依頼
「ここが、ペルシャナですね」
「こりゃーまた、随分と明るい街ですね」
「油断するなよ。この街は明るいが汚い。見掛け倒しの明るさだ」
糸見、フィ、シーバの三人はペルシャナに来ていた。
ここペルシャナは南方にある大都会、金と欲望が渦巻く摩天楼。人通りも多く、夜でもこの街は明るい。眠らない街。この街で遊べば、一夜で人生の逆転と転落を味わえると言われている。そうして名付けられたこの街の二つ名はパラダイスシティ。
「金と欲望の街か・・・」
三人は人混みをかき分けて進んでいく。行きかう人はやはり、若人が多い。歩く所々にある路地裏を横目で見ると、街の本性が見える。一文もなく、金がつき倒れふした者、明らかに薬を売り捌いている者。
「それで。さっそく、件のカジノへ乗り込むんですか?ボス」
「いいや。まずは情報収集だ」
目的地はこの街の曰くを生んだとされる、カジノミッシェル。そのカジノが無ければこの街はここまで発展しなかったと言われている。
そしてそんなカジノミッシェルには黒い噂がある。今回の依頼はその噂を暴き、そこのオーナーからある情報を聞き出さなければならない。
「はぁー・・」
ため息をつき、糸見は思い返す。依頼を受けた日のことを・・・
学園襲撃後、気分転換に南西にある小さな海辺の街へ来ていた糸見たち。そこで糸見は殺し屋を休業して、休暇を取っていた。いや、正確には休暇は取れていない。というのも糸見は迷っていた。
自分はこれからどうするべきなのか。志貴への恨みは晴れていない。だが自分が誰のために、何の為に刃を振るうべきなのか。そんなことを考えながら、海辺で釣りをしていたらある人物がやってきたのだ。
「咲夜遊・・」
「どこにいるかと思えばこんなところでバカンスとはな・・・どうだ釣れてるのか?」
呑気にそんなことを聞いてきた咲夜遊の服装は、何とも言えないぐらい真っ赤なワンピースに麦わら帽子だった。しかも片手には、綺麗な青が映える、ブルーハワイのカクテル。まるでバカンスに来た令嬢そのものだった。黙っていればだが。
「いいや、全然。気分転換にやってみたが、こりゃだめだな。センスがないようだ。釣り人は諦めることにするよ」
「残念。知ってるか?自分で釣った魚はかなり美味らしいぞ」
「あぁ。だって達成感っていう味わいがあるし、何より新鮮だ」
「そりゃいい。食いてえなー、その魚・・そんな話をしてたら寿司が食いたくなってきたなー。どうだ?さっき、そこの漁港で漁師にあったんだが。どうやら、板前で、居酒屋を営んでいるらしい。そいつの店に行かないか?奢ってやるよ。焼酎は飲めるのか?」
「はぁー・・・・・それで、何の用だ?咲夜遊」
「依頼をしに来た」
「依頼?生憎、今は殺し屋は休業中だ。他をあたってくれ」
「そうか。残念だ。あーあ、糸音になんて言おうかなー」
遊はわざとらしくそんなことを言って帰ろうとすると糸見はため息をつく。
「はぁー・・・ちなみに、依頼ってなんだ?聞いてはやる。受けるかはわからんがな」
「あんがと。・・南方の街、ペルシャナにある、カジノミッシェルの黒い噂は知っているか?」
「あぁ、詳しくは知らないが、噂なら聞いたことがある。たしか、カジノのオーナーは夜月家と繋がりがあったり、裏では人身売買してるって話を聞いたことがある」
「話が早くて助かる。そのオーナー、ゴトー・リスクという男から、ある情報を聞き出してほしい。できれば捕えて来てくれてもいい」
「なるほど。要は情報収集か。それで、何を聞き出すんだ?」
「あぁ。奴は、宗谷という男と繋がっているという話を聞いてな。望み薄ではあるが、その宗谷の居所を聞き出してほしい。できれば目的、敵の数を知れれば尚良し」
「宗谷・・・生きていたんだな。たしか昔、師匠と仲が良かった。それにしても注文が多いな。それでなんでそんな依頼を私に?」
「観測して、お前が一番適任だったからな」
「ふん。未来を見られるというのは、なんとも言えない気持ちになるな」
「・・宗谷は今の俺たちの敵だ。いや、世界の敵か。あいつの目的はわからないが、夕凪家にあった、天与核っていう異能の恩恵を与えてくれえる物が盗まれたんだ」
「天与核・・そんなものがあったんだな。それで、その依頼を受けて私に何のメリットがあるんだ?金なら要らないぞ」
「メリットね・・宗谷は今や世界の脅威となっている。天与核を使って何をしようとしているのかはわからんが。あれは、悪意のある人間が持っていい代物ではない。これは余談だが、お前達が襲撃をしに来たのと同時に盗まれた・・・それに受けてくれれば糸音が喜ぶぞ」
「・・・・・少し考える」
「おーけい。俺は今日、街のホテルにでも泊まる予定だ。夜は、例の居酒屋にでも行くかな。何だか酒が飲みたくなってきた。良い答えを期待しているぜ」
そう言って遊は背を向けて片手を振りながら去って行く。一人、残された糸見は釣りを再開する。
(糸音・・)
釣り糸を垂らし、糸見は目を瞑り考える。依頼を受けるメリットが果たしてあるのか、どうか。
(宗谷・・世界の脅威・・師匠ならどうする?・・糸音には借りがある・・・・全然悪気は無いが。天与核が盗まれたのは私のせいか・・・)
「正義・・・」
優しい風が糸見の髪をなびかせる。聞こえるのは静かな波の音、塩の臭いが心地よく、糸見の心は静かな水面のように澄んでいた。そして、糸見はゆっくりと目を開ける。
「よし」
二
「いやー、美味い!こりゃ、いいや!酒がすすむ、すすむ!」
「お客さん。いい飲みっぷりですね。板前冥利に尽きます」
夜になり、遊は件の店に来ていた。漁港で会った漁師の店で寿司を頬張り、焼酎の入った酒瓶を二本も開けていた。
ガラッ
「へい、らっしゃい!お好きなお席へどうぞ!」
店の扉が開き、ゆっくりと遊の横に座ったのは糸見だった。
「よう!ここのお酒はうめえし、なんせこのブリがいい!いい腕してるぜ、ここの大将さんはよ」
「大将。はまちを・・」
「へい!」
糸見は遊を無視するように、テーブルに置いてあった、酒瓶の中に残った焼酎を空になった遊のおちょこを奪い取り、それに注いぎ一気に酒をあおった。
「依頼、受けてやる・・報酬は後で考える」
「そりゃよかった。んじゃ、頼むぜ糸見。ところで今夜は空いてるか?飲める口なら、朝までどうだ?」
「いいだろう。ただし、先に潰れた方が、ここの代金を二人分支払う。なに。気分転換に始めようと思っていた賭け事の前哨戦だ」




