サベロ戦(二)
詩織とルクスリアは暗い階段を下りて行く。しばらくして地下へと辿り着くと、左右に牢屋が設けられた長い道が続いていた。
「あれー?誰もいないんだけど」
「おかしいな。アイツもいないうえに、誰も捕まっていないのか?・・・とにかく奥まで行ってみよう」
二人は奥へと進む。そうしてしばらく歩いていると一番奥、突き当りの牢屋の中に人がいた。
「ようよう。アニキー、元気ですかい?」
「・・・ん?そのふざけた感じ、詩織だな。来てくれたのか」
男は鎖に繋がれ、壁にもたれてぐったりしていた。
「そうそう、助けにきた!」
「大丈夫か?」
「あぁ、ルクスリア。なーに、ちょいと寝ていただけだ。それに特に何もされちゃいない」
「そうか。それは良かった。すぐに出してやる。・・詩織」
「はーい」
ルクスリアに呼ばれた詩織は牢屋の扉についている鍵穴をカチャカチャと弄りだす。
「それにしても、お前がヘマをするなんてな。いったい何があったんだ?」
「あぁ。任務中、カルカサンドラと鉢合わせてな。ついでにちょっと小突いてやろうと思ったんだ。それで戦闘になった」
「それで負けたと。だけど、お前なら倒せなくても逃げることは可能なはずだ」
「そう。そうなんだ。負けはしなかった。というか殺したはずなんだ」
「どういうことだ?」
「俺は奴の心臓を確実に貫いた。でも、死ななかった」
「死なないだって・・・」
「あぁ。おかしな話さ。それで油断しちまってカルカサンドラにやられちまって、今ここにいるってわけだ。もし奴に会っても今戦うのは得策じゃない。まずは、奴の体の謎を調べねーと、おそらく勝てない」
「しまった。嫌な予感が当たったか!」
「なんだって?」
「そのカルカサンドラと新しい仲間が今、対峙している」
「まじか・・・」
(糸音、頼む無事でいてくれ・・・)
「あーーー!!!!面倒くさい!」
ガンッ!!
急に叫びだした詩織は、懐から取り出した鈍器で鍵穴を殴りつけた。鍵は壊れ牢屋は開けられる。
「よし!」
男は壁に取り付けられた鎖を力いっぱい引き抜き、手のかせを外し立ち上がる。
「さぁ。新しい仲間の所へ急ごうぜ」
二
糸音は階段を駆け上がる。その道中、敵は現れず。その代わり、妙な場所を見かけた。階段途中、明らかにこの城に合わない研究所のような施設があった。そこには、子供が何人も幽閉されていた。おそらく人体実験、毒ガスの研究や武器の殺傷能力を子供で試す場所であることは明白だった。
「悪趣味だな・・・ん?」
(待て・・・何故、子供だけいるんだ?研究施設なら、誰か居てもおかしくはないはず。誰も居ないっていうのは不自然だ。それにここに来るまで一人も敵にも遭遇しない。もっと言うなら、人の気配すら感じない。あの場所、研究施設じゃないのか?・・・考えても仕方がない。今は、いいか)
そしてしばらく走っていると糸音は大きな扉の前へと辿りついた。
「ここだな。ふん、ルクスリア。確かに、これは目立つな」
その扉には、絵が描かれていた。誰かは知らない天使の絵。
糸音は一息つき、扉を開けるとそこには大きな空間が広がっていた。玉座の間、糸音は奥へと歩き出す。そして奥にある玉座には男が一人、座っていた。
「お前が、カルカサンドラか」
「なんだお前は?・・この俺様に用があるのか?あるのなら秘書を通せ、無礼者が」
「秘書なんてどこにいるんだ?それどころか、人が一人もいなかったぞ。お前一人なのか?」
「見ての通りだ。まぁ、詳しいことを誰だか知らんお前なんかに話しても意味はないからな」
「別に話さなくていいよ。なんで兵士がいないのかとか、なんで子供が幽閉されていたのかとか、なんで、お前は弱そうなのにそんな偉そうなんだ、とか」
「舐めたガキだな。そんな小さい体で俺に勝てるとでも?」
「大きさなんて関係ない。死は平等さ」
「そうか。でも、舐めたガキにはお説教が必要だな」
カルカサンドラは玉座から立ち上がると近くに立てかけてあった刀を抜いて糸音に向ける。
「説教してくれるのか?」
カルカサンドラは糸音へと飛びかかり剣を振りかざす。糸音は目を瞑ったまま、それを躱して、瞬時に例の武器でカルカサンドラの両腕を斬り落とした。
