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天使の探究者  作者: はなり
第五章 忘却再生

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要塞都市戦(六)

「父だと・・どういうことなんだ」


「さぁ、私も初耳・・でも、そういえば昔初めて会った時、父親は悪党になってしまったとか言ってたような」


「糸音!」


ルクスリアはいつの間にか持っていた緑の血栓を糸音へと放り投げる。


「それが吸血鬼化を戻す血栓だろ。早く子供に打ってやってくれ」


「でも、ルクスリアが!」


「良いんだ。糸音」


ルクスリアは純粋な眼差しを糸音へと向けた。その目に糸音は何も言えず、言われた通り今も苦しむ子供のもとへ駆け寄り血栓を打つ。子供は落ち着きを取り戻し、静かな寝息を立て始めた。


「ルクスリア!もう、大丈夫だ・・」


「そうか。よかった」


「何とも手癖の悪い子に育ったなルクスリア。しかし、久しぶりと言うべきか娘よ。元気そうで何より」


ジャックもとい、クレインと呼ばれた男の頭と体は砂へと消え、闇の中から再び無傷の状態で現れる。


「談笑でもするのか?そんなつもりはないんが、あんたには聞きたいことが山ほどある」


「奇遇だな。私もだ。まず最初に、何故帰って来た?」


「平和を成すためだ。逆に聞く。何故あの時、私を逃がした?」


「逃がした?それは間違いだ。あの日、あの馬鹿どもに殺されたのだよ。激しい戦いだった。牢が開いたのは、その戦いのせいでは?そこまではわからない」


「そうか。それはわかった。では、何故ジャックなんて名乗っていた?」


「アイツらに悟らせないためにだよ。まぁ、順を追って話そうか。なにせ私たちには腐るほど時間があるんだからな」


「・・・・・」


「あの日、お前も知っているかもしれんが、吸血鬼になる前の、あの三人と激しい戦いになってな。苦戦したよ。なんせ私も当時は吸血鬼の力なんて初めてだったからな。この血には手こずった。無論、あいつらにもな。小賢しいやつらだったよ。私も頑張ったんだがな、なんせ三対一だ。吸血鬼と言えど、なりたてでは力をうまく扱えず、殺されてしまった。だが、かろうじて近くに人間がいてな。その者の血液を頂いたんだ。そして生き延びた。がしかし、一人では足りんかったのだ。だから・・・」


街の連中を一人残らず絞りつくした。


「道理であの時、誰も居なかったわけだ。本当に救いようのない外道だな。娘としてはずべきだ」


「恥ずべきね・・・でも、驚いた。街をしばらく去って帰って来てみると、子供や僅かな生き残りがいたとはね。いや、もしかしたら移住でもしてきたのかな。まぁ、どうでもいいがな」


「街を去っていたと言うが、なんのために?」


「もちろん。あいつらへの復讐だ。と言ってもただ殺すのではもったいないからな。だから実験することにしたんだ。ある男から聞いてな。というのもその男に吸血鬼にしてもらったんだがな」


「どういうことだ?」


「私がこうなったのは、離島からやって来た集団の中にいた一人の男が持ってきた血液を体内に入れたおかげなんだがな」


「ある集団?」


「名乗りはしなかったが、面白い話を聞いてな。なんでも、吸血鬼の血栓を作ったとか。それでそれを高値で買ったのさ。最初は自分に打つのを躊躇ったが、そうも言ってられない状況になってな。あの馬鹿三人が殺しにきたんだ。不意打ちだった。奴らがその場から消えた瞬間、私は死の瀬戸際、持っていた血栓を打った。だが、その時は効果はなかった。しかし、何日か経った頃、意識が急に覚醒してな。驚いたよ。最初は死後の世界かとも思った。だが、外の光景を見て確信した。ここはヘイオーなのだと。街は悪党で再びあふれかえり、あの馬鹿どもがふんぞり返っている。そして、対峙した。激しい戦いを繰り広げたが、敗れてしまった。まったく情けない話だよ。生き返ったと思ったらまた死んだんだから、しかも同じ相手に殺された。だが、また生き残ってしまった。その時には、もうアイツらはいなかった。だから、探しに行ったんだ。すぐ見つかったよ。それで考えたんだ、復讐より、もっと面白いことを」


「面白いことだと・・」


「そう、アイツらにも同じものを打ってやろうと思ってね。と言っても全く同じではないがな。私のを打ってやったんだ。まぁ軽いお遊び程度の実験だよ。結果は半々、あまり良いとは言えないがな。それでも十分楽しめた」


「そうか。それはわかった。気の毒だが、元々は悪党だ。同情などはしない」


「ふん。冷たいやつだ。それで、私が話したい事はこれぐらいだが、どうする?」


「愚問だな。話は終わった、わかり合えないのは最初からだった。なら殺し合いしかないだろ」


「そうだな。最後に一つ、お前への記憶操作は私も知らない。ただ話を聞いただけだ」


「聞いただけ?誰に?」


「そうだなー。それは・・私に勝ってからだな!」


クレインは話を切り、一瞬で間合いを詰めてくると手にしたナイフをルクスリアへと振り下ろす。

しかしルクスリアは躱さず、己が手にした和刀で防ぐ。

そのままルクスリアは後ろへと距離を取り、剣先をクレインへと向けると、剣先から血の針を出し、クレインへと飛ばす。さらにルクスリアは剣を一振りして血の斬撃をクレインへと放つ。凄まじい血の斬撃をクレインは自身の鋭利な爪とナイフで針と剣撃を受け止めるが、耐えられず壁まで吹っ飛んだ。

視界が開けた瞬間、クレインの姿は消えていた。


シュッ!


