ラストゲーム(一)
糸見が地下への階段を見つけて近づくと、階段下から二人の人間を担いだシーバが上がってきた。
「シーバ・・・そいつは、フィか?」
「おう・・ボス。安心してくれフィは今、一時的に死んでいるだけです」
「フィの毒か・・・何があったんだ?」
「フィと俺は地下で、シファという男と交戦になり、手強かったがなんとか勝てた。だが、フィがルールを破る羽目になってしまって・・・おそらくフィはルールの罰が施行される前に毒を飲んだ、はずです」
「なるほどな。状況はわかった。・・・遅れてすまない。こっちも一人殺った。その毒の効力は、たしか三十分だったな。解毒薬はフィが持っているが、今使って生き返ったとしても、ルールを破ったことは消えず、本当に死んでしまうだろうな」
「そうですね。おそらく毒を飲んでから、五分くらい経ったはずです。それと、ここの地下で何が行われていた事もわかりましたぜ」
「そうか。仕事が早いな。それは全て終わってから聞こう。ひとまず、残り二十分弱でこのゲームを終わらせないとフィが死ぬ・・・あと一人だ・・・?」
コツ、コツ、コツ、コツ
一階へと続く階段から足音が聞こえてくる。その足音は、気味の悪いくらいに綺麗に聞こえてきた。まるで、静かな殺気がこの階層に降りてくる様な怪しい暗い足音。そして、一人の真っ黒の服に身を纏った男が降りてきた。
「シーバ。手間が省けたようだ。どうやら、最後の一人がお出ましの様だ」
「おめでとう、四々皇糸見。下らない座興は終わりました。ようやくあなたと殺し合いができる、私の名はモーティブ」
「モーティブ・・・それで、お前が最後でいいんだな?」
「そうですね。私で最後になってしまいました。さて、話は終わりにして、早く殺りましょうか。時間がないんでしょう」
「あぁそうだな。話しが早くて助かる」
「武器を使いなさい、四々皇糸見」
「なんだと?」
「安心してください。ルールを変更しましたから」
「信じられんな。なら、お前が先に使ってみせろ」
「ふっふ。それもそうですね。これは失敬。では・・」
モーティブはくないを取り出して糸見に投げつける。糸見はそれを軽く躱し、モーティブを確認する・・・モーティブの体には異変は起きなかった。
「どうやら、本当の様だ。しかし何でだ?」
「そんなの、あなたと本気で殺り合う為ですよ」
「へぇ。それで、客が一人も居ないのも、あんたの仕業かい?」
「えぇ。これは私が立ち入り禁止にしました」
どこからともなく、ゴトーの声が聞こえてくる。声は館内に設置されたマイクから流れていた。
「人避けも、ルール変更も私がやりました。存分に殺し合いなさい、ガール」
「いいのか?そんなことして。店への影響はあると思うが・・」
「いいんですよ!この戦いは、そんな利益よりも価値のあるものと確信しましたから。気にすることなんて何もないですよ」
「そうか。あんたが純粋な戦闘マニアで助かった。じゃあ、遠慮なくいかせてもらう。シーバ、その二人を頼んだぞ。手は出すなよ」
「あぁ、わかったぜ」
糸見とモーティブ。二人は静かに視線を合わせる。ここはもう二人の世界になっていた。
糸見は自身の得物、針剣を取り出すと構える。対するモーティブはくないを構える。
(残り約二十分、速攻で決める!)
先に動き出したのは糸見の方だった。駆け出した糸見に対してモーティブは平然と、くないを構え腰を落としていた。両者接近する。そして二つの刃がぶつかった次の瞬間、気づくと次の衝突音が鳴り響いた。速さは互角。だが、未だ見ぬモーティブの実力に警戒をしている糸見は、本気とはいえなかった。
「どうしましたか、四々皇糸見。あなたはそんなものじゃないでしょう」
「そうだな。一ついいか・・その四々皇っていうのやめてくれ」
「ほう。ではなんとお呼びすれば?」
「糸見でいい」
懐から無数の針を飛ばしてモーティブに接近する。モーティブの目前、針剣を床に突き刺しそれを掴んで、遠心力を使った強烈な蹴りを御見舞いする。モーティブは手をクロスさせてそれを防いだ。
「おっ、と・・今のは効きましたね」
モーティブは手の痺れを感じて後退する。
しかし糸見はそれを逃がさない。地面に刺した針剣を瞬時に引き抜いて、モーティブへと距離を詰める。
退くモーティブは無数のくないを、向かってくる糸見に投擲。糸見は針剣でそれらを全て打ち落とし、近づいたモーティブの体へと斬りつける。しかし、モーティブは片手に持っていたくないで針剣の剣撃を弾く。さらに追撃。空いていたもう一方の手で、針剣の持ち手を手刀で弾く。その瞬間、糸見は針剣を落としてしまい、その隙にくないで糸見の喉を抉りにかかるが、糸見は針剣の柄に開いた穴に糸を通してあったため、それを引っ張りあげ難なくその攻撃を受けた。糸見は天井に糸のついた針を飛ばし、上へと上昇し、懐から無数の針を飛ばす。それを躱しながら駆け回るモーティブ。放たれた針は、くないで全て弾かれた。針を全て打ち落とし、モーティブの動きが止まる。同時に糸見は天井から降りた。ここまで紙一重の攻防。
「これは・・・なるほど。糸の鳥籠ですな」
見るとホールには無数の糸が張り巡らされていた。
「糸の鉄籠・・・何も無闇に、お前だけ狙って飛ばしていたわけではないぜ」
「これはたしか・・切れ味が凄まじい糸でしたかな?」
「よく知ってるな。戦ったことでもあったか?」
「いいえ。ただ、私は戦う相手の情報は事前に知っておく主義なんですよ」
「そうかい。さぁ、どうする?終わりか?」
「まさか」
「!?」
突如、モーティブが消えた。文字通り、何のアクションも無く消えた。糸見が一瞬瞬きしただけで消えた。
(異能か!・・・何の能力だ)
糸見は目をつぶって感覚を研ぎ澄ませる。姿が見えないモーティブの気配を追う。
その時突然、糸見の頭上から無数のくないが高速で落下してきた。
「くっ!」
糸見は一瞬の殺気に気づいて、向かってきたくないを躱した。
「なるほど。原理はわからないが、闇にでも潜れるのか?」
「さすがは糸見さん。そう、私の異能は闇に溶け込み消える能力」
モーティブは天井の闇の中から落ちてきて、床へと着地した。
「暗殺向きの異能だな。はぁ・・・さっき戦った奴もそうだが、なんでこんなに厄介な異能ばかりいるんだ」
「あなたも厄介な物を持っているでしょう。・・・異能殺し」
「そうだったな」
(やはり知っているか。だが、知られたところで関係はない。警戒はされるだろうが、決まれば問題はない)
「さて、続きと行きましょう!ラウンド二です」
再び影の中へ潜ったモーティブ。糸見は針剣を構えなおして、目を瞑り、感覚を研ぎ澄ます。
(奴は闇、影を移動しているのか。ならば光が弱点のはず。だが残念ながら、ここには光が無い・・・)
「考え事ですかな」
(!?)
モーティブは糸見の足元から顔だけを出し、そのまま糸見の足を掴み、闇の中へと引きずり込む。
「ボス!」
引きずり込まれた闇の中は本当に何も無かった。いや実際にはある。漆黒が、闇が、そこには広がっていた。
「ようこそ、影の世界へ」




