ファーストゲーム(一)
糸見は辺りを警戒しながら地下にいる二人と合流する為、地下へと続く階段へと向かう。
(敵は三人、いや正確には四人か。おそらく、ゴトーは監視カメラで私たちの様子を見ている。別にそれはイカサマではない。ルールには則っているし、そもそもルールにないから問題はないのだろう。厄介なのは、私たちの動向がバレていることだ。だが、敵の居場所を探るより、あちらから来てくれる方が手っ取り早い。敵の中には、異能力者もいるだろう。・・・こんな狭い場所だ。ド派手な能力を使ってくることはまずないか。だとすると、ゴトーの様な変わった能力者もいるに違いない。まずは敵の出方を見よう。針が使えない以上、大技は使えない。糸ならあるいはいけるか・・・・このルールのあなをつけば・・・ひとまず、合流してからと、思ったが・・・・)
「いるな」
糸見はスロットマシーンが立ち並んだ無人のレーンで足を止める。人がいないはずなのに殺気を感じる。
(こいつは、もうすでに敵の能力の中なのか。さっきまでの賑わいが無くなっている。しかも不自然にこのレーンだけが全く人がいない。それにレーンから気配を感じる。なるほど。あえて誘っているのか)
「なら、のってやるか」
糸見は静かな足取りでそのレーンへと入っていく。すると糸見の入ったレーンの反対側のスロットマシーンの影から初老の紳士服の男が現れた。
「やはりな」
「お久しぶりです。糸見様。いえ、こう呼びましょうか。四々皇糸見様」
「!?」
糸見は驚いた。なぜなら、糸見にとってそれは捨てたはずの名前だったからだ。
「あなたの事は知っていますよ。と言っても、まぁあなたがまだ小さい時にお会いした程度で、ほとんどは噂話でですが。何を隠そう、私は四々皇家に支えていた執事でしたから」
「・・・・まさか、こんな所でその名前を聞くなんてな。それで、今さら私を連れ戻しに来たのか?」
「いえ。私はもう四々皇家の人間ではありませんから。あなたの噂は度々聞いております。大きくなられたあなたとは、ぜひお手合わせしたかったので。ようやく念願叶います」
「そうか。すまないが、私はあなたのことは覚えていない。・・・・母様は息災か?」
「えぇ。私があの家を去ったのは一年ほど前ですが。ご夫妻様はお元気ですよ。あなたの妹君もね・・・」
「そうか。妹ができたんだな。だが、私にはもう関係のないことだ」
「私もです。では、始めましょうか」
二人の間に突如、緊張感が走る。
(それにしても、奴の能力はなんだ?人避けの異能か、空間を隔離する能力か。どちらにせよ、まずは様子見だな)
糸見は男へとゆっくりと歩きだす。するとその道中、何かが糸見の肩にぶつかった。
(・・・なんだ?何にぶつかったんだ?)
