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天使の探究者  作者: はなり
第五章 忘却再生

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戦争

「おい!アジトはまだなのか?」

 

「もうちょい先だ」

 

二人は町を離れ、森の中をかれこれ二時間以上歩いていた。常人なら、すぐに迷ってしまうであろう森の中を二人は進んで行く。糸音は歩きながら、実家にある望める森に似ているなと、そんなことを思っていた。

 

「着いたぞ。ここだ」

 

二人はようやく森が空けた場所へと辿り着く。そこには、小さい小屋が森のなかにポツンと立っているだけだった。

 

「おい。小さい家しかないぞ」


「そうだ。この家だ」


「嘘だろ・・・」

 

「ほら・・やっぱ、目立つのはダメだろ?だから、こじんまりとした家の方がいいんだ!そっちの方が見つかりにくいだろ?この小屋から革命が始まるんだぜ!」

 

「はぁー。先が思いやられるな」

 

二人は小屋へと入る。中はなんてことのないただの内装だった。キッチンがあって、お手洗いが付いていて、風呂場がある。糸音は突っ込むことは諦めて、テーブルの側にあった手頃な椅子を引っ張ってきて座る。ルクスリアはキッチンへと向かいお茶を沸かし始めた。これだけ見ると一件、ただ単に知り合いの家へとお茶をしに来ているようだった。

 

「それで、他の二人は?」

 

「あぁ。今は私が頼んでいた依頼を片付けに行っているところだ。一人はもうじき帰ってくると思うよ」

 

「そうか」

 

糸音は目を瞑り、静かに待った。ルクスリアはというと、茶を飲みながら新聞を見ていた。本当にどこにでもある家庭の様な風景がそこにはあった。そして数時間後、扉からノックが聞こえてくると、外から一人の少女が入ってくる、歳は糸音と同じくらい、髪はハーフで茶髪、黒いローブを纏っていた。

 

「ただいまールクスリア・・って誰?」

 

「あぁ。紹介しよう。私たちの新しい仲間、夕凪糸音だ。歳は詩織と同じだったかな」

 

「糸音・・・・ふーん。よろしくねー糸音。私は波風詩織、主にルクスリアに頼まれて偵察とかよくやってる」

 

「あぁ、よろしく」

 

糸音は立ち上がって詩織と握手を交わす。その瞬間、糸音は立ちくらみがして膝をついた。徐々に頭痛もひどくなってその場に倒れてしまった。

 

「お、おい!大丈夫か!?何かしたのか?詩織」

 

「いや、別に・・・まぁ、とりあえずベッドに運ぼうよ」

 

何食わぬ顔で詩織は糸音を担いで、二階の部屋に置いてあるベッドへと運んだ。

数分後、糸音は目を覚ました。起き上がり頭を押さえる。

 

「私は・・・」

 

「大丈夫か?急に倒れたから何事かと思ったぞ。もしかして詩織に何かされたのかと思った」


「だから、何もしてないって。そこまで私、嫌な奴じゃない」

 

ベッドの傍らでは椅子に座ったルクスリア。少し離れた場所で床に座って、壁にもたれながら本を読んでいる詩織がいた。

 

「さて、じゃあ糸音も起きたみたいだし、現状報告と共有させてもらってもいいかな?ルクスリア」

 

「あぁ、頼む」

 

詩織は持ってきた情報と現状を淡々と話しだした。

 

「なるほど・・・ついに動きだしたか」

 

「うん。思っていたより進行が早いみたい。それのせいかは知らないけど、西のブライト地区の盗賊団と東のミラーレス地区に拠点を構えていたミラーレス軍の戦争は苛烈を極めていたよ。特に、戦場となった西の地区は酷い有様だった。勝敗は東の圧勝。ミラーレス軍の次の標的がどうやらこの辺り、南の地区なんだって。もうじき押し寄せてくるんじゃないかな。おそらく私の見立てでは、来週にでも進軍してくるはずだよ」

 

「それは何としても止めなければいけないな。また多くの犠牲者が出てしまう。最近、この地区は糸音のおかげで、少しは平穏になってきたのに・・・一般市民もたくさん移住してきて、賑やかになってきたんだ。もうじき奴も帰ってくる。新たな戦力も増えたし、ミラーレス軍の進軍をなんとしてでも止めないと」

 

「戦争か・・」

 