ルクスリアへと忍び寄る影が一つ。影を移動してクレインはルクスリアの背後に現れたのだ。瞬間、クレインの鋭い爪がルクスリアの背中を切り裂く。

 

「がはっ!」

 

「これが私の力。油断しましたね」

 

「なるほど、ね」

 

「!?」


クレインは驚きの顔を見せる。ルクスリアの切り裂かれた体は霧のように消えた。瞬間、クレインの背後に現れ、ゼロ距離の血の剣撃を放つ。

 

(ぐっ!?馬鹿な!・・速すぎる!?何かの能力か・・)

 

クレインはまたも四肢をバラされ絶命する。しかし、それも数秒のこと。再び体は元の形に再生。五体満足のクレインが再び立ち上がる。


「痛いな。しかしどういう原理だ?とてもじゃないが動きが速すぎる」

 

「私も正直理解はしていない。だが、おそらく私の吸血鬼の能力は瞬間移動」


「なるほど。私のと似てるな。やはや、やはり血筋か。だがしかし、いくら速いと言っても私に致命傷を与えることはできない。何度でも蘇る。無論互いにな」


「そうだな。あんたの影移動の能力にも、この力にもだいぶ慣れてきた、ここからだ」

 

「久しぶりに父さんが遊んであげよう」


ジャックは黒い影となりルクスリアの目前まで迫ると爪を突き立てた。ルクスリアは素早い動きで躱すと血剣でジャックの胸元を切り裂いたがジャックは再び黒い影となり消えた。

 

(これはたしかに厄介・・)

 

「慣れたと言っても、さすがに影の中までは斬れないでしょう」

 

ルクスリアの血の斬撃を、ジャックは影の中を移動して躱し続ける。

 

「どれだけ強くて速く動けても、あれじゃあキリがないじゃん」

 

「何か方法はないのか」

 

(一つだけある)


「ん?」

 

(安心しろ。幻聴ではない、今二人へは思念で話しかけている)


(思念って・・そんなこともできるのか?)


(なんかできた・・・)


(はっは。ただものじゃないねールクスリア)


(それで策は?)


(あぁ。でも、それは両者共死ぬ可能性のある。一か八かの賭けだがな」

 

(それじゃ意味がない!あんたは生きなきゃだめだ!)

 

(安心しろ。私は無駄に死ぬつもりはない、だから協力してくれ)

 

(だけど!)


(糸音・・・頼む。このままだと全滅する可能性だってあるんだ。だから、頼むよ。夕凪糸音)

 

(・・・・わかった)


(ありがとう)

 

ルクスリアは思念で二人に作戦の内容を伝えた。糸音と詩織は話を聞き終えると顔を見合わせ作戦実行にでた。

まず糸音は針と糸で大きなラッパを作ると、目を閉じて周りの音に集中し始めた。

 

「おや?何かするつもりか?親子の時間に割って入るなんて無粋なやつだ。今更、無駄な足掻きだな。だが、少しでも不安の芽は摘んでおくにこしたことはない」

 

クレインは糸音の行動を警戒し、ルクスリアの斬撃を擦り抜け、糸音へと接近。

しかし、ルクスリアが瞬間移動でその行く手を阻む。

 

「残念」


ルクスリアの前にいたクレインは影となり消え、糸音の目の前へと現れた。


「しまった!」


クレインの鋭い爪が糸音を襲う。


「詰めが甘いぜ」


「!?」


しかしクレインの攻撃は糸音には届かなかった。糸音とクレインの間に鋭い爪を両腕で押さえながら紅羽が立っていた。


「貴様!?生きていたのか!?」

 

「紅羽!!」


ルクスリアは瞬間移動で近づき、クレインを蹴りで引きはがし吹っ飛ばす。


「糸音!いけるか?」


「あぁ。紅羽のおかげでね」


「詩織は!」


「準備万端!兄貴、カッコいいぜ!」

 

詩織は巻物をあるだけ取り出すと、天井目掛けて火を、雷を、風を放ち、派手に天井を吹き飛ばした。瓦礫ごと吹き飛ばした空からは冷たい雪が降っていた。

 

「何をするか知りませんが、外に逃げるつもりなら、無駄ですよ!」

 

「開けたよ!糸音!」

 

糸音は周りにある有りとあらゆる音をラッパの中に集めた。刀と刀がぶつかり合う斬撃音、詩織が吹き飛ばした瓦礫が瓦解する音、風の音、雷の音、火の音、四人が鳴らす足音、音と音が重なり足されて、一つ一つは小さく、大きな音もあるがその全ての音が一つとなりそれが凝縮され糸音のラッパに込められる。

 

「やるか」

 

糸音は天に向かってラッパを吹く。音波は天高く舞い上がり敷き詰められたぶ厚いいくつもの雲の層に穴を開けると糸音の指を鳴らす合図と共に上空の雲は音波によって胡散していった。

 

「まさか!?」

 

あまりに荒唐無稽な事が起こり驚くクレイン。そして開けた空から太陽が当たり一面を照らし始めると、クレインとルクスリアの体が燃え始めた。

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