁ、なんか申し訳ないことしたかな」
椿は森の中を歩きながら一人物思いに耽っていた。それのせいで後ろからついて来る熊に気づかないでいた。しばらく歩いたところでようやくその存在に気付いて振り返り刀を構える。
「く、熊!?こんなところに、なんで!?」
(とにかく、逃げないと!)
椿はゆっくりと後ずさると自分の後ろが高い崖になっていることに気づいた。そして次の瞬間大きな熊は椿に襲いかかってきた。
「うわ!」
椿は足を踏み外して崖の下へと落ちていく。
二
「糸音、椿を呼びに行ってくれないか」
夕食の準備が整って、糸音は紅羽に言われて二階へとあがる。軽く椿の部屋をノックすると反応が無く、気配がしないことに気づくと部屋を開ける。
「椿?」
部屋は真っ暗で誰も居なかった。糸音は少し焦り、階段を駆け降りてリビングへと向かった。
「紅羽!椿がいない!」
「なんだと!?まさか、森へ行ったのか!?」
「紅羽、私が探しに行ってくるよ。心当たりはある」
「私も行こう」
「わかった。俺たちで行こう!ミナモさんと雛菊さんは椿が帰って来た時のために残っていてくれ」
「承知」
「よし!手分けして行くぞ!」
三人は館を出ると手分けして椿の捜索へと向かった。
糸音はいつもの稽古場である小川に行ったが、そこには誰も居なかった。
「ここでは無いのか」
一方、紅羽は昔よく椿と遊んでいた森の中の秘密基地へ探しに行くがそこにも居なかった。そしてルクスリアは手がかりは無いが匂いを頼りに椿を捜索していた。
「この辺りで匂いが消えているな」
辺りを見渡すと森しかなかったがしばらく歩いていると崖が出て来た。
「まさか、落ちたのか」
ルクスリアは崖の下へと降りていくと木に引っかかって気絶している椿を発見した。
「いたッ!おい、しっかりしろ」
ルクスリアは椿を木から下ろすと呼びかける。しばらくして椿が目を開けた。
「あ、ルクスリアさん・・ごめん、ね。うっ!」
「どうした!ん?」
椿の体をよく見ると足から出血し怪我していた。
「折れて、歩けないや」
「任せろ!私が連れて帰る!」
「ありがとう」
ルクスリアは椿を担いで、かなりの高さがあった崖をひとっ飛びで、元いた場所まで戻る。
「すごい、ね」
「大丈夫か?」
「うん」
「!?」
ルクスリアが正面を向くとそこには一匹の大きな熊が立ちはだかっていた。
「あ、さっきの熊・・」
「さっきの?なんだ、コイツから逃げていたのか」
「そう、それで落ちちゃって」
「なるほどな」
ルクスリアは熊に警戒しながら椿を近くにあった木にもたれさせる様におろす。
「ちょっとだけ大人しくここにいろ。すぐに終わる」
ルクスリアは熊へと向き直ると近づいていく。熊は敵を認識し威嚇をしていた。ルクスリアが手の届く範囲まで来ると熊は立ち上がり、鋭く尖った爪で攻撃をしてくる。しかし、熊の爪はルクスリアに届くことはなかった。ルクスリアは目にも止まらぬ速さで熊の胴体を真っ二つにした。
「すごい・・」
それを見ていた椿は思わず感嘆の声をもらした。
「お待たせ、じゃあ帰ろうか」
「え、あっさり・・・うん」
ルクスリアは椿を再び背負うと来た道を戻る。その道中、紅羽と糸音に会った。
「椿!」
二人は椿を背負ったルクスリアへ駆け寄る。
「足が折れているみたいだ。このまま私がおぶって帰るよ」
「全く、お騒がせな妹だ。でも見つかって良かったよ。ルクスリア、すまないな」
「いいよ」
「とりあえず、帰ってミナモさんに見てもらおう。ミナモさんは元医者だからな」
「そうだったのか」
三人は椿を背負って洋館へと戻る。洋館へ着くとミナモに椿を任せて、雛菊は料理にラップをかけて冷凍室にしまった。
そして、三人はリビングで椅子に座り一息つく。
「でかい熊に襲われたそうだ」
「熊?」
「森でよく、椿と遊んでいたが熊なんて見たことは無かったぞ」
「だろうな。この時期、熊なんてこの辺にはいなかったはずだから」
「明日、私が森の様子を調べてみるよ」
「看病は私とミナモでしますから。二人は明日行ってください」
「ありがとう雛菊さん、糸音。ならば気は進まないが予定通り、俺とルクスリアは館へ行く。糸音、無茶はするなよ」
「任せろ。私を誰だと思っている」
「そうだな。俺は風呂へ入ってもう寝るよ。ルクスリア、明日またゆっくり話そう。歓迎会もやり直しだ」
「あぁ、また明日な。じゃ、おやすみ糸音」
「あぁ、お休み。ルクスリア、会えてよかったよ」
糸音はリビングを去っていった。
ミナモと雛菊は椿の看病を、糸音を就寝し、残された二人はリビングで一息つく。
「はぁ、全く心臓に悪いぜ。ルクスリアがいてくれて助かったよ」
「無事で良かった。あの崖の高さから落ちて骨折で済んだのは幸いだったな」
「当分は一人で森へ行くのは禁止にしないとな。まぁ、最近は糸音も一緒だから大丈夫なんだけどな。さすがに一人は危ない」
「過保護だな。それでどうだ、糸音は?」
「あぁ、椿とよく遊んでいるよ。殺しとは関係のない日常を送っている。このまま何もなく平和に暮らせたら、糸音は普通の幸せな生活を送れるだろうな」
「そうか。なら良かった」
「ルクスリア・・いや、ここで話すことではないか。今日は椿をありがとうな。お前も疲れたろ。ミナモさんの部屋にベッドが二つあるから使っていいぞ。安心しろ。しっかり許可は取ってある」
「じゃあ、お言葉に甘えて休ませてもらうよ。明日はよろしく頼む、おやすみ紅羽」
「ああ、おやすみ」
一人残された紅羽はリビングのソファに横になるとそのまま目を閉じて眠りについた。




