首都ミンダル
一
北のフレアデル地区、雪の要塞の玉座でこの地区を治める男、ジャックザリッパーが手下から報告を聞いていた。
「まさか、カルカサンドラがやられるとはな。それでどこの地区だ?東か西か」
「いえ。それが、たった一人の少女らしいです」
「は?・・はっはっはっはっはっは!!!!いや、待て待て・・・どういうことだ?」
「南の地区は一人の少女に陥落させられました。正確には三人らしいのですが、カルカサンドラを殺したのはその少女らしいです」
「一人というだけでも驚きだが、少女だと。面白いな!今すぐそいつが何者なのか調べろ!」
「はっ!かしこまりました!」
陽気なジャックザリッパーを残して部下が下がっていき、玉座の間が再び静寂になった。
「ふん、面白いことになったな。さて奴らはどう動くのか。せいぜい高みの見物だな」
二
糸音と詩織は昨晩の説教が長引いて、結局朝まで続いた。その後、寝付いて、糸音はようやく昼頃に起床した。
一階で軽めの昼食を取るとルクスリアから作戦の概要を聞き、その後すぐに起きてきた二人も朝食を食べ、それぞれ東と西へ向かった。
「この森を抜けると西の地区ブライトに入る。このままいけば三日でクレインバルドのいるであろう首都ミンダルに着く」
糸音とルクスリアはアジトを出て森の中をひたすら西へと歩いていた。
「なぁ。前から思っていたんだがルクスリアって体力すごいよな」
「ん?あー、子供の頃よく森で遊んでいたからかな。なぜだか全然疲れないんだ。森にある自然の力ってやつかな」
「自然の力ね。ルクスリアはたまにバカっぽい発言するよな」
「誰がバカだ!でも本当の話、なんで疲れないのか不思議なんだよね」
(異能?・・まぁ、私はあまり異能には詳しくはないからな、いつか姉さんにでも聞いてみるか・・・・姉さん???)
「ルクスリアそういえば、一つ言うの忘れてたけど・・・」
「糸音」
「・・あぁ」
二人は会話を途中で切り、辺りを警戒する。すると木々の影から一本の矢が飛んでくる。二人はそれを軽く躱すと、糸音が木々の影に隠れている人物に接近する。そこには一人の若い男がいた。
「何者だ」
「チッ!速いな」
男は背を向け逃走をはかるが、糸音がその逃げる背に糸を放ち男を縛りあげる。
「一人か?糸音」
「いや、気配は二つ。おそらく一人は逃げた。とりあえずこいつは捕らえたが」
「まぁいいだろう。おい、お前は何者だ?」
「ふん。お前がカルカサンドラを殺った女か?」
「こっちの質問に答えろ」
糸音は糸の締め付けを強くする。男は少しだけ痛がる顔をした。
「ッッ!!わかったよー!ジャック様に言われてな」
「ジャックだと!やはり動いたか。それにもう糸音の事も知られているのか。くそッ。もう一人も捕まえておくべきだったか」
「任せろ」
糸音はもう一人が逃げたであろう方向に気配を探り、その方向へと手を向けて指で弾く。そして、針剣を取り出して先端と柄にあるわずかな穴に糸を通して弓を作ると矢が無いのに弓を引いて、空中に何かを放つ。
「なっ!」
パンッ!!
