帰省
「久しぶりだな・・・二年だったかな・・」
二日後、槍士は夕凪家を出て実家に帰って来た。遊に言われたことが無性に腹が立って、返事もせずに、自ら実家へと帰省した。
朝霜家は京の外れにある山の頂、周りは木々に囲まれた場所に屋敷を構えていた。
大きな門を抜けると、中は庭園が広がっていて至る所に屋敷が立ち並んでいる。そして庭園の一番奥にある、ひと際大きな城の最上階。そこに槍士が帰ってくることになってしまった元凶がいる。
「あら、槍ちゃんじゃない」
「げっ、その声・・・水無瀬姉さん」
門を抜け、庭園を歩いていると、ほうきを持った背の高い女性がいた。
「久しぶりじゃない!大きくなったねー」
「いやいや。二年くらい会ってないだけでそんなに変わらないだろ」
「いやいや。変わってるわよー。こんなツンツンの頭になってー」
「やめろ!触るなよ!」
「それで、どうしたの?家出はもう終わり?」
「はぁー、まぁな。それで、兄貴は?」
「蘇匁亜なら、いつも通り最上階よ」
水無瀬は持っていたほうきで庭園の一番奥、お城の最上階を指した。
「相変わらず面倒くさいところにいるな。早くエレベーターでもつけてくれよ」
「あー、エレベーターならあるわよ。こっち、こっち」
「え?」
水無瀬が手招きしながら歩きだす。槍士がその後ろをついて行くと、何とも場違いな箱型機械が城の壁に取ってつけたみたいに存在していた。
「やっぱり、上まで行くの面倒くさいし、しんどいから私が業者に言ってつけてもらったのよ」
「はぁー。相変わらず無茶苦茶だな、水無瀬姉さんは」
「はっはっはっ!そうだろう。まぁ、兄妹水入らず話してきなよ」
「あぁ・・・・水無瀬姉さん」
「なーに?」
「ありがとう・・・そんで・・・ただいま」
水無瀬は槍士のその言葉にきょとんとすると、優しく微笑んだ。
「おかえり・・・・よしっ!今夜は、槍ちゃん家出失敗歓迎会でもしましょうか!」
「いいよ、そんなの!ってか二年もいなかったら家出成功だろ!」
「じゃ、また後でね!未里奈達にも教えてあげなくちゃ」
水無瀬は嬉しそうにスキップをしながら屋敷へと入っていった。
「はぁー・・・・さて」
槍士は城を見上げる。ここに来るまで憂鬱な気持ちになっていた槍士は、気持ちを落ち着けるとエレベーターに乗り込み最上階のボタンを押す。
ガタッ、ガタッ、ガタッ、ガタッ、ガタッ、ガタッ、ガタッ
「これ大丈夫なのか?」
城は、おそらく普通のビルの20階くらいある大きさ。エレベーターは思ったよりゆっくりで、しかも不安になる音を出していた。槍士は違う意味で不安になる。
しばらくしてエレベーターは最上階で止まった。槍士はエレベーターを降りて長い廊下に出る。
「ドキドキしたぜ・・なるほど。ここに出るわけね」
そのまま長く暗い廊下を歩く。しばらくして何もない廊下の突き当り、槍士は大きな扉の前で立ち止まり、一息つく。少し躊躇って槍士はゆっくりと扉を開ける。中には、槍士によく似た顔の男がいた。
「おや、久しぶりじゃないか、槍士」
「あぁ。久しぶりだな兄貴」
朝霜蘇匁亜。朝霜家の長兄。現朝霜家当主にして、夕凪志貴と並ぶ実力者。そんな朝霜蘇匁亜は最上階で一匹の犬をあやしていた。その光景を見た瞬間、槍士の目が点になる。
「どうした?あー、ペロちゃんか。この子は最近拾ったんだ。どうだ可愛いだろ?」
「おいッ、兄貴ッ!久しぶりの再会が台無しじゃねぇか!」
槍士は蘇匁亜の方に歩いていき、大声を出す。
「まぁまぁ槍士、落ちついて。どうだ?お前もペロちゃんに餌でもやるか?」
「はぁー。やらねぇよ。なんか緊張していた俺がバカだったわ」
「・・緊張?」
その瞬間、場の空気が変わった。凍てつくような空気間。殺気ではない別の何かが槍士の体を強張らせ、緊張が走る。
「なんだ。ただ俺に会うだけで緊張していたのか。あー・・・お前の顔を見て思い出した。そういえば、俺のプリンを勝手に食って喧嘩中だったな」
「食ってねぇよ!」
「ふん、少し待っていろ。ペロちゃんに餌をやる」
一瞬で張り詰めた空気は消えた。その蘇匁亜の様子を見た槍士は、呆れてその場に座り込む。
・・・・数分後。
「待たせたな」
「はぁー、やっとか」
「話は遊から聞いている」
「なら、話が早えー」
「だが、断る。何故、俺が家出したお前に特訓などとそんなものに時間を割かないといかんのだ?それに、あの女の頼みって言うのが気に入らない。事情は承知の上だが、夕凪家を助ける義理は、今はない」
「はぁー。やっぱり兄貴に頼むんじゃなかった」
槍士は踵を返して扉まで歩きだす。瞬間、後ろから蘇匁亜が刀を持って、槍士にいきなり襲いかかってきた。槍士は紙一重で、その刀での攻撃を槍で防いだ。
「なんだ・・断ったんじゃなかったのか?」
「いや、忘れてた。これはプリンの恨みだ」
「くっだらねぇーーー!!!」
槍士は刀を弾き返し、後退する。間髪、入れずに蘇匁亜が向かってきた。
「!?」
槍士が一瞬、ほんの一瞬目を離した隙に、蘇匁亜の刀はでかいハンマーに変わっていた。
槍士は躱すこともできず、目の前からでかいハンマーが飛んできて背後にあった壁ごとぶち破って外に放りだされる。辛うじて槍士は槍で防いでいたためダメージは軽かった。
「もう一階上がって来い」
「クソ兄貴!何回でも上がってやるよ!」
そんな、急に損壊した最上階を下から見ていた水無瀬が携帯を取り出して電話をかける。
「あー、もしもし。あのすいませんが、修繕工事お願いしていいですか?・・・はい・・はい。いつも通りでいいですよ。じゃあ、よろしくです」
水無瀬が電話を切ったタイミングで後ろから一人の女性が近づいてきた。
「あらあら。槍士くん、帰ってきて早々、荒れてんね」
「久しぶりに槍ちゃんの戦いを観戦できるから感激だわー。未里奈もどう?」
「そうやなー。見てみたい気持ち半分と、眠いのが半分やな。あとお腹も減ったわ」
「それじゃ、食べながら観戦しましょうか!他にも呼びましょう!」




