夕凪邸
一
「・・・・以上だ。少ない情報だが、これでいいか?咲夜遊」
「あぁ。十分だ。あとはこっちでやる。それで糸見・・もしよかったら」
「だめだ。これ以上は手伝えない。借りた分は返した、報酬はまた考えておく。じゃあな」
糸見はロビーから出る前に扉の前で足を止めた。
「糸音は生きてると思うぜ。まぁ、もしこの場に糸音がいて、糸音に頼まれたら手伝っていたんだがな・・・」
そう言って、糸見は夕凪邸を去って行った。
「残念だな。糸見たちが加われば、少しは戦況も変わったかもしれねーが。仕方ない」
「それにしても、ヘイオーですか・・・あの周辺、私もあまり知りませんね。そもそも訪れたこともないですし」
「しかも、霧の能力で島を隠している。厄介だな。おおよその場所はわかったが、一体どうやって見つけるか・・・」
「ヘイオー。そこにいけば六花に会えるんだな・・」
「待て!」
金髪の少年は突然、扉へと歩き出した。それを遊が呼び止めるが少年は聞かず、扉へと近づく。
ドンっ
「いっ、痛っえー!!」
金髪の少年は扉へと向かう途中、何か見えないものにぶつかり額を押さえていた。
「すまない。志貴」
「いいよ」
「そう急がんでもいいんじゃねーのか、金髪君」
「くっそー、何だってんだ!
・・・早く行かせろ!そもそも、お前達とは仲間じゃねーんだ!」
「お前が早々に行って、警戒でもされて逃げられたらどうする?きっと六花もどっか行くかもしれねーぜ」
「・・・・それは、困るな・・」
「だろ。ならちょっと待て」
「わかったよ」
少年は仕方なく拗ねる様にその場に座りこんだ。
「それで遊さん。どうしますか?誰か偵察してきた方がいいんじゃないですか。なんなら、そこの夜月を行かせたらどうですか?うずうずしてますし」
「白斗だ!・・夜月じゃねー」
「それもいいが。偵察にはミツギを向かわせる。あいつはちょうどそっち向きだしな」
「なるほど。わかりました。ではその間、仲間を募るとしますか?」
「それもそうだが。同時にやることがもう一つ」
「あら、なんですの?」
「育成だ」
二
メイは森の奥で一人暴れていた。木や竹を殴り、電撃をそこら中に撃ち放ち、森を荒らし、自分を傷つけていた。
「メイ、こんなところにいたんですの」
「・・・なんや、涼香さんか」
「はぁ、こんなに森を荒らして・・・自然は大切にしないと駄目ですわよ」
木々や竹が倒れ、散乱していて、焦げた臭いが漂っていた。まるで大きな獣が通った後の様な惨状。
「うちは・・・弱い」
メイは神薙での戦いの後、ずっと考えていた。いや、苦しんでいた。涼香からルナの死を伝えられ、遊からは糸音の事を伝えられ、どうしたらいいかわからなくなっていた。やるせなさを当たり散らしていた。
「あなたのせいではありませんよ」
「うちや!!!うちが弱いせいで、ルナは!それにあれは、うちが殺したも同然や。何が、助けたるや、ダサすぎるやろ・・・」
「ルカさんは、おそらく私たちを恨んでいるでしょう。そして、必ず相対する時が来る。あなたはどうしますか?メイ・・・今のままでずっとここに、この望める森で何も望まないまま自暴自棄になりますか?」
「なぁ、涼香さん。うちは、どうしたらええんかな?ルカに会って、会ったとして何を言えばええんかな・・・」
メイは目に涙を浮かべ、空を見上げて涼香に問う。
「その答えは、あなたが自分で見つけなさい」
「はっは。厳しいな涼香さんは・・・なぁ涼香さん、ちょっとだけお願いやねんけど。少しだけ一人にしてくれへん?」
「いいですよ」
「ありがとう」
涼香が去ったのを確認すると、メイは肩を震わせて泣いた。これでもかと言うくらい泣いた。泣いて、泣いて、泣いて、涙が枯れるくらい泣いた。久しぶりに泣いた。
「メイ。冷たいようですが、あなたになら、きっと答えは見つけられますよ。それが見つかった時、あなたは今より一歩、強くなれます」
三
「そいじゃまた明日な、真宵!」
「はい。ありがとうございました」
槍士は真宵より一足先に退院することとなった。治療を施したエオールも驚くほど槍士の回復力は凄まじかった。そのため、なぜか槍士の方が先に退院することとなった。
槍士が病室を出ると廊下には夕凪家専属医のエオールがいた。
「やぁ、槍士君。君の回復力には感服だよ。もしかしたら、私の力もいらなかったんじゃないかな」
「いや、エオール先生のおかげですよ!あっ、そうだ!今度お礼にごはん奢りますよ!いい店知ってるんっすよ!」
「ふっふ、若い子に誘われるのはうれしいね。なら、また空いた時にこちらからまた誘うよ」
「まじですか!?じゃあ、待ってます、俺!」
