要塞都市戦(終戦)
「ぐあああああああああああああああああああああああああ!」
「くっ!・・・流石に熱いな・・・だがしかし、いや・・・なんだ、熱くなくなっていく・・これなら!」
戸惑うルクスリアは炎に包まれている中でクレインへと向かって血剣で斬撃を放った。クレインは炎に悶えながら、躱す事が出来ずに胴を真っ二つにされてしまう。
「この、状況で・・・動けるとは・・まさか!?」
ルクスリアの燃え盛る体から炎が少しずつ消えていく。
「炎が消えて・・いく・・」
「はっは、なるほど。まさか、実の娘が色濃く受け継いでいたということか」
ルクスリアの体から炎が完全に消えた。クレインはその場に倒れて天を仰ぐ。
「終わりだなクレイン」
「あぁ、完敗だ。もう痛みすら感じぬ。もうじき灰になり消え去る。その前にさっきの回答の答えを教えてやろう」
「あぁ。私の記憶を変えた奴の話だな」
「先に謝っておく。すまない。その件の人物の名前はわからないのと、お前に何故、記憶改竄を施したのかは知らない。ただ、その時一緒にいた男の姿は覚えている。縁起の悪い、黒い喪服の怪しい男だった」
「喪服の男・・ありがとう。今はそれで十分だよ。記憶は戻ったんだし、焦ってそいつを探し出すこともないだろうしね」
「そうか・・・娘よ。最後に一つ忠告だ。吸血鬼の血は恐ろしい。心の奥底にある欲望が沸々と湧いて来るんだ。それに抗うことができなければ、俺のようになる。まぁ、お前なら心配ないだろうがな。・・・・ルクスリア、人は怖い生き物だ。善人ずらした悪人がこの世界にはたくさんいる。くれぐれも気をつけることだ」
「忠告ありがとう。父さん」
「・・・ふん。お前にそう呼ばれるのは何年振りか」
「最後に一ついいかな?」
「なんだ?」
「母さんは、どんな人だった?」
「・・あの人は、とても優しく、誠実で正義を志す、気高い人だった。知っているだろうが、体が弱かったお前の母はお前を産んですぐに亡くなった。もし、あの人が生きていたのなら、私は・・・」
クレインは目を瞑ったまま完全に灰となり消えていった。
「ありがとう。父さん、安らかに」
ルクスリアは落ちていた和刀の鞘を拾い刀身を戻すと、振り返って詩織たちの元へと歩き出す。
「ルクスリア!大丈夫なのか?」
「あぁ、大丈夫。吸血鬼になっちゃったけどな」
「はっは。最強じゃん!」
「終わったな。ルクスリア」
「あぁ。それよりも紅羽、体は大丈夫なのか?」
「おうよ。何本か折れてるが歩けるぜ」
「そうか・・・詩織。糸音。紅羽、ありがとう。君たちのおかげで正義を成すことができた。でも、ここからが本番だ。この北の土地をどう導いていくのか。見ていてくれ」
長かった悪党が支配する時代は三人の人間と元人間がたったの二週間たらずで終わらせた。
そして一人の完全無欠の不死身の吸血鬼が誕生した。北の大地、各地に苦い爪痕を残し終戦。この国にルクスリア・ベルフェナーレがいる限り、未来永劫、悪による支配はこないであろう。
二
「本当に終わったんだな。しかし、まさかあんたが吸血鬼になるなんてな」
「ふん。私もびっくりさ」
糸音とルクスリアは要塞と呼ばれていた建物の残骸の前で立ち話をしていた。
あの後、牢屋に捕えられていた生き残った住民を解放。それから三日が経ち今現在、生き残っていた大人達とクレインバルドからの派遣でルクスリアの元部下だった者達による支援で要塞のあと片付けと新しく建物を作り直す作業、各地街の復興に取り掛かっていた。
「本当に助かったよ、糸音」
「そりゃ良かった。そういや体は何ともないのか?」
「あぁ、思いのほか平気だよ。吸血衝動はあるけど、血液を住民たちから分けてもらえる事になったから、大丈夫だよ。皆には感謝しないとな」
「そうか」
「なぁ、糸音」
「なんだ?」
ルクスリアは真剣な面持ちで糸音へと向き直る。
「これからどうするんだ?もしよかったら一緒に・・」
「いいや。すまないなルクスリア、私も少し手伝ったら、ここを去るよ。そういや詩織のやつも受けていた仕事の依頼が完了したから、明日には次の仕事の依頼があるからここを出るみたい」
「そうか・・・寂しくなるな」
