仲直り
三人がアジトに戻ると、ルクスリアは椅子に座って待っていた。
「来たか・・・」
先日の事もあり、少し気まずい雰囲気が流れる。
しかし、その雰囲気を壊したのはやっぱり詩織、この女だった。
「はいはーい。なーに、変な空気にしてんのよさー。とりあえず、今は四大勢力の一つを落としたんだからさー、喜びましょー!さぁさぁ、ドジなアニキも、はい!これパン」
「誰がドジだ!てか、こういうのは酒じゃねぇのかよ。まぁ、パンはいただく」
「はっは。相変わらずだな詩織は。それに紅羽。詩織と糸音には酒はまだ早い」
ルクスリアは糸音の目の前まで歩いてくるとゆっくりと頭を下げた。
「ごめん。こないだは、少し熱くなりすぎた」
「あぁ、別にいいよ。私も怒ってないし」
そんな二人の様子をニヤニヤしながら、詩織はソファーで座って眺めていた。
「うんうん。仲直りっと。じゃあ、お腹減ったしパンパーティでもしますか!」
「パンが好きだな詩織は」
「パンは素晴らしいんだよー。まっ、と言っても今はマジでパンしかないからねー。これで我慢っと」
四人はお腹を満たすため食事もとい、パンパーティを開催する。
「みんな、食べながら聞いてくれ。南を拠点にサベロを治めていたカルカサンドラが死に、代理で統括する人間を置いてきた。このことはきっと西や東、北も周知していることだろう。他の三人が攻めてくるのも時間の問題だ。そこで先手を取って先に攻める」
「いいじゃん!それで、まずどこから行く?」
「そうだな。現状、西と東は一つになったと聞いてはいるが、正確なところは知らない。だから二手に分かれて行動しよう。西のブライト地区へは詩織と紅羽が向かってくれ、現状を知りたい。東のミラーレス地区へは糸音と二人で行く。くれぐれも無茶はするな」
「りょーかい。たいへんそうだけど、まぁアニキと私なら余裕余裕、そっちは糸音が強いからねー。一人でもなんとかできちゃいそう」
「そうでもないさ・・・ところでルクスリア。あの古城にあった研究所はなんだったんだ?」
「あぁ、それか。私も、奴の死なない体っていうのがどうも気になってな。奴が何の研究をしていたのか今、調べてもらっているところだ」
「そうか。街の方は大丈夫なのか?」
「あぁ。当分は苦しいかもしれないが、少しづつ良くなっていくと思うよ。なんせ、私の信頼している奴を統括にしたんだ。アイツならうまくやってくれる」
「そうか。前も思ったが、ルクスリアって知り合いが多いんだな。てっきり、私たちだけだと思っていたよ」
「ふん。こう見えて友達は多いんだ。君たち以外にももちろんいるんだよ。実践では戦えないが、そういうことなら任せられる人が何人か心当たりがある。まっ、たった四人でこの現状を変えるっていうのは合ってるけど、そういった支えてくれる人たちもいるってことを忘れないでほしい」
「あぁ」
糸音は食べ終わると一足先に二階へと上がり、すぐにベッドに横になる。
糸音はそのまま目を閉じ、眠りについた。
数分後、糸音の寝ている側で声がして目を開ける。
「食べてすぐに横になったら太るぞ」
ルクスリアがいつのまにか側に来て、椅子に座っていた。
「うるさい」
「ふっふ。まぁお前なら大丈夫か。なぁ、剣術は誰に習ったんだ?お前の殺し方は凄まじい、というか正直、人間技というより悪魔技と言った方がいいか」
「これは・・・・?」
糸音は口篭ってしまった。糸音自身も驚いていた。
誰に教わったのかを忘れてしまっていたのだ。
(あれ?何故、思い出せないんだ?)