「おや?どうしましたか?」
糸見は異変に気付き、近くの椅子に乗ってスロットマシーンの上へと移動する。
(何かおかしい・・・)
「マシーンは壊さないでくださいよ、お高いそうですから。まぁ、上に避難したのは正解です。そこでなら堂々とやり合えますから」
糸見は警戒しつつ一歩前へ進むと先ほどの現象は起こらなかった。しかし、マシーンの上から下の様子を伺うと、有りえない物を目撃した。なんと、スロットマシーンが一人でに動いていたのだった。
「座ってしまいましたか」
「・・・なるほど、そういうことか。客の目から私を見えなくしたな。・・いや、違うな。私を見えなくしたのか。先ほどぶつかった何かは、ここの客じゃあないのか?」
「ご名答。私の能力は、任意の人間の存在を消すことができる異能。消された人間は私以外認識することができません。もちろん私もあなた以外からは消えています。さらに消された人間は他人を認識することはできなくなります。なので見えず、気配も感じられない。」
(厄介だな。もし私が無人だと思って攻撃した先に人がいたら、それでこのゲームは終わっていた。危なかった。だが逆に考えれば、存在が消えているおかげで騒ぎは起こらないということだ)
「さて、どうしますか?」
「こうするのさ!」
糸見はスロットマシーンの上から男に近づくため駆け出した。誰もいないであろう椅子に飛び降りて男との間合いを詰め、攻撃を仕掛ける。拳が当たる直前、糸見は攻撃を途中で止めて手を引っ込め、距離をとった。
「正解です。今、私の前を男が一人歩きました。しかし気配でわかるんですね。普通、気配ではわからないはずなんですが。私の能力にも少し欠点があるみたいですね。勉強になりました」
「昔から人の気配には敏感なんでね。それに視覚や聴覚、嗅覚がやられているだけで、第六感は働くんだよ」
(まぁ、とは言ったものの。やはり、やりずらいなこれは)
「では、今度はこちらから」
男の手に光る何かが見えて飛んできた。
「!?」
糸見を男の手から放たれた何かを躱す。それが飛んだ方をみると、壁に当たりめり込んでいた。
「コイン、か」
「そう、これはコイン。あなたに一つお教えしましょう。ルールついて。
・・・第一のルール、武器の仕様不可。これは言葉通りなんですよ。オーナーの異能はその空間にいるものと制約を交わして。絶対ルールの元、ゲームを始めさせる能力。時間は無制限。これは絶対なんですよ。そして、私は今コインを飛ばしただけです」
「なるほど」
(やはりあったか。ルールのあな。ルールがコインを武器として認識しなかったのは、アイツが本当にただ飛ばしただけだったということか。それに意味なんてない。ただ飛ばしただけでこっちを狙ってはいないのだろう。それか、もしくは武器という、言葉としての一般的な意味と、このルールが認識しているからコインが武器になりえなかったのでは・・・普通コインを武器に使う者などいない。ならば、糸はどうだ?いや、それ以前に拳で殴るのは。さっきは攻撃が当たらなかっただけで、武器と認識しなかった。おそらくルールが認識しているのは、あくまで武器としての本来の意味・・・ならまとめると)
一、ルールがコインを武器として認識しなかった。
二、ルールの内容は、言葉としての本来の意味。
「いきますよ」
糸見の思考がまとまったのと同時に、男が次から次へとコインを飛ばしてきた。
糸見はそれを躱しながら、再びスロットマシーンの上に乗りレーンを移動する。男はコインを飛ばしながらゆっくりと糸見を追う。
「たしかに、上を移動すれば人には当たらないでしょう。こちらからしたらいい的になっているだけなのですが・・」
糸見はしばらく行ったところのレーンでスロットマシーンから降りる。そしてホールの一番賑わっている場所、透明な人たちの輪の中でしゃがみ込む。
「なるほど。それなら私は攻撃できませんね。少し待ちましょうか」
男は優雅に壁にもたれてタバコを吸い始める。
その様子を見て糸見は一息ついて、戦略を練ることにした。
(ひとまずは大丈夫だが、この集団も長くは持たない。ここからどう反撃するかだな。人の気配は把握できるが、正確に体の大きさまではわからない。下手に攻撃して掠っただけでもルールに抵触してしまう可能性がある。だからといって、このままという訳にはいかないな。早く二人と合流しなくては・・・そういえば。さっき、少しぶつかっただけだったが、ルールには抵触しなかった・・・もう一度ルールとともに整理しよう)
一、武器は禁止。銃火器類、針など禁止。
(言葉通りで受け取るなら、使用自体が禁止だ。でも、アイツはコインを使って攻撃してきた。ルールがコインを武器として認識しなかった)
二、他のお客様に危害を加えてはいけない。もちろん意図せず攻撃した場合もだめ。
(これに関しては、さっきの疑問で解消された。おそらく、ぶつかっただけと客が認識したためか、ルールが攻撃と認識しなかった。もしかしたら、死を招く攻撃が当たったりすれば、その場でアウトなのかもしれない)
三、店から出てはいけない。
(これはまだいいが、おそらくこれにも何らかのあながあるな)
糸見は目を閉じ、しばらく思考する。数秒後、目を開け、考えをまとめ上げた糸見は一つの案を思いつき動き出した。




