カジノミッシェル
「ここだな・・」
件のカジノの入り口の前。屈強なスーツの男二人が辺りに目を光らせていた。カジノの前では、入り口を出入りする客と、店の前でたむろする若者たちで賑わっていた。
ペルシャナに来て三日目。その間、糸見たちは街の路地裏で情報収集を行っていた。そのときに聞いたカジノの情報によると。
カジノの年齢制限は二十歳以上で、階層によって客層が違う。地下一階が若者向けのゲームセンターやダーツ、ビリヤード、ボーリングなどが有り、その全てに賭け金が掛かっている。
客同士の賭け試合では無く、各遊び場に行けば、店の者がいてその者と対戦する様なシステム。
さらに一階では、スロットマシーンが埋め尽くされている。ここは若者というよりかは、三十代~四十代までが大半を占めている。
二階は吹き抜けになっていて、ここではポーカー、ダービーゲームができる。しかし二階へはVIPのみが入れようになっていて、金を積めば誰であろうと入れるが、出る際もお金がいるので確実に二階で勝たないと帰れない。この二階で勝ち続けた者は奥へと案内される。
奥の部屋には、オーナーのゴトー・リスク。今回のターゲットが居座っている。
「さて・・・ん?」
糸見は入り口にいる屈強な男の方に目を向ける。しかし、糸見が見たのはその奥の、店の路地裏辺り。一瞬だが、糸見は謎の視線を感じていた。だが、そこにはもうすでに誰も居なかった。
「どうしましたか?ボス」
「いや・・・よし。このまま入るぞ」
「おいおい。大丈夫なのかよ、ボス」
「シーバ、安心しろ。堂々としていれば何もない」
糸見の言葉を静かに呑むシーバ。特に何事もなくカジノに入ることができた三人。中に入ると、至る所にスロットマシーンが並んでいた。店内には色んな客がいて、負けて叫ぶ者、勝って喜ぶ者、中にはそれ見て楽しむギャラリーなんかもいた。
「外もそうですが、中もすごい賑わいですね」
「これだけ人がいたら三人という集団でも目立たないな。それにしても。さすがは、合法賭博場。この街でここだけがそれが許されているらしい。さて、とりあえず二手に分かれようか。二人は下へ行ってくれ、私はこの階を調べる。二人共、場の空気に当てられないように気をつけろよ」
「了解しました。ではお気をつけて。行くぞ、シーバ」
「おうよ!ボス、何かあったら呼んでくれ」
二人は地下へと続く階段へと向かった。二人を見送った糸見は早速、お手頃なスロットマシーンに座り、リールを回す。ここのスロットマシーンはコインがいらない仕様になっている。というのも、カジノの至る所に設置してある監視カメラが客を移し、誰がどの台で遊戯したかを記録しているらしい。街で得た、ある情報によるとスロットマシーンの正面にも、隠しカメラが付いてるとのこと。遊戯が終わり、店を出る際に全て清算される特殊なシステム。
糸見はスロットマシーンを見る。どうやらレートは、四千円、八千円、一万二千円の三つのレートを選べる仕様になっている。スロットのリールの右辺りを見て見ると、そこの液晶には零の文字。ここに各レートの回転数が表示される。
「そうだな・・・」
少し考えて、糸見は八千円のレートを選択した。液晶には二十の数字が表記。レバーを叩きマシーンを回す。糸見が静かに数分回していると・・・
トゥルー、トゥトゥルー、トゥトゥルー!!!!!!
糸見の台から当たりの音が鳴り響く。台の上にある液晶のメモリが凄まじい勢いで増えていく。
「おいおい、姉ちゃんすげぇな。大当たりじゃねぇか」
「マジかよ!」
「若いのにやるなぁー」
周りにはいつの間にか人が集まってきて、目立ってしまう糸見。そして、スーツの男が一人近づいてきた。
「お客様、おめでとうございます。現在のメモリが十二万三千六百となりました。高額になりますのでこちらへ」
「・・・・」
糸見は黙って男の後ろをついて行き、上の階へと案内される。次はポーカーかと思い、男の後ろを歩いていたが、男はポーカー台を通り過ぎて奥のカーテンを開けると、そこにある扉の前で振り返り、入室を促す。
(なるほど。早かったな・・・)
糸見は、一息置き、扉を開けて中へと入った。そこには男が一人、ソファに座ってワインを飲んでいた。男の容姿は、髭を生やし腕には装飾品、紺色のスーツにアカイネクタイ。
「君が、スロットコーナーを沸かせていたガールだね」
糸見は一目見て確信した。見透かした様な目で、大仰にソファに座っているこの男が、このカジノのオーナーであり、今回のターゲット、ゴトー・リスク。遊の言っていた宗谷と繋がっているであろう人物だ。
糸見は静かに、落ち着いた足取りで、ゴトーの対面に置いてあるソファへと座る。
「いやー、若いのにすごいね君」
「そうでもないですよ。運は良い方ですけど」
「違う違う。肝の話だよ」
(・・・やはりな)
「まぁ、今の君の発言にも答えるのなら・・・驕りもしない、なんて謙虚なガールだ!・・・それで、君は咲夜遊の差金だね」
「だとしたら?どうするんだ?」
