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天使の探究者  作者: はなり
第五章 忘却再生

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第二の故郷

詩織を見送った三人がサベロの街に着く頃には、すっかり日も落ちて夜になっていた。街へ着くと、さっそく三人はルクスリアの言っていた喫茶店へと入り、談笑していた。


「そういや、吸血鬼ってコーヒー飲めるのか?」


「あぁ。飲めるし、全然美味しいよ。人間の頃と、思ったよりも色々変わらないもんだな」


「そうなんだな。それじゃ、にんにくとかはどうなんだ?食えるのか?」


「まだ食してないからわからないけど、多分大丈夫だと思う。まぁ、太陽を克服したんだし、それしきのことでダメなら笑えるけどな」


「はっは。ちげぇねー」


「でも、なんで克服できたんだ?私が知っている吸血鬼の進化の過程とは大きく異なってるみたいだけど」


「さぁな。まぁ、生きてるのなら別に気にしないけどね。今はいいだろう。それよりもっとやるべきこともあるしな」


「たしかに、それもそうだ。それにしても色々大変だったが、これでやっと一息つけるんじゃないか?」


「そうも言ってられないさ。さっきも言ったが、色々やる事がある。この土地の平和を継続させる為にはまだまだ問題は山積みだ。なんなら、これからが一番大変だ」


「そうか、それもそうだな。まぁ、私も何かあればすぐに駆けつけるよ、と言っても、連絡手段はないんだけど。風の噂を聞けば飛んで行くよ」


「ありがとう糸音」


「俺も駆けつけるぜ」


「あぁ。ありがとう紅羽」


三人はその後もしばらく談笑し、夜も更けた頃に、三人はサベロにある宿泊施設へとやってきてそれぞれの部屋で休むことにした。

そして、静かなる深夜。紅羽の部屋のノックが鳴る。入ってきたのはルクスリア一人だった。


「よう、紅羽」

 

「何だルクスリアか。こんな時間に一体どうしたんだ?」

 

「あぁ。寝るところだったらすまない。少しいいか」

 

「ん?まぁいいぜ。究極な眠気はきてねぇしな」

 

二人は外へ出ると、深夜の街角にあるバーへと赴いた。

 

「へぇ。こんなとこまであるんだな。こういう店が深夜でも開けてれるのも、平和の賜物だな」


「そうだな。本当に感謝しているよ」


「皆んなで勝ち取った平和だぜ。感謝はもういらねぇよ。それで、何だ?こんな所までわざわざ呼び出して」

 

「紅羽、君は糸音と実家に帰るんだろ?」

 

「あぁ。一応そうなるようになったな」

 

「そうか。それで、一つ頼みなんだが、糸音を戦いから遠ざけてほしいんだ。糸音はこの地で、いや、もっと前から人を殺し続けていて、その度にアイツの中にある闇が見え隠れしている」

 

「わかっているさ。実は、俺もアイツの中にある心の闇に気づいたからな。しかも、それだけじゃねぇ。まだ、何かあると思うぜ。詩織じゃねぇが、これは感だけどな」

 

「気づいていたか。まぁ世話をかけるが、糸音をよろしく頼む」

 

「あぁ、任された。それにしても、この街も数日で雰囲気がだいぶ変わったな」

 

「各地に派遣した部下たちと市民のおかげだよ。昼間行った、素敵な喫茶店もできて、この地は徐々に再建し始めている」

 

「そういえばルクスリアはどうするんだ?この土地で北の王様にでもなるのか?」

 

「ふっふ。冗談はよせ。王にはいらないよ。まぁ先に言っておくと、私はこの土地で治安を維持する為の組織を作り、いずれ外交で大陸との交流も復興させようと思っている」

 

「いいじゃねぇか。それなら、俺が大陸側にあるカンナギって街のお偉いさんに話通しといてやるよ。一応、顔が利くからな」

 

「そりゃ、ありがたい話だな。甘えてばかりだが、その時は頼むよ」

 

「おうよ!任しとけ!糸音のこともな」

 

二人はグラスに入っていたお酒を飲み干すと、部屋へと戻り、深い眠りについた。

ルクスリアは布団の中で目を閉じて思った。


(こんなにも、ぐっすりと深い眠りにつけるのはいつ以来だろうか)



翌朝、三人は宿で軽めの朝食を取り、糸音と紅羽が出立する為、再び港へとやってきていた。

今回は詩織の時とは違って、ルクスリアの知り合いが用意してくれた大型船が停泊していた。


「さすがに小船じゃ無理だからな。助かったぜルクスリア」


「いいよ、別に。詩織の時と違って二人乗るんだし、流石に大変だろう」

 

「ちげぇねぇ。まぁ糸音一人なら、あれでいいって言いかねないかも知れねぇがな」


「紅羽。さすがに私もあれでは渡らないよ」


「だろうな。てか、糸音はどうやってこの北の土地までやってきたんだ?」


「たしか・・・たまたま、カンナギの方から出る夜船があって。その夜船は盗賊が盗んだもので、そこで潜伏してこの土地までやって来たんだ」


「はっは。俺と同じじゃねぇか。まぁ、乗ってきた船は違ぇだろうがな」


「似たもの通しだな。二人は」


「嬉しいねー。まぁ、それはそうと、ルクスリア、色々とありがとな」

 

「あぁ、こちらこそだ。また、いつでも来い。おもてなしくらいはするさ」

 

「そりゃいいや。また、いずれ寄らせてもらうよ」

 

「ルクスリア。ありがとう。この土地で私は色々学んだ気がするよ。初めて仲間と呼べる者に出会えた。ありがとう」

 

「糸音。私の方こそ、なんて言ったらいいか。喧嘩もして色々揉めたりもしたけど、仲間と呼んでくれるのは、まぁ、どこかむず痒い感じがするが。嬉しいよ」

 

「元気でな。まぁ吸血鬼はいつでも元気か」


「はっは。そうだな。私が死ぬ事はないだろうな。まぁ、頑張るよ。糸音、最後に一つ」


「改まって、最後になんだ?」


ルクスリアは糸音へと近づくと、優しく抱き寄せた。


「おいおい。なんだ?泣くのか?」


「ふっふ。まぁ泣きたい気持ちだが、そうじゃないさ。糸音、お前は一人じゃないんだ。何かあったときは、いつでも帰ってこい。ここが、この土地が、お前の第二の故郷だ。私たちはいつでも歓迎するよ。自分を見失うなよ」


「うん。ありがとうルクスリア」


ルクスリアと糸音が離れた瞬間、船の出港する合図が鳴る。

そして三人は名残惜しさを感じながら、糸音と紅羽が搭乗し、船はゆっくりと動きだした。

 

「夕凪糸音!紅呂紅羽!」

 

ルクスリアは、船に乗り、去り行く二人に向かって敬礼をしながら言葉を続ける。

 

「二人の正義に感謝する!この地を、我々を救ってくれた英雄達に幸あれ!いってらっしゃい!」

 

二人はそれを見て静かに微笑むとルクスリアに手を振った。


「はっはっは。ったく柄じゃねえな、英雄ってのはよー」


「ふっふ。そうだな・・・・行ってきます、ルクスリア」


糸音は少し微笑みながら、港で未だ見送っているルクスリアへと小さく手を振った。


「さぁ!糸音!いざ帰ろうか、俺たちの大陸へ!」

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