ファーストゲーム(二)
「おや?かくれんぼは、終わりですかな?」
糸見が集団の中から出てきて、男の前に静かに現れた。
「あぁ・・・そういえばあんたの名前、聞いていなかったな」
「失礼、申し遅れました。私はゴルドーと申します。以後、お見知りおきを」
「そうか。やっぱり知らないな。時間も惜しいし、早く終わらせよう」
「おやおや、随分と強気ですね!」
ゴルドーがコインを飛ばす。さっきよりも速く。弾丸と同等の威力があるであろうコインは、糸見へと真っすぐと向かっている。しかし糸見は動かなかった。じっと向かってくるコインを見続けていた。
「なっ、なにっ!?」
糸見は向かってきたコインの弾道を読んでいた。そしてゴルドーが飛ばしたコインの軌道の上に糸を飛ばす。
糸見はコインが自身に当たる寸前で、体を反らし急所を外した。コインは糸見の肩へと直弾、血が飛び散るが問題はなし。放たれた糸は、ゴルドーの手に絡みつき両手を縛る。
「こんな糸、すぐに・・!?」
気づいた時には遅かった。ゴルドーの頭上には糸見がいた。糸見は糸をゴルドーの首に絡めて、天井の電飾へと引っかけ片手で引っ張る。てこの原理で宙へと浮いたゴルドーは、手が封じられているせいで身動きが取れず、しばらくジタバタと抵抗していた。糸見は素早く糸を、近くにあった椅子に引っかけて、宙に浮いているゴルドーの心臓目掛けて、拳を放った。
ドンッッ!!!
「・・・・・」
鈍い音がした後、ゴルドーは動かなくなった。糸見はその動かなくなったゴルドーの体をゆっくり宙から下ろした。
「すまない、スーツの人。この人を頼む」
糸見は近くにいたスーツの男にゴルドーを預ける。
「まずは一人だな・・」
糸見とゴルドーの戦いをカメラはしっかりと捕えていた。
「ブラボー!!このガール、強いし賢いねー!やはり私の目に狂いはなかった!」
ゴトーはその戦いを部屋でワインを飲みながら鑑賞していたが、戦いが終わり満足気に、手を叩いて喚起の声を上げていた。
「ゴルドーのことは残念だけど。それにしてもあれ、どうやって殺したんだ?」
その声に答えるように部屋の隅から、真っ黒の忍者の様な恰好をした男が現れ、その問いに答える。
「おそらく、心臓に打撃を加え一瞬一撃で心臓を止める。高度な暗殺術ですね。本来この技は、ただ衝撃を加えるだけで一瞬、心臓を止める程度です。心臓を完全に止める効果はありません。ですが、糸で息を止めていたこともあり、決まったのでしょう。窒息死に見せかけた心臓発作みたいなものですか」
「へー、面白いな。人の殺し方は色々あるが、あれは初めて見たよ。それで、どうだい?お前の相手になりそうか?」
「ええ。少しは楽しめそうですね」
男はそう言うと、再び闇に消えていった。
「まったく。一体どういう原理で消えているんだ、あの男・・・さてと、こっちの二人はどうかな」
ニ
「ボスからのメール見たか?フィ」
「あぁ。敵は三人か。とりあえずボスを待とう」
二人は地下で情報収集を行っていた。その途中、糸見から連絡がきて情報集集は一時中断。シーバはソファに座り、その横ではフィが辺りを警戒し、様子を伺いながら糸見が来るのを待っていた。
「油断するなよシーバ。敵がどこから来るかわからないんだ、近づく者には警戒しろ。あと
ルールのこともあるから、とりあえずはプレイヤーとわかるまでは攻撃はするなよ」
「あぁ、わかってるよ」
そうこうしていると若者が一人、シーバに近づいてきた。
「お兄さん、いい体してるっすね。ちょっ、とだけ触らせてよ」
「ガキ!今は忙しいんだ!あっち行ってろ!」
「えー、いいじゃん。ちょっとだけ」
若者は勝手にシーバの腕に触れる。シーバはそれを振り解こうと腕を振るった瞬間。
「シーバ!!!」
フィが大声をあげ威圧する。シーバは腕を振ろうとしていたが、その腕は途中で止まっていた。若者はというと、フィの声に驚いて、いつの間にか逃げ去っていた。
「ふぅ・・・気をつけろ、シーバ。どんな行動がルールに抵触するかわからん」
「すまねぇ。助かった・・」
「あぁ。慎重に行こう」
その後、しばらく何事もなく二人は静かに待っていた。しかし、数分経っても糸見は一向に来なかった。
「おかしいぜ。時間がかかり過ぎている」
「もしかして、敵と交戦中かもしれんな」
「なら、俺たちが上へ行った方がいいんじゃねーか?階段は一つで、出入り口はそこだけだからすれ違いもないだろうし」
「それもそうか・・」
二人が階段へと歩きだしたその時、彼らの背後から先ほどの若者が走ってきていた。
「ん?なんだ」
シーバは向かってくる若者に気づき、振り返り若者と激突した。その若者の手にはナイフが握られていた。
「いってぇーな」
シーバは振り返りざま刺されたが、さすがの強靭な肉体。刃物は筋肉によって臓器には達していなかった為、致命傷にはならなかった。
「いけるか!シーバ!」
「ああ。しかしこれは・・・」
「どういうことでしょうね」
辺りを見る。二人の周りには血走った目をした若者たちが数人、手に武器を持ってこちらを見ていた。さらには階段から同じ様に手に武器をもった若者たちが数人降りてきた。
「シーバ、手を出してはダメだ。この中には敵はいない。攻撃すればルールに抵触するかもしれん。おそらく誰かが操っているのだろう。一旦、逃げるぞ!」
二人は走りだした。客の間をすり抜けて、一先ず逃げる。幸いにも地下のフロアは広かったので、逃げる場所はいくつかあった。逃走しながらフィは思考する。
(ルールを利用したやり方だな。見た感じ、ざっと二十人ほどか。これ以上は増えないと思いたいが。それに若者達の目、あれは完全に正気ではなかった。ルールとして、客に危害を加えてはならない。このルールに基づくなら精神攻撃も攻撃のうちのはず・・・若者達は精神まで完全に操られているわけではないのか?・・それならあの目は何だ?あの鬼気迫る様な、まるで命の危機に瀕しているかの様な・・・)
「とりあえず、まいたか」
「あぁ。しかしどうするよ」
二人は大きい謎のゲーム機の影に身を潜めた。
「一体、親玉はどこなんだ」
「シーバ。若者達は完全には操られていないかもしれん」
「どういうことだ?」
「おそらく、能力で操っているわけではなさそうだ。もし操っているとするのなら、それはルールに抵触する。ルール二の、客を攻撃してはならない。精神攻撃もそのうちなら、ルール上、マインドコントロールはできないはず。それに、彼らの目は正気でこそないが、対話の余地があると判断できる」
「だがよ。一方的に攻撃をしてくる奴に会話が通じるとは思えないぞ」
「お前は見たことないか?切羽詰まった人の目を、そして顔を・・・・何らかのどうしようもない理由で、犯してはいけない犯罪に手を染めてしまう人間の顔だよ、あれは・・・シーバ少し時間を稼いでくれ」
「しゃーねぇな!貸し一な!」
シーバはゲーム機の影から出て、若者達の目を引かせて走りだす。
「うまく逃げ切ってくれシーバ」
若者がシーバを追って、走り去ったことを確認する。その時、携帯が鳴り、一通のメールを確認する。送り主は糸見だった。




