それぞれ
一
「・・・・・」
メイは望める森の奥で座禅を組んで瞑想していた。そして、その側には涼香。メイの座禅を静かに見守る。
「!!」
突然、メイはカッと目を開けて、側で立っていた涼香に殴りかかる。その拳には電流が流れていて、その先には角を模した形状の電気の塊を纏っていた。
「ほい・・」
涼香はメイの攻撃を軽く受け流し、その隙をついて足を引っ掛ける。メイは豪快に転び、涼香は一瞬でその背中を押さえつけ、氷の刃をメイの首に当てる。
「完敗やー」
「さっきよりかは良くなっていますが。まだまだ力みすぎですね。それにイメージが足りてないです」
メイは立ち上がると再び座って瞑想を始める。
「イメージ、ですか?」
「そう。イメージ・・相手はどう動くのかとか、何をしてくるかとか、どう反応して来るのかとか。あなたには、もっと自由に戦う戦い方のほうが向いてますわ。型にとらわれない戦い方。例えば、拳打ではなく武具を使うとか」
「型にとらわれない・・・でもうち、武器持ってないんやけど」
「なら作ればいいんです。さっきあなたがやっていたみたいに、もっとイメージの確立を・・」
こういう風に、と涼香が何もないところから氷の剣を作りだす。
「あなたと私の異能は系統が似ていますから。参考にしなさいな」
「おっす!」
涼香はメイの育成を森の奥で始めていた。その同じころ、真宵と白斗は夕凪邸の庭にて対峙していた。
「よし、真宵!やるか!」
「白斗、始める前に一ついいか」
真宵が神妙な面持ちで白斗に尋ねた。
「どうした?怖気づいたか?」
「そんなことはないよ・・・お前は・・まだ六花さんを恨んでいるのか?」
「あぁ、当たり前だ。これは俺が終わらせるべき問題だ。今度こそケリをつける」
「そうか。なら、もう何も言わない」
真宵は気を取り直して、手を叩く。
「さて!それで、何をするんだ?戦うのか?」
「いいや。東の方から順番に街を巡ろうか」
「え?それってなんかが意味あるの?」
白斗は少し考えて、何かを思いついたかのような顔をする。
「ある!どんな場所でも常に最高の技量で戦えるようにする!・・とか」
「おいおい、絶対今考えただろ!」
「あー・・・そうだ!思い出した!情報収集だ!あの赤女に言われてな。あいつに言われた依頼をこなしながら、時に俺と戦う。それが特訓だ!」
「はぁー、まぁいいけど。遊さんが言うならそうしよう。それじゃ行こうか」
二
それから一週間が経った。夕凪の屋敷では再び会議が行われていた。
「さて。糸見達の報告からカジノミッシェルは夜月家と繋がっていた。これはもう解決したそうだが、未だあの爺の考えていることがわからない以上、夜月家は少し泳がしておこう。その前に、先に宗谷のほうを叩く。宗谷達の居場所もわかったしな。北の国、ヘイオーの外れにある孤島。その情報を元にミツギが現地へ趣き、宗谷が出入りしているのを目撃したそうだ。情報には間違いはないだろう」
「じゃあ早速行くぞ」
「待て白斗。あの島に無闇に近づくとレーザーでやられるぞ。ミツギからの報告では、どういうわけかあの島はレーザーで守られているらしい。島に近づくと、どこからともなくレーザーが飛んでくるそうだ。おそらくだが、敵の異能だろうな。それに視界が霧で防がれている以上、敵の正確な居場所はわからない。そのまま乗り込むのは自殺行為だ。そのレーザー使いをどうにかしないと島へは近づけない」
「レーザーね・・・志貴兄ならいけるんじゃないか?」
「いや。そのレーザーの成分にもよるからな。おそらく屈折させることはできるだろうが、追跡型攻撃なら防ぎきれないな」
「なら。まずはレーザー使いを撃破ですわね。いい案がありますわ。メイの速さならそのレーザー使いなんとかできますわ」