「っぐ!?」
カルカサンドラは膝をつき項垂れる。
「殺しはしない。ルクスリアとの約束だからな」
「ルクスリア、だと・・そうか。アイツの差し金か・・」
「あー、でも逃げられても困るな。両足も斬っておこう。大丈夫、止血はしてやる」
糸音は刃を構える。そして、足を斬り落とそうとしたその時、カルカサンドラの斬ったはずの腕の切り口から、腕が生えてきて糸音の刃を受け止めた。
「!?」
「ざーんねん!」
カルカサンドラは斬られたはずのもう片方の腕で糸音を殴り飛ばした。その威力は凄まじく、糸音は扉まで吹っ飛んで、壁に打ち付けられた。
「あれ?死んだかな?」
糸音は何事もなかったかの様にゆっくりと立ち上がり、カルカサンドラの元へと歩きだす。
「すごいな・・死んだと思ったんだけど、意外に頑丈なんだな。でも、さすがにダメージはあるでしょ」
「なるほど。どういう原理かは知らない。いや、どうでもいい。再生するなら、再生しないまで斬ればいい。ルクスリアには悪いけど、お前の存在ごと切り刻んでやるよ」
糸音は駆け出して、飛び掛かる。カルカサンドラは剣を構えてはいたが、全く意味がなかった。糸音の動きがまるで見えないからだ、いったいどこから刃が来るのか、その剣筋が見えなかったのだ。何もできないまま、腕を斬り落とされ、バラされる、足を斬られバラされる、首をはねられバラされる、残った胴体もまたバラされる。気づけば、カルカサンドラが持っていた剣だけが床に落ちていた。残ったのは剣と大量の血痕のみ。
そのタイミングで、玉座の間の扉が開き、ルクスリアがやってきた。
「糸音!無事か!・・・カルカサンドラは?」
糸音は無表情でルクスリアへと顔を向ける。その目はゾッとするほど凍り付いていた。どこまでも闇。人はこんな目ができるのかと、この時ルクスリアは思った。
「ルクスリア、ごめん。殺してしまったよ」
「そうか。死体は?」
「ない」
「そうか」
ダッダッダッダッダ!!!!
「カルカサンドラ様―!・・なッ、なんだお前らは!?」
開け放たれた扉から、今までどこにいたのかというほどの兵士が無数にやってきた。
瞬間、糸音の姿が消えたのと同時にやってきた無数の兵士たちは次々に倒れる。言わずもがな、糸音が殺しの限りを尽くしていた。悲鳴も上げる間もなく、瞬殺だった。剣を振り上げても、次の瞬きの瞬間、血にまみれ、首が宙を舞う。まさに地獄絵図。
「糸音・・・・・糸音・・・・・・糸音・・・・・・」
ルクスリアは殺しの限りを尽くす、糸音に呼びかけた。だがその声は届かず。
そして、ルクスリアの我慢は限界に達した。
「糸音ッ!!!!!」
ルクスリアは怒号を放った。その瞬間、糸音の殺しの手は止まった。
瞬間、生き残った兵士は武器を放棄して逃げ去って行く。
ルクスリアは糸音へと歩いて行き、平手で頬をぶった。
「糸音、やりすぎだ。兵士の中には民間人の子供の親も居たはずだ。この人たちは何もしていないじゃないか。そうでない奴も、牢屋に入れて、話を聞けば会心する余地はあったかもしれない。わざわざ殺す必要なんてない!」
「関係ない。一度悪に与した者なら何があろうとも、それは悪に違い無いんだ。だから、私は間違ってはいない」
糸音はそれだけ言うと振り返り、玉座の間を静かに去って行く。
「おい!糸音!」
ルクスリアの声に何も反応せず、糸音は歩みを止めなかった。その背中は酷く、悲しいものだった。糸音が玉座の間を去ったあと、すれ違う様に詩織と救出された男がやってくる。
「あれ?・・ルクスリア、もしかして終わっちゃった?てか、どうしたのあれ?糸音、すごく怖い顔だったよ」
「あぁ。終わったよ。先にアジトへ戻っていてくれ。私はここで後始末をする」
「ふーん。まぁいいや。りょうかーい」
「ルクスリア、一人でいけるのか?」
「あぁ。問題ない」
「そうか・・・それにしても、あれが新しい仲間ねー」
二人は、糸音のあとに続くようにアジトへと帰還した。
その後、ルクスリアはカルカサンドラの後始末の為、数日アジトへは帰ってこなかった。




