サベロ戦(一)
三人はアジトを出てサベロへと向かった。サベロは、アジトからさらに南方にある街。
三人はやや急ぎ足で森の中を進んでいた。その道中、突如三人は足を止める。辺りを見渡すと、そこにはいくつもの死体が転がっていたのだ。
「酷いな。でも、戦争にでも巻き込まれたという風な死に方には見えないが・・・傷も無いし」
「あぁ。この人たちの死因は餓死。おそらく、食料を求めてどこからか歩き続けていたんだろう。今の北部地方ではよくあることだ。ただでさえ作物が育たない土地、生き物も少ないうえ、離島周辺の海では魚が獲れない。大陸との交易がなくなれば、こういうことはよく起こる。しかし、このままでは本当に近い将来、この北部地方には悪人と強者しか残らなくなる」
「なら、早く変えてやろう」
「そうだな。すまないが二人共、手伝ってくれるか?」
「あぁ」
「もちろんだよ。可哀そうだもんね」
三人は手分けして土を掘り、墓を作り、転がる死体を弔った。
その場をあとにして再び歩き続けて数時間後、夜になる頃には森を抜けて三人はようやく目的地の街、サベロへとたどり着いた。そして現在、三人はサベロの街が一望できる崖の上にいた。
「さて。おそらくあそこに見えている古城の地下に仲間が幽閉されている」
「えらく時代錯誤な建造物だな。あそこに敵はいるのか?」
「そうだ。このサベロは元々、観光地だったんだ。あの古城はこの街の観光スポットの一つ。カルカサンドラはあの古城の中、玉座の間にいるはずだ」
「ふん。街を支配して王様気分ってか。まぁ、わかった」
糸音は崖の上から見える街並みを見渡す。一面、古城まで所狭しと洋風な家々が立ち並んでいた。まるで、昔話に出てくる城下町の様な街並み。
「私はいつも通り、自由にやらしてもらうよー。って言っても今回は、作戦もへったくれもないんだけどねー」
「そうだな。シンプルに救出して奇襲するだけ。ただただ、悪を蹂躙する。さぁ、行こう」
三人は颯爽と崖から飛び降り、民家を屋根伝いに飛び越えながら古城へと駆け出した。
道中、糸音がふと見下ろしてみるとそこには不思議な光景があった。いや、普通の街なら不思議ではないのだが、この街で言うのならある意味で異常と言える光景。
普通の市民が普通に暮らしていた。
「ルクスリア。どういうことだこれは?」
「さぁな。だが少なくとも、ここにいる人達は幸せそうではない。よく見て見ろ」
そう市民は普通に暮らしてはいるが言われてよく見ると、市民の中には痩せ細った者、ふくよかな者がいた。その痩せ細っている市民の目には覇気が無くボロボロの服を着ていて、逆にふくよかな者は羽振りが良いと言わんばかりに着飾っていた。中には、瘦せ細った人を奴隷のように首輪をつけて連れている者もいた。
「糸音。可哀そうとは思うが、助けようとは思うな。今はな・・・今日が終われば、皆助けられる」
「わかった」
さらに先に進むと三人の耳に、民家の前で揉めている人たちの声が聞こえてきた。
「おいおい!ここには七歳になる子供がいると記録にあるんだ!早く子供を渡せ!でなきゃ、お前らは反逆罪として死刑にする!」
「ま、待ってください!うちの子は体が弱いんです!だから、カルカサンドラ様のお役には立てないかと!」
「何だ、反抗するのか?それに心配しなくていい。役に立つぞ、人体実験のな!はっはっは!!」
そんなやり取りが聞こえた糸音、詩織、ルクスリアの三人の足は自然に止まっていた。
「糸音・・あれは別だ」
ルクスリアの言葉聞いた糸音は、静かに民家の屋根から降りて騒ぎ立てている男へと近づいた。
「おい」
「あ?何だてめぇは?カルカサンドラ様に逆らうのか、ぶふっ!!!」
糸音は男を容赦なくぶん殴った。男は豪快に吹っ飛び、民家の壁に打ち付けられる。
「早く中に入っていろ」
「あ、ありがとうございます!」
詰められていた女は糸音に深く礼を言うと、家の中へと隠れるように戻った。
ぶん殴られた男は立ち上がると持っていた剣を抜いて糸音へと向ける。
「てめぇ!!!舐めたマネしてくれたな!!てめぇは許さねぇー!ここで死刑だあ!!!」
男の叫び声で騒ぎを聞きつけた、そいつの仲間らしき武装した奴らが十数人駆け付けてきた。武装した男たちは皆、剣を抜刀し、糸音を囲むように剣を突き出した。
瞬間、糸音は顔色一つ変えずに、全員の首をはねた。いつのまにか糸音の手には、剣のように長く、針のように細い武器が握られていた。おそらく、その得物を使ったはずだが、その剣筋は誰にも見えなかった。背後で静かに待っている、二人でさえも。
「すごいな。糸音の殺しを見るのは初めてだが、これほどとは・・・」
「たしかに、すごいね。私ですら、剣筋がまったく見えなかった」
糸音は得物を鞘へとしまうと顔を上げた。
「さぁ、先を急ごう」
糸音はそう言って、何事も無かったかのように古城へと駆け出した。二人は先に駆け出した糸音の後を何も言わず、ついて行く。
数分後、三人は古城近くまでやって来て足を止めた。そして、三人は古城の入り口付近にあった茂みで、身を潜めながら古城の様子を伺っていた。見ると、古城周辺には無数の武装した男たちが談笑していた。
「結構いるねー」
「そうだな。だが、ここを突破すれば、地下へはすぐそこだ。糸音、玉座は城の四階の奥だ。すぐにわかる。なんせあの扉は目立つからな」
「わかった」
「おっ、おい!」
糸音は茂みから出て古城の入り口まで歩く。糸音に気づいた武装した男たちは皆一様に手に武器を持って騒ぎ立てる。
「な、何者だ!?」
「ここがどこかわかっているのか!?」
「ん?お前、どこかで・・」
糸音は無表情に、冷徹に、兵士たちを一人残らず皆殺しにした。頭を斬り落とし、バラバラにし、殴殺し、刺殺し、古城の前は一瞬にして血の惨劇と化した。
ルクスリアと詩織はその様子を茂みから静かに見ていた。
「これなら楽に地下に行けるねー」
「はぁー。まったく勝手に行動しやがって」
三人は城の中へと入る。ルクスリアは、城の中にも武装兵がいると思っていた。しかし、そこに誰もいなかった。
「おかしい。あれで全部ではないはず・・・罠かもしれない。二人共、気をつけろ」
「うーんっと・・・あった!」
詩織はルクスリアの忠告を無視して地下への階段を見つけてそこへ近づく。
「おいっ!言ったそばから・・糸音、そこの真ん中にある階段を真っすぐ行けばいい。気をつけろ、何か嫌な予感がする」
「わかった」
三人は二手に分かれた。ルクスリアと詩織はもう一人の仲間がいる地下へ、糸音はカルカサンドラが待つ玉座へ、それぞれ階段を進む。