「メイか・・・まぁ面倒を見ている涼香が言うなら大丈夫か」
「それで布陣はどうするんや?」
「もう決めてある。島を囲むよう、四方から攻め入る。決行は明朝。編成は後程決める。さぁ反撃開始と行こうか」
三
ヘイオーの外れに浮かぶ孤島の中心、今は廃屋となった屋敷が一件。その屋敷の部屋の一室の玉座で眠っているのは夜月六花。その睡眠を起こしたのは一人の軽薄でチャラチャラした男だった。
「起こしてしまったかな、姫さん」
「なんだ、エントリームか。何の様だ?」
エントリームと呼ばれるその男は六花に近づくと膝をつく。
「いえいえ。吸血鬼の姫とお話でもと・・」
その瞬間エントリームの腕が吹き飛び、その腕はすぐに灰となって消えた。
しかし、腕が飛んだというのにエントリームは何食わぬ顔で平然としていた。瞬間、腕の切り口から炎が現れ、腕が再生した。
「まるで蛇みたいだな」
「炎ですよー。それに蛇は嫌いです。ひどいじゃないですかー。いきなり腕を吹っ飛ばすなんて」
「さっさと、要件を言え」
「はいはい。近々来るそうですよ、アイツら・・・えーと・・・夕凪家だったけかな?」
「そうか」
「それだけですか?まぁいいや。しっかり伝えましたよ。ルミちゃんにも伝えてくるっすわ」
「待て。・・ルミには私が伝える」
「はいよ」
エントリームが部屋を去ると、玉座から立ち上がり影になった六花はルミのいる部屋に一瞬で移動した。
「・・・またか、ルミ」
ルミの部屋には夥しいほどの死体の山があった。バラバラに粉々に。元人間であったのかすらわからないほどの山。その真っ赤な山の上にルミは座っていた。
「いくら吸血鬼といえど、これは殺しすぎだ」
「六花さんには言われたくないですね」
「ふん。もうじき夕凪家が来るそうだ」
「そうですか」
ルミは一つのペンダントを取り出して頬を摺り寄せる。
「ルナ・・もうじきだよ。お姉ちゃんが殺ってあげるから。ルナの墓前にアイツの首を持っていくから・・・・・・・待っててね」
六花は何も言わず静かにルミの部屋を去っていく。
屋敷にはいくつも部屋があった。そして、ある部屋。ろうそくが立ち並ぶ、うす暗いその一室には一人の男がいた。
「あぁ・・・もうじき私はあの地へ。長かった・・・ようやく叶うのだな。糸衛、お前が残したものは役に立たないものばかりだったが、あれだけは唯一、この私の役に立った」
部屋にいる男。宗谷は椅子に座っていた。突然、一瞬だけ部屋が明るくなり、また暗闇に戻る。いつのまにか、フードの男がそこにいた。
「こんな暗い部屋によくいられるな。それで、調子はどうだ?」
「あぁ。体調は頗る良い。それに祈願が叶う前はどうしたって落ち着かない」
「そうか。ところで羽虫共がこの島に向かっているそうだが・・・」
「気にすることはない、予定通りだ。それに所詮羽虫だろ。そんなことよりいつになるのだ?」
「もうじきだ。あのお方はまだ眠りについている。目を覚ませばすぐにでもゲートを開き行けるようにしてある」
「ふっふっふ。楽しみだな」
ここから約十二時間後。運命の分かれ目の総力戦がこの地で始まる。
そして・・・・
糸見が屋敷に情報をもたらす少し前へと遡る。北の国、ヘイオーの南の海岸で鼻歌を歌いながら闊歩する一人の少女がいた。
「るんるんるんーるーん、ふっふっふっふー・・・・ん?」
少女は砂浜に打ちあげられている人間を発見する。少女は何気なく近づき声をかけてみることにした。
「もしもーし・・・ってあれ?何でこんなところに・・・まぁ、とりあえず連れて帰るか」
少女、波風詩織は砂浜に打ち上げられていた夕凪糸音を担いで、再び砂浜を歩き出した。
第四章
賭博戦場 完