「すまない。言いたくなければいいさ」
ルクスリアは一人で納得して、それ以降、追及してくることはなかった。
「ルクスリア。お前は何故、私を雇った?」
「ん?そりゃーたしかに強さにも惹かれたが、私はそれ以上に、闇の中にあるお前の正義を感じたんだ。悪への執着。その何かがお前の強さの本質なのではと、それを近くで見てみたいというのが理由かな。それともう一つ、行動を共にしてわかったことがある。それは危うさだ」
「危うさ?」
「あぁ。糸音、こういう事はあまり本人には言いたくないんだが、お前は心が弱い」
「心・・そうか、お前にはしっかりわかるんだな。いや、お前でなくても他人なら、私を見れば誰だってわかるか」
「だから困った時、どうしようも無くなってしまった時は私たちを頼れ。私たちは仲間だろ?」
「仲間か・・そういえば・・・強さを過信するな、って、そう誰かに言われたな」
「たしかにお前は強い。よっぽどのことが無い限り誰にも負けないだろうな。だが、何かきっかけがあれば狂気にのまれる危うさをお前からは感じるんだ。誰かがその危うい狂気を納める鞘となればいいんだ。だから、仲間を頼れ。私たちがお前の鞘になってやる」
「鞘・・・仲間」
ルクスリアは椅子から立ち上がると階段へと向かう。
「そろそろ私は、詩織と打ち合わせをするのでこれで失礼するよ、邪魔したな」
「あぁ」
ルクスリアは階段を下りて行く。その後、糸音は再びベットに横になり目を閉じる。
(狂気なる危うさか・・・・)
糸音はそのまま眠りについた。
夜になり、四人は早めの夕食を摂り、少しの談話を経てそれぞれ睡眠についた。
しかし糸音は昼間眠ったせいなのかなかなか寝付けなかったので、一度外に出ることにした。
森の中を進んでいき、昼間にやって来た川に辿り着くと同じような岩の上に座り、月を見上げた。
「なんだー、お月見かー」
声のする方を向くと眠そうな顔をした詩織が寝巻きで一人立っていた。
「ごめん、起こしたか?」
「いや、なんとなく起きた。それにしても今日は綺麗な月だな、ってことでこれ」
そう言った詩織の片手には酒瓶があった。
「呑めるか?」
「あぁ」
「よしきた!ルクスリア達には内緒だぞ、私ら飲んだらダメらしいから」
「そうだな・・・詩織はさぁ、なんでそんないつも呑気なんだ?別に悪いわけじゃない、ただ純粋に、何故いつもそんな元気でいられるんだろうって思った」
「えらく不躾な質問だなー。まぁいいけど。別に意識はしてないけど、こういうのが私には向いてるんだよねー。真剣に、とか嫌いなんだよ。すーぐふざけちゃうんだー。んで怒られる。逆に糸音は堅すぎるんだよー。だからさ、糸音はもう少し肩の力抜いて楽に生きたら良いのにー、っていつも思うよ」
「そうかな、自分じゃわからない。まぁ、頑張ってみるよ。そういえば詩織はなんでこの国に来たんだ?」
「えーと、私は大陸側で、ある依頼を受けてこの国にやって来たんだけど、まだその依頼は達成されていないんだよねー。今は依頼ついでにルクスリアと行動を共にしてるってわけ。それにここで顔でも売っておけば後々、何かの役に立つかもなーって」
「その依頼ってこの北部地方の現状を変えることと何か関係が?」
「いや、また別の依頼だよ。いや、でも半分合ってるのかなー?・・・まっ、私は何でも屋だからね!糸音も何かあったら言ってよ!いい値で引き受けるよー」
「そうか。まぁ何かあればまた依頼するかも、その時はよろしく・・・詩織って出身はどこなんだ?」
「私?私の出身地はねー、この北部地方からちょっと遠いところにあるんだけど、フール大陸って知ってる?」
「フール大陸・・聞いたことはあるが行ったことはないな。そもそも、あそこの出身の人間は見たことが無かった」
「珍しいでしょー。異国人だよー。糸音にも一つ聞きたいことがあるんだよねー。糸音って殺し屋一家の人でしょ?」
「〇〇〇〇。私の〇〇〇〇〇。だ〇〇〇々あって〇〇〇」
なんだ?勝手に言葉が出てくる。というか私、今なんて言ったんだ?
「お互い若いのに苦労してるよなー」
「ふっふ、おっさんかよ」
「お!糸音が笑ってるところ初めて見た!いいじゃんかわいいー」
「あぁ、私も久しぶりに笑ったかも。つか、可愛いとか言うんじゃねー」
「はい!かわいいからかんぱーい」
「おう」
二人は盃を躱し、どんどん酒を喰らう。
その後、二人はたわいもない会話を深夜まで続けると、さすがに酒のせいもあってか、眠気が襲ってきて、二人は帰って寝ることにした。
そうして家に帰ってくるとルクスリアが扉の前に立っていた。
「悪ガキども。酒なんか持ち出して、ダメだろうが!」
「私じゃない、詩織だ」
「あ、せこいぞ糸音!えーと、これはですね魔が差しちゃいまして」
二人のやり取りを横目に、糸音はこっそり二階にあがろうとするがルクスリアがそれを許さなかった。
「糸音、バレてるぞ、二人共こっちだ」
その晩、遅くまで、詩織と糸音は正座をさせられて、ルクスリアから説教を受けることとなった。