糸見は最初から分かっていた。確信したのは、二階へ上がってこの部屋へと案内された時だ。おそらく正体はバレていた。糸見は、あえてそうしていたのだ。
情報収集の段階でこうなることは予測済だった。というよりそうなるように仕向けた。
路地裏で情報収取をしていたのも、このためだった。糸見はあえて目立つように色々な人物に声をかけていたのだ。確信を持てたのは、そんな情報収集中に出会った男に声をかけた時だった。その男は、糸見と会話をしている間、目を見ながら糸見たちの容姿を観察していた。
おおよそ常人には気づかない程度に・・・・だが、糸見は常人ではない。さらに店の入り口にて、一瞬だけ視線を感じ、路地裏を見た時、その男の顔を見た糸見。糸見は殺し屋としてかなりの観察眼を持っていた。さらにはその洞察力。咲夜遊が選んだ人選は間違いではなかった。
「別にどうもしませんよ。聞きたいことがあるんですよね?それは、宗谷についてですかな?」
「わかっているのなら話が早い。だが、噂に名高いゴトーさんなら素直には教えてはくれないだろうな。ところで宗谷とは仲がいいのか?」
「そうですね。仲は悪くないですよ。あなた・・かなり面白いですね。私は長年、この業界にいますからわかります。ところでゲームはお好きですかな?」
「ゲームか。どうだろうな、意識したことはないな。だが、楽しいとは思うぜ」
「なら良いですね。では、私とゲームをしましょうか?」
「ゲーム?」
「ええ。このカジノの中で殺し合いをするんですよ。生き残りをかけたサバイバルゲームみたいなもんですかね」
「はっは。いいのか?ここで殺し合いなんかしたら、問題になってしまうんじゃないか?店の信用はがた落ち。あんたは一気に転落人生だぜ」
「ええ。だから、三つのルールを課します。一つ、武器は禁止。銃火器類、あー、針もダメですよ。二つ、他のお客様に危害をくわえてはいけない。もちろん意図せず攻撃した場合もアウトです。三つ、店から出てはいけない。どうですか?やりますか?もし断るなら普通にお帰りいただきます。あー、もちろんさっきの勝金は差し上げますよ」
「面白い。勝ったら宗谷に関しての情報を渡してもらう。それで、こっちが負けたらどうなるんだ?ノーリスクではないんだろ?」
ゴトーが不敵に笑い、ワインを揺する。
「分かってますね。ガール達が負ければ私に飼われてください。あなたは特に、いい金になりそうです。もちろん、私が負けた場合は宗谷の情報を与えましょう。きっとお眼鏡にかなう情報ですよ」
「いいだろう。だが一つ聞かせてくれ」
「何なりと」
「宗谷は仲間じゃないのか?そんな簡単に情報を渡して大丈夫なのか?」
「簡単に、ですか・・・・たしかに、宗谷は仲間でした。いや、彼は古い友人ですね。ですが、今は違います。私はアジトを抜け出しました。それに私は退屈が嫌いなんですよ。だから、こうして若者たちの苦悩、葛藤、勝機、不安、恐怖、エトセトラを酒のあてにして嗜んでいます。そして、こういうのを待っていたんですよ。殺し合いなんて一番の美味ですから」
「そうか・・なら早速、始めようか。その口ぶりだと、戦うのはお前では無さそうだな」
ゴトーは立ち上がり宣言する。
「グッド!そうですね。私はプレイヤーですから。その前に、私の異能で契約を縛ります」
「やはり能力者か」
「ええ。アジトを去る前に、頂きました。私の異能は、ルールを破った者には死の制約を課す、といったものです」
(変わった異能だな・・・)
「契約は絶対のルールです。破れば死」
「了解。それでいい。それで、殺し合いは誰と誰がするんだ?」
「三対三でやりましょう。私以外に三人。すでに、店の中に配置しています。地下にいる二人とあなたを含めた三人でよろしいですかな?」
「あぁ構わない。こっちからルールについて二ついいか?」
「ええ。どうぞ」
「ルールの途中追加はなしだ。それと、今ここでルールの追加を提示する」
「ほう。どういった内容で?」
「簡単だ。私の命を懸ける。お前も命を懸ける」
「はっはっはっはっはっはっは!!!!!!!!」
何がおかしいのかゴトーは突然笑い出す。
「はっは。やはり、あなたは面白い。いいでしょう!負ければ死ですね」
「あぁ。正確には、約束を破れば死だ。偽りの情報開示、及び拒否は死に値する、という内容でルールの追加を。もちろん、私が約束を破った場合もな」
「グッド!いいでしょう。ではルール追加です。ルール四、偽りの情報開示、及び約束の拒否には死を科す。では、スタートでーす!グッドラック、ガール」
糸見は部屋を出ると早速、携帯を取り出して、地下にいる二人にルールの説明と現状を伝える。
糸見が部屋を去った後、ゴトーは店内に配置した駒へと内線をしていた。
「ふーん。中々楽しめそうなガールです。やれますか?シファ」
「無論です。楽しませてあげますよオーナー」
「他の二人にもよろしくです」
「御意」
ゴトーはソファにふんぞり返り、ワインを煽ってカメラに映る糸見を見ながら不敵に笑う。




