ラストバトル(二)
(何も見えない・・視覚を奪われた・・それに嗅覚や聴覚も封じられたらしい。いや、闇にのまれたのか?・・・・ただの闇、これじゃあ目を開けていてもわからないな。だが、奴の気配は僅かに感じる)
「では、じっくり殺りましょうか」
(どこにいる・・・・どこから来る?)
シュ
闇の中、僅かな殺気を感じ取り、糸見は向かってきた刃物を紙一重で躱す。糸見の頬に鋭く冷たい刃が掠った。
「今の躱しますか・・・さすがです」
(まだ、感じ取れる・・性格に狙ってきたところを見ると、奴自身はこの闇が見えているという事か・・・それとも、私の気配を察知して・・)
糸見はより一層、感覚を研ぎ澄まし針剣を構え、モーティブの殺気、気配を探る。
グサッ
(!?)
突如、糸見の肩にくないが刺さる。糸見はそれを抜き取り、真っ暗の空間に放り投げる。普通、くないが床に落ちれば音が鳴るはずなのだが、この時は違った。
無音。まるで吸い込まれる様にくないは闇の中へと消えた。
(なるほど。ここには下も上も前も後ろもない。ただの闇の中。無限に広がる、ただの空間か。そう考えると、まだ空気があって助かったな。もしかしたら引き込まれた時点で詰んでいた可能性があった。それにしても殺気・・奴の気配そのものが消えた?・・・・)
「私の殺気をよんでも無駄ですよ。それを殺すのも仕事ですからね。最初のは、わざと殺気を出して攻撃をしていました。詰めが甘かったようですね。こういう場合、一回目で決めるより、油断させて二回目で確実に殺す方が確率があがりますから」
「たしかに油断・・いや、お前のことを舐めていたようだ。だが次は捕まえる・・」
「はったりですか?私が見えない、気配すら掴めないのにどうやって捕まえるというんです?」
「・・・・・」
糸見はその問いには答えず、深く目を瞑った。この暗闇の空間だと、自分が本当に目を瞑っているのか本当にわからなくなる。
(何を考えている、こいつは・・・・まぁどちらにせよ、ここでは私は無敵なのだ。闇の世界、ここでは私の独壇場)
シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、
シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、
モーティブは闇の中、糸見の体の至る所を、くないで斬りつける。
しかし、糸見は目を瞑ったまま微動だにせず、その攻撃を受け続ける。
「ずいぶんと覚悟が決まってますね。それとも、もう諦めたのでしょうか・・・・・・!?」
モーティブの動きが止まる。否、止められた。糸見はくないを持っていたモーティブの腕を掴んでいたのだった。
「捕まえたぜ」
糸見はそのままモーティブの腕を掴んだまま、針剣でモーティブの体へと斬りつけた。
モーティブは咄嗟に自分に向かってくる刃を片方の手に持っていた、くないで弾いた。
カンッッ!
糸見は掴んでいた腕を放し、モーティブを開放する。再びモーティブの気配が闇の中へ溶け込む。
「驚きました。気配を消していたのですが。どうやったんですか?」
「さぁ、感覚かな。それに私は運が良いから」
「ふざけたことを。運などと、・・・確定ではないものに頼るなど、無謀者のやること・・・いいでしょう」
モーティブはくないを捨てた。背中に隠していた得物、小太刀を抜く。そして、モーティブは完全に闇に溶け込んだ。否、モーティブは闇となった。闇そのものとなる。
(わかる。なんとなくだが空気が変わった・・・次で決める気か・・)
糸見は目を開けたまま、何も見えない闇の中を見ていた。そして、針剣を構えるのをやめ、腕を下ろす。
(こいつ・・この期に及んで、まだ運というものに頼るのですか。いや、それとも諦めたか・・まぁどちらにせよ、次の一撃で確実に仕留めます)
時間にして数秒、体感では数分ほど経ったかに見えた。糸見は未だ構えようとはせず。
そして、モーティブの小太刀が糸見を襲う。
グサッッ!!
瞬間、小太刀は糸見の心臓を正確に突いた。完全なる死をモーティブは糸見にもたらした。
「どうやら、あなたの運もここまで・・・・!?」
モーティブが小太刀を抜こうと手を引いた。だが、その小太刀はピクリとも動かなかった。いつの間にか、その腕は糸見によって完全に捕えられていた。
「ばっ、バカな!?」
「二度目だぜ」
糸見は針剣でモーティブを切り裂いた。
「くっ・・・!?」
直後、闇は消え、糸見はいつの間にか先ほどまでいたカジノにいた。
「ボス!?」
「大丈夫だ、シーバ」
糸見は心臓に刺さった小太刀を引き抜いて、倒れるモーティブの眼前に放り投げる。
「さすがに、痛いな。それにしてもまんまと嵌ったな」
「どういうことだ!?」
「首か心臓だったんだろ?でも、お前は心臓を狙った。私の運が勝ったんだよ。それにお前の言った通り、一回目で油断させて、その気にさせる。そうすれば二回目に失敗した時の衝撃は大きい。隙が生まれやすい。勉強になったよ」
「運だと!?・・なら心臓を突かれても死なないのは運のおかげと言うのか!!あの時、完全に心臓を突いたはず!?」
「そうだな。確かに普通なら死んでいた。でも、私には糸がある」
「どういうことだ!?」
糸見はニヤリと笑みを浮かべ、自身の心臓のあたりを指刺した。
「ここには、盾があるんだよ」
「盾、だと・・」
「あぁ。糸の盾だ。あらかじめ編んでおいて良かった。私の心臓は、幾多にも編んだ糸の壁で守られている」
そう。糸見はつい数日前、自身が殺そうとした妹弟子がやってのけた技を使ったのだった。
「糸の壁・・はっは、なるほど。やはりあなたは・・・」
モーティブの意識はそこで途絶え、動かなくなった。
「妹に感謝だな」