「それはそうと槍士君、君はまた戦場に立つのかい?」
「そうですね。俺には守らないといけないものがありますから」
「そうか。ならもっと強くならないとね。また怪我をしたらいつでも来なさい。生きていれば、また診てあげるから」
「はい!では失礼します」
槍士はお辞儀をして走り去っていく。
「槍士君。病院では走らない」
「すいません・・・」
槍士が病院から出ると、咲夜遊がベンチに座り待っていた。
「体調はどうだ?槍士」
「バリバリ元気っすよ!」
「そりゃいいことだ。なら早速、お前に行ってほしいところがある。そこでやってほしいこともね」
「おっ、早速任務っすか!いいっすよ!体を慣らしたいと思ってましたし」
「そうか。まぁ、本来学生であるお前には、学業にそろそろ専念してほしいところだが、今回もそうは言ってられないからな」
「はい!よろしくっす!それで内容は?」
「朝霜家に行ってくれ。そこで朝霜蘇匁亜に会って来い」
その名を聞いた瞬間、槍士は顔色を変えて突然、歩き出す。
「待てよ!槍士、逃げるのか?」
槍士は足を止めて、振り返る。槍士はしかめっ面で遊を見る。
「逃げてませんよ・・・帰るだけです。はっは、ちょっと野暮用が・・」
「それは逃げだぞ槍士。今のお前を、次の戦場には連れては行けないな。単純に弱いからだ。そんなんじゃいずれ、自信の武具に呑まれるぞ」
「・・・・・」
「だんまりか。まぁいい、二日待ってやる。二日で答えを出すんだな。もし答えが出なかったら、お前だけ学園でお留守番だ。大人しく勉強でもしてろ」
槍士は何も答えず遊に背を向けるとゆっくりと歩き出した。
「はぁ。相変わらず、あの兄妹は仲が悪いな。しかも、俺が思っている以上に・・・こいつぁ、厄介だな」
それから時間が流れ夕刻となった。そんな一日の終わり、真宵は病室の窓から吹く風に当てられて外を眺めていた。
「今日は、綺麗な夕日だな」
コン、コン
ノックが鳴り、病室の扉が開けられる。誰が来たのかと思ってみて見ると、そこに居たのは咲夜遊だった。
「こんにちは、遊さん」
「あぁ、大丈夫か?」
「僕はあんまりひどい傷じゃないんで・・・なんなら槍士先輩の方が大変なのに、あの人の方が退院が早いんですから、面白いですよね」
「そうだな。まっ、槍士はバカだから治りが早いんだろ。それで話があるんだが・・」
「俺は、まだまだ弱いです」
真宵は遊の言葉を遮り話始める。
「夜月の力を使うのは俺にとって忌むべき事なんです。でも、今回はそれを使いました。糸音先輩の言う通りですね。使えるものは使う、その上で勝つ。でもあの時、僕は動けませんでした。そして神無さんが攫われてしまった。一緒にいた時間は短かったんですが、きっとあの人とはいい友達になれますよ」
「そうだな。神無は友達少ねーからな。そうしてくれるとアイツもまんざらでもなく喜ぶだろう。一緒に彼女を奪還しようじゃないか」
「はい。それで遊さん。さっきから扉の向こうに誰か居ますけど、あれは誰ですか?」
「さすがだな、気配を感じ取ったのか?まぁいいや。紹介しよう。お前をこれから鍛えてくれる教官だ。いいぜ、入ってこい!」
言われて入ってきたのは、教官というにはまだ少し幼い金髪の少年だった。
真宵はその少年に少し驚き、静かに微笑んだ。
「・・・白斗・・久しぶりだね」
「おう、久しぶりだな真宵」
「やはり二人は知り合いか」
「なんだ。赤女、知ってやがったのか」
「いいや。さすがに同じ夜月なら面識もあるのかと思っていただけだ。それと、赤女じゃなくて咲夜遊だ」
「はぁ・・・んで、約束通り真宵の特訓に付き合えばいいんだな。まぁ多少の暇つぶしにはなるか。それに真宵とならいいか・・」
「そうだな・・・というか、えらく素直だな。俺が頼んで、お前をここへ連れてくる時めちゃくちゃ嫌がっていたのによ」
「そりゃあ・・・まさか、知っているやつとは思わなかったんだよ」
「ふーん。まぁ後は頼んだぞ、白斗くん」
「あっ!おっ、おいッ!」
遊は早々に病室を去って行った。
残された二人に静寂が訪れる。その気まずさに耐えかねたのか、最初に口を開いたのは白斗の方だった。
「あー・・・譲葉はどうしてる?ここにいるってことはあの後、上手く行ったのか?」
「うん。今は一緒に夕ヶ丘学園に住んでる。今度会ってやってよ、きっとユズも喜ぶからさ」
「そうか、良かった。そうだな、近いうちに会ってみるか」
一旦、話が終わり、また静寂が訪れる。
「あー、そうだ!俺もう行くわ!まぁ、退院したらまた来る!」
「うん。ありがとう、白斗」
「へっへ、じゃあな」
白斗は照れくさそうに病室を去って行った。