糸音は、街からこのアジトに来るまでの間、ルクスリアからこの北部地方の詳しい内情を聞いていた。この地区は大きく四人の権力者を筆頭に分かれているらしい。東のライククイーン、西のクレインバルド、北のジャックザリッパー、南のカルカサンドラ、全員が名のある悪党らしい。この北部は今、悪が支配する弱肉強食なる、一つの国となりつつあった。考え方の違う、悪党達が四人も同じ地方にいれば争いが起こるのは必然。他の地方はこの北部地方には一切関与しない。関われば厄介になるのは間違いないからだ。

北部地方の一般市民は皆、争いなどが比較的少ない地区に移動しながら隠れ住んでいるらしい。糸音達のいる南地区は糸音やルクスリア達のおかげで少しはマシになっていた。だが、カルカサンドラがいる限り、それも予断を許さない状況。

最近までは戦争など起こっていなかった。元々、ヘイオーにある北部地方をまとめていた王なる人物がいた。その人物をある時、四人の誰かに暗殺されたらしい。そして、四人はそれぞれ、自分が殺したと言う始末。四竦みは誰がこの北部地区を治めるのに相応しいのか、ヘイオーで争ったが、結局、勝敗はつかなかった。その後、四つの地区にそれぞれが拠点を作り、それぞれがそれぞれの勢力を拡大させていた。

そして、詩織から伝えられた情報が、先日ついに拮抗していた四勢力の一つが動きだしたそう。その勢力が西のクレインバルド。クレインバルドは東に向かったが敢え無く敗れ、東と西は一つになったというのが今の現状。

 

「くだらん戦争だ」

 

「本当にな。悪党が支配する国だって?・・馬鹿げている!この北部の正義は死んだ。だけど、我々四人がこの現状を変える。確かな正義の名の下に」

 

「あついねー、ルクスリア。まっ、そこが良いんだけど。まぁ報告は済んだし、私は疲れたからもう寝るよー」

 

「あぁ、ありがとう。おやすみ」

 

詩織は糸音の隣に置いてあったベッドに潜ると、すぐに寝息を立て始めた。

 

「今日はもう寝ようか、糸音。明日から頼むぞ」

 

「あぁ、おやすみルクスリア」

 

糸音はベッドに再び横になり目を閉じて眠りついた。

翌朝、いい匂いが鼻を掠め、糸音は起き上がると一階へと足を運ぶ。そこでは、先に起きていたルクスリアが朝食を作っていた。

 

「おはー、糸音」

 

パンを齧りながら、まだ眠そうな様子の詩織。

 

「おはよう」

 

「おう、起きたか糸音。おはよう。コーヒーは飲めるのか?」

 

「あぁ」

 

「へぇー、糸音は飲めるんだ。私は苦手―。やっぱ牛乳が一番だよ、朝は」


「・・・それで今日は何するんだ?」

 

「あぁ。その事についてだが、朝食をとってからにしようか」

 

ルクスリアは先に洗い物を済ませ、片付けを終えると椅子に座り朝食を取り始める。

そして、皆が食べ終わるとルクスリアは話し始めた。

 

「今日、カルカサンドラを始末する」

 

「わかった。作戦は?」

 

「私と詩織でアイツの手下、他の奴らを相手にする。奴らは軍ではないからな、私と詩織だけでもなんとかなる。糸音は、カルカサンドラを頼めるか。安心していい。アイツは四人の中でもまだ弱い。糸音ならやれるさ」

 

「えらく私のことを買ってくれてるじゃないか。まぁ、いいよ。わかった・・・・そう言えば、もう一人の仲間は?」

 

「あぁ。それなんだが、昨晩帰還する予定のはずが、どうやらカルカサンドラが根城にしている街、サベロで捕まってしまったらしい。今朝、信頼のおける情報屋から手に入れたからこの情報には間違いないだろう。さっき、他の奴らを相手にすると言ったが、実際は私たちでそのもう一人の仲間を救出する。糸音はその間、カルカサンドラの足を止めておいてくれ。救出後、すぐに私たちも向かう」

 

「仲間が攫われたってのにえらく呑気だな」

 

「アイツのやり口はわかっている。アイツは人質を拷問にかけたり殺したりはしない」

 

「なんだ、知り合いなのか?」

 

「まぁな・・・カルカサンドラには聞いておきたいことががあるから殺さないで生け捕りにしてくれたら助かる。それと、油断はするな」

 

「わかった」

 

「では、行こうか」 


「じゃあ、レッツラゴー!」

 

いつのまにか荷物を持ち、準備をしていた詩織が扉を開けた。

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