腕試し
(糸音。今日からここが、お前の家だ。わからないことがあったら何でも聞け)
(・・・・・)
(紹介しよう。新しい家族だ。お前の新しい姉たちは少しぶっ飛んでいるけど三人共良い奴だ。だから、安心して何でも頼るといい。それに俺の弟もこう見えて頼りになる)
(・・・・・)
(え?戦い方を教えてほしい?まぁ、いいが。ルシアールには内緒だぞ)
(・・・・・)
(油断も、慢心もするな。ただ、相手を如何に素早く殺せるかを考えろ)
殺し屋ならな
「・・・ん・・夢か・・誰かと色々話していた気がするが・・・まぁいいか」
昨晩、糸音はいつの間にか寝てしまったらしい。朝方、サベロから帰って来てそのままベッドで倒れて死んだ様に眠ってしまっていた。糸音はベッドから起き上がり部屋を出て、一階へと下りた。
「おろ、糸音。やっと起きたか。まだルクスリアは帰ってないよ。もうちょいかかるみたい。なんか、後始末があるんだって。だから、私たちはしばらくアジトで待機って感じかな。急にカルカサンドラがいなくなって、他の地区の奴らは色々と詳細を知ろうと慌てふためいているみたいだよ。情報が回るのって早いねー。だから当分は他の地区からの進軍は無いはずだよ、それどころじゃないからねー。それよか、パン食べる?」
「そうか。今はいいよ、少し出る」
「あーそう。まぁ迷子にはならないでね。いってらっさーい」
陽気に手を振っている詩織に軽く手をふり返すと、糸音は外へと出た。
糸音は森の方へと歩く、少し行ったところで川を見つけた。辺りにあった手頃な大きな岩を見つけてその上に寝転がり空を見上げて、昨日のことを思い返す。
「なんか、痛かったな」
糸音がルクスリアにぶたれた頬をさすりながらそんなことを言っていると、見知らぬ男が覗き込んできた。
「やぁやぁ、お嬢さん」
瞬間、糸音は起き上がると岩から降りて身構えた。がしかし、見覚えのある顔だったので、警戒をすぐに解く。
「あんたは、確か古城ですれ違った・・・」
「そう。あの時は君、怖い顔してたからね。声をかけられなかった。だから改めて自己紹介、俺は紅呂紅羽、趣味は絵描き、好きなタイプは妹」
「あんたの趣味とか興味がないし、どうでもいい・・・夕凪糸音だ、よろしく」
「糸音か、うん!よろしく!んで、こんなところで何してたんだ?」
「いや、ただただ雲を眺めていただけだ」
「なるほど。面白い雲はあったかい?」
「いや、無いな。それで何か用か?」
「そうだな、軽く挨拶と君とお喋りしに来た」
「そうか」
糸音は再び横になると目を閉じる。その様子を見た紅羽は糸音の横で同じように寝転がって空を仰ぐ。
「いいねー、これ。結構落ち着く。面白そうな雲はないけど、おいしそうな雲ならあそこにあるな、ほら」
「あんた、割と図々しいやつだな」
「はっは。よく言われる。それで、糸音はなんで北部地方に?こっちの人間ではないんだろ?」
「何故私が北部の出身ではないとわかったんだ?」
「やっぱり。何となく。感ってやつかな」
「そうか」
「それで、出身地は?」
「さぁな、忘れてしまったよ」
「忘れた、ねー・・そういえばあの時さ、何であんな怖い顔してたんだ?」
「どうでもいいだろそんなこと。それより、どっか行ってくれ、今は一人になりたいんだ」
「そうかい。なんかよくわからないけど、糸音は今、ルクスリアに殴られて拗ねているんだな」
「なんだと・・・拗ねてなんていない。それより、何故それも知っている?」
「ほら、やっぱり。痛かったろ?」
「質問に答えろ。まさか、それも感だって言うのか?」
「あぁ。感、だ。俺は昔から感が鋭いんだ。それに少しカマをかけただけさ」
「そうか。変なやつ」
「よく言われる。なぁ、糸音。今から俺とここで一戦交えないか?」
「は?・・・意味が分からない、なんで?」
「強さを確かめたい、っていうか俺が戦ってみたいだけだが」
糸音はどこかイライラしていた。この目の前の男と会話を交わすたびにチクチク刺されるように、苛立ちが募っていた。
「まぁ、いいよ。どうせ暇だしな」
二人は起き上がると川のほとりへと移動する。そして糸音は武器を抜くと構える。紅羽は手に持っていた鞘から剣を抜く。
「変わった剣だな。見たことが無い」
「これか?これは俺の故郷で作られてる和刀という刀だ。糸音のも見たことない武器だな」
「これは特注だ。針剣と呼んでいる」
「へぇ。面白いな・・・さぁ、レディーファーストだ。どっからでもどうぞ」
「なら遠慮なく・・・・」
糸音は攻撃を仕掛けようとした、が動けなかった。正確には、どこを狙えばいいかわからなかった。糸音は最速で終わらせようとしていたがそれができなかった。
(へぇ。ふざけた男だとは思っていたが、なかなかやるじゃ無いか。まったく隙がない。とりあえず、様子見かな・・・)
糸音は一歩踏み出し、紅羽に接近して斬り込んだ。雨の様な斬撃を浴びせるが、紅羽は糸音の針剣をいなし続けた。
「おうおう!さすが一人でカルカサンドラを殺っただけのことはあるな。でも、初戦なら俺にも勝機はある」
紅羽は和刀を独特な動きで扱い糸音を翻弄する。
(なんだこの動き!?型か?・・いや、これは型などなく、これは!?)
「どうだい?俺のダンスは。これは和刀演撃剣舞」
自由に舞う紅羽の動きが読めず、重い一撃が糸音の針剣を弾く。針剣は宙を舞い、遠くへ飛んで行ってしまう。
「俺の勝ちだな」
「いや、まだだ」
糸音は懐にあった針を紅羽に飛ばす。紅羽はそれをギリギリで躱すが糸音に足を掬われてこけてしまう。そして、糸音は手に何かを掴んで引っ張り上げるような動作をすると、遠くにあった針剣が飛んできて、糸音の手元に戻って来た。そのまま、倒れている紅羽の鼻先へと向ける。
「卑怯だぞ、糸音!」
「卑怯?ここが戦場ならお前は死んでいたぞ」
「たしかに、そうだな。だがここは戦場じゃないぜ」
「・・・ふん」
糸音は紅羽に手を差し伸べた。その手を掴み、紅羽は立ち上がる。
「どうもありがとう。楽しかったぜ、またやろう」
「こっちも中々面白いものを見せてもらった」
糸音はいつの間にか、紅羽に対しての苛立ちは消えていた。
「おーい、二人共!ルクスリアが帰ったぞー」
詩織が二人を呼びに川までやってきた。
「行くか」
「あぁ」




