糸音VSライククイーン(一)
「思っていたより暗いな。たしかにこれじゃあ警戒して日中に行動ところで意味はないか」
翌朝、小屋を出発して早々にミラーレス地区へ入った四人は森の中、木々の陰から蠢く眷属崩れの様子を伺っていた。
「さて、じゃあ状況開始ですな。行くよー」
詩織が先陣をきって森から出ると、早速眷属崩れ達は詩織に向かってきた。
「どうするつもりなんだ詩織は」
「まぁ見てなって。俺も原理はわからないが凄いものだぜ」
詩織は懐から巻物を取り出して広げると円が書かれた場所をクナイで刺した。クナイを抜き取ると刺された穴から勢いよく水が溢れ出し眷属崩れ達を次々と飲み込む。
「おー、こりゃすごいな」
「詩織は忍者だったのか」
「忍者?」
紅羽は糸音へと問いかける。
「私も実際に会った事がなかったけど、姉から聞いた話しでは異国の地には妙な妖術を使う、忍者と呼ばれる者達がいるらしい。詩織の扱うあの武器も巻物も忍者が扱う物のように見える」
「へぇー、そうなんだな。糸音はなんでも知っているな」
「さぁさぁ、三人共くっちゃべってないで、今から道を作るよー」
そう言って詩織は違う巻物を取り出して広げると再び円が描かれている場所にクナイを刺すと、穴から猛烈な風が飛び出して首都へと続く、道の上にいた水に飲み込まれた眷属崩れ達を木々ごと吹き飛ばした。さらにその様子を見ていた三人は驚愕する。普通、水が両脇にあれば空いた穴には水が再び埋まるはずなのだが、まるで何かに固定されているように両側に水の壁ができて首都へと続く一本道ができていた。
「さぁさぁ!お二人さんどうぞ」
糸音達は少し驚きはしたが、黙って詩織の作ったその一本道を進んでいく。
「詩織、これってどういう原理なんだ?」
ルクスリアは二人の背を見送りながら、気になった疑問を詩織に問いかけた。
「あー、これはねー、正直私にもわからないんだよねー。まぁ原理はともかく、この巻物に力を封じて解き放つ、みたいな。あ、ちなみに水の壁に近づきすぎると壁の向こうにいるあいつらが手を伸ばしてきて引き摺り込まれるかもしれないから気をつけてね」
「あ、あぁ、わかったよ。しかし不思議なものだ」
「これでしばらく足止めできるかなー。巻物はまだまだあるし、まぁ正直一人でもいいんだけどねー」
「そうか。ならしばらく様子を見てから私も向かうとしよう」
二人が話していたら、城へと向かった糸音たちはもう見えなくなっていた。当の二人、糸音と紅羽はもうすでに首都ラルダの門の前に辿り着いていた。
「おそらく中にはさっきの奴らが、うようよいるだろうな」
「糸音は自由にやってくれ、サポートは俺に任せろ。親玉も同様に共に狩ろうぜ」
「助かる、了解した」
糸音は針剣を抜き、紅羽は和刀を抜き二人は構える。そして二人はでかく聳え立った門を蹴破り破壊すると案の定、街の中には眷属崩れ達が歩き回っていた。
「わー、まるでゾンビランドじゃねーか」
二人が入ってきたことに眷属たちは気づくと、一斉に襲い掛かってきた。何のことは無く、二人は次々と薙ぎ倒していき、城へと続く道を突き進んで行く。
「さすが、やるじゃないか糸音」
「ふん、そっちもな。城は目前だ、一気に行くぞ!」
二人は連携を取りつつ城へと突き進んで行く。道には斬られた眷属たちが無残に倒れ伏していた。それは死んでるわけではなく、二人に足の健を斬られたせいだった。
そうして器用にも薙ぎ倒して行った二人は城門へと辿りついてそれを破壊する。門の先、中庭にも眷属崩れ達で溢れかえっていた。
「中もいっぱいだな。よし、このまま突き進むぜ」
「あぁ」
糸音と紅羽は眷属崩れ達の薙ぎ倒しながら中庭を突き進む。中庭を抜け、場内へと入った二人は正面の階段を一気に駆け上がり突き当り分かれ道の前で立ち止まる。
「これどっちだ!」
「たしか、左か」
「おっけい!」
二人は左へと進んで行き、場内を突き進む。もちろんその道中でも眷属崩れ達は糸音達に襲いかかるが、二人共ものともせずに薙ぎ倒していく。二人は一気にライククイーンがいる扉の前へと辿りつく。
「ここだ、この天使かよくわからん絵の扉の先だろう」
「おっけい!先陣は任せる、手筈通り俺はサポート、行くぞ!」
二人はでかい扉を押し開ける。かくして、扉の先の大広間、玉座には男が一人座って二人を見下ろしていた。
「お前がライククイーンだな」
「ふっふっふっふっふ」
玉座に座っていた男は不敵に笑う。いかにも吸血鬼が羽織っていそうな黒のマントを羽織っていた。
「お前達がルクスリアの差し金か、そしてお前が一人でカルカサンドラとクレインバルドを殺った少女だな」
ライククイーンは糸音を指さして尋ねてくる。
「あぁ、そしてこれからお前を殺す」
「はっはっはっはっはっは!!」
何がそんなにおかしいのかライククイーンは腹を抱えて笑う。
「何笑ってやがる」
「いや、失礼した。俺は吸血鬼だぞ、死なない俺に殺す、とても滑稽な話じゃないか」
「滑稽なのはお前だよ」
「あー、もう一人いたのか。見ない顔だな。まぁそっちのお嬢さんも見たことはないが」
ライククイーンは興味無さげに紅羽を見ると、すぐに糸音との会話に戻った。
「それで名を聞かせてくれるか?」
「夕凪糸音だ」
シュッ!
糸音が名乗り終えたと同時に紅羽はいつの間にかライククイーンの目前へと迫り、和刀で腕を斬り落とした。しかしライククイーンは顔色一つ変えずにその場に座っていた。
「!?」
何かを感じた紅羽は後方へと退く。
(玉座ごと移動した!?いや、移動させられたのか、俺が!?)
「全く失礼な奴だな。今、私は彼女と会話していたんだぞ。それに死なないとはいえ、これはこれで痛いんだぞ」
そう言ったライクの腕はいつの間にか元通りにくっ付いて、何事も無かったかの様な涼しい顔をしていた。そのまま紅羽に向かって手を挙げてゆっくりと振り下ろした。
「・・・なっ!?」
その瞬間見えない何かが紅羽を吹き飛ばし壁へと激突させた。
「紅羽!」
「おいおい、ただの手刀の斬撃だぞ。まぁ咄嗟に刀で受けたことは褒めてやろう。それより糸音とやら、ぜひ殺し合おうではないか。俺は待っていたんだ、この力を試せる相手を。出来損ないとはいえ、あの二人を殺ったお前なら、楽しめそうだ」
そう言った直後、ライククイーンは一瞬で糸音の目前に迫り手刀を振り下ろし斬りつける。糸音はそれを咄嗟の判断で自身の針剣を抜き、受け流す。
「ほうほう、今のを躱すか」
「これが吸血鬼の全力か?思ったよりも遅いな」
「はっは。虚勢が素晴らしいな。それはそうと名乗り忘れていたな、失礼。私はライククイーン、気軽にライクと呼ぶといい。夕凪糸音、さぁ殺し合おうか!」