「そういえば、結局あんたの父親は何故ジャックザリッパーなんて名乗っていたんだ?」
「さぁな。色々疑問が残るが、まぁ焦って調べる必要もないだろう。そこらへんは落ち着いたらゆっくり調べるさ。今は各地の復興と悪党の残党処理だ」
その後、少し雑談をして二人は住民たちの手伝いへと戻った。夜になり、糸音が借りていた宿でゆっくりしていると紅羽が訪ねにやって来た。数回のノックの後、扉が開かれ中へ紅羽ねが入ってくる。
「おう、今大丈夫か?」
「あぁ、いいよ。紅羽、怪我はもう大丈夫なのか?」
「あぁ。おかげ様でもうピンピンしてるぜ、っていうのは嘘だけど、まぁ動けるくらいには回復したよ」
「相変わらず、化け物みたいな回復力だな。まるで吸血鬼だ」
「はっは、冗談はよせよい。それより、ちょっと付き合ってくれねぇか」
糸音は静かに頷くと二人は家を出た。行き先は告げられず、なくなく紅羽の後を追う糸音。二人は要塞の裏手に周り、山道を進んで行く。辺りには木々に囲まれた森が続いていて、次第に坂が険しくなっていった。
「おい、どこまで行くんだ。こんな時間に山登りなんて聞いてないぞ」
「まぁ、黙ってついて来なって」
「はぁ・・」
言われて大人しく後をついていく。そして数分歩いていると少し開けた場所に出る。
「ここは・・」
「ほら、前に言っただろ。妹に見せたい景色があるってさ、ここだよ。ここからの眺めがいいんだ。どうよ!今はまだ復興途中で灯りが少ないが、数年も経てばもっといい眺めになるぜ。それから空を見ろよ」
空を見上げるとそこには数えきれない程の無数の星の海が広がっていた。
「こりゃ・・・凄いな」
「だろ!早く見せてやりたいぜ。ここからの景色もこの空も」
しばらく二人は静かに眼下に広がる景色を見ていた。糸音はこれからどうするかを考えていた。実家に戻る気にもならないし、この土地にいるのも違う気がした。
「なぁ糸音、俺と一緒に来ないか?」
「え?」
「特に深い意味はないぜ。俺と妹、それからお手伝いさんが実家にいるんだが、四人で暮らさないか、もしよかったらなんだけど」
「そう・・だな。まぁ、行くところもないし。しばらくの間、厄介になるかな」
「おう!妹と仲良くしてやってくれ。多分、年は同じぐらいだし気が合うんじゃねぇか」
「だといいな」
翌日、詩織が発つ日となり、見送りの為、南のサベロの港に四人はいた。
「おいおい、そんな小船でいけるのか?」
糸音は詩織が立っている小船を見て言う。それはあまりにも小さい子船。人一人しか乗れず、木でできた、もろそうな船だった。
「まぁ、いけるしょ!」
「ほんとかよ。ルクスリア、ちょっと良い船ぐらい持ってないのか?」
「まぁ、あるにはあるが。詩織に断られてな。まぁ詩織の事だし、こんな船でもなんとかなりそうな感じはするが・・・」
詩織はルクスリアに向かってグッドサインを出した。
「大丈夫!じゃあ皆んな、あんがとねー!まぁいつかまた会えるよ。何かあったら呼んでねー。その時は良い値で引き受けるよ!」
「あぁ。詩織は大陸に戻るだけだろ?近いうちに俺たちも戻るから、いずれまた会えるかもな」
詩織は笑顔で手を振り、船を出す。小さな船は港をゆっくりと離れだす。
「ルクスリア!頑張れよー!糸音も風邪ひくなよー!兄貴は、兄貴は、頑張れ!」
「おい!最後になんて適当なやつだ!・・・はっは、あいつらしいな」
「元気でな詩織!ありがとう、また会おう!」
糸音は小さく手を振る。次第に詩織はゆっくりと遠くへと消えていった。
「あっさりな別れだったな」
「まぁ、また会えるだろ。どっかでな・・・」
「ルクスリア、泣いているのか?」
「ばかっ!泣いてないよ。それにあいつのことだ、ひょんなとこでフラッと現れるだろ」
「ふっふ、そうだな」
「よし!二人共、サベロの街に良い喫茶店があるんだ。そこでお茶にしよう」
三人は詩織を見送ると、ルクスリアの案内のもと一旦サベロの街へと戻った。
詩織は離れ行く北の大地を見ながら、船を漕いでいく。
「はぁ・・・色々あったな。楽しかったし万々歳で大団円だったねー。それに・・・・約束は果たしましたよ、糸衛さん。あなたの言われた通りに・・・・」