ルクスリアは驚愕した。糸音が見えぬ何かを放った先、木々が抉れて、まるで大きな獣が通った跡ができる。その先、遠くで背を向け走っていた男に何かが当たって弾けた。男はそのまま悲鳴も上げずに倒れた。
「すまない、さっきの話の続きだが、私は異能が使えるんだ。今のは音を空中に固定して、この即席で作った弓で糸を引いて送り出したんだ」
(異能が使えた・・・そうか、私は使えたのか・・・)
「異能か、びっくりしたぞ糸音。しかし頼もしいな」
「あ、あぁ・・・安心しろ。あの男は死んでいない。力加減はしたから」
「そうか。それじゃあ回収しに行くか」
ルクスリアは縛られた男を担ぎ、糸音と共にもう一人を回収しに行った。
「こいつらどうする?」
「そうだな、とりあえずここに縛って置いておこう」
「了解」
近くにあった木に二人を縛りつける。
「さて、時間も惜しいし進もうか」
二人は再び、森の中を進んでいく。その後、特に何も無く二日が過ぎて、遂に二人は森を抜け、西の地区ブライトへと入った。
「首都ミンダルまではもう少しだな」
「なかなか遠いな。そういえばミンダルにいるクレインバルドってやつは強いのか?」
「そうだな。確かに強いが、異能抜きにしても糸音の方が強いと思うよ」
「そうなのか」
「クレインバルド、生きているといいんだが・・」
「なんだ?知り合いなのか?」
「あぁ。ちょっとした知り合いなんだ。悪党だが四人の中では一番話が通じる相手だ。だからもし生きているのなら、交渉次第で力を貸してくれるかもしれない」
「なるほどな。何故西に行くのか疑問だったが話し合いか。だが、悪と共闘するなんて気乗りしないな」
「悪党も、生きていれば利用することも必要ということだよ」
「まぁいいさ。でも、少しでも気に入らなければ殺すからな」
「糸音は乱暴だな。まぁなんにしても生きていればの話だがな」
二人が森を進んで行くと、争いの跡があちこちにあって森の中は荒れ果てていた。
「これは酷いな」
「近郊でこの感じだと首都は惨劇だろうな。聞くところによると首都に攻め入られ戦場となったと聞いた」
「ひどい話だ・・・」
二人はしばらくその場で黙祷した後、森を進んで行き、遂に首都ミンダルの高い城壁の前に辿り着いた。
「なんだ、ミンダルってこんな城壁に囲まれた街なのか」
「そうだな。しかしこれはどういうことだ?」
城壁の壁は弾痕すらなく、まるで何もなかったかの様に綺麗なものだった。
(やけに城壁が綺麗すぎる。西は酷い有様だと聞いたが・・・・とりあえず中の様子を・・・)
「糸音。城壁を登って上から俯瞰できるか?」
「りょうかい」
糸音は針剣を糸で繋げ、城壁の向こうに投げて引っかけると、忍者の様に城壁を登っていく。高い壁をものの数秒で登り切り、城壁の上に着いた糸音は中の様子を伺う。
(なんだ・・やけに静かだ。それに、人がいない?街も綺麗だ、本当に戦場だったのか?)
「どうだ!糸音!中の様子は」
「あぁ。誰もいないし静かだ。それに見たら驚くぜ、街は綺麗なままだ」
「何だと・・・よし!そのまま向こう側へ降りてから門を開けてくれるか!」
「りょうかい」
ルクスリアの指示で糸音は街へと降り立つ。門を壊すのも止む無しと思っていた糸音だが、大きな門には施錠があったので、糸音はそれを丁寧に全て外して門を開けてルクスリアを中へと入れる。
「たしかに、人の気配が無い」
「気味が悪いな」
「とりあえず、城へ向かおう」
二人は街の中心に聳え立つ城へと向かう。その道中もやはり人はいなく、街は静かなゴーストタウンと化していた。
「これは、一体どういう事なんだ」
「まるで、人だけが消えた様な感じだな」
「一番気味が悪いのは、街の外観が綺麗なままってことだ。まるで戦争など無かったかの様だ」
「本当に戦争はあったのか?ガセ情報だったんじゃないのか」
「有り得なくはないが・・・とりあえず、城へ行こう。もしかしたら、誰かいるかもしれない」
二人が街の様子を伺いつつ、警戒しながら歩いていたら、いつのまにか城の門まで着いていた。その門は開けっぱなしになっていた。
「なんだ、門が開いてるぞ・・」
「糸音、警戒しておけ。もしかしたら罠かもしれない」
「あぁ。わかってる」
二人は辺りを警戒しつつ城の中へ入っていた。
「なんだ、誰もいないな。そのクレインバルドってやつもいないし、どうなっているんだ」
「もしクレインバルドがいるんだったら、おそらく最上階の玉座にいるはず」
二人は階段を登っていく。城の中は荒らされた形跡もなく、静かなものだった。不気味なほどに。
「ここか」
二人は階段の突き当り、大きな扉の前に着いた。そして、ルクスリアは扉を開け放つ。その扉の先の空間、玉座には一人の男が座っていた。
「なんだ、遅かったな。ルクスリア」




