ヘルヘェブル(九)
志貴は二人を探すべく、ビルへと降り立った。損壊した瓦礫の山を歩き、建物内へと入ると、上へと続く階段を見つけて進んだ。少し登ったその時、階段が爆発した。だがしかし、志貴は何食わぬ顔で足元に空気を固めて、そこへ浮いていた。
「古典的なトラップだな。ということは上で正解だったかな・・おや」
崩れた階段上から、兵士が銃口を向けて志貴へと銃弾を放つ。
志貴は向かってくる銃弾を弾きながら、自身で固めた空気の階段を上ると、すれ違いざま兵士達の首は捻じ切れた。
(あの陰気な男の異能、確か屍を操ると言ったか・・単純な異能なら問題はないが、そうではないだろうな。他にも何かありそうだ。それからライラ。あいつは血液操作だったか。こっちも厄介だな。屍の血液がある以上、枯渇することはないし、きっとまだ何か奥の手がありそうだ。屍を操る能力と、血液操作能力。いいコンビだな。そうなると、さっきの夜月はなんだったんだ?・・ライラは狡猾な奴だ、無駄死にさせる様な真似はしないはず)
志貴は階段を上ぼりながら思考する。
そして何事もなく進み、最上階、屋上への扉に手かけたその瞬間、また爆発した。
「おいおい、またこれか。芸のない奴らだな」
爆発で起き、屋上に吹く風によって粉塵が消えて視界が晴れる。最上階には陰気な男が一人いた。
「あれ?ライラはどこだ?」
「ライラは、そこだよ」
カバネが指指した方向を見やると、ライラが志貴の頭上から血で固めたナイフで襲いかかってきた。
「やっと近接戦か、退屈だったんだ」
「ほざけっ!・・カバネ!」
「あいよ」
呼ばれて、カバネが指を鳴らすと、いつのまにか頭上にあった血液の塊から兵士が落ちて来て、志貴へと銃をぶっ放す。
「また、攻撃の雨か」
もちろん志貴に弾は届かない。だが志貴は、ライラの攻撃を躱しつつ迫る兵士達の中にいた、もう一人の敵に気づかなかった。
「ん?」
足に痛みを感じ、足元を見る。そこには少しの切り傷がつけられていた。様子を伺うため距離を取る志貴。
「ようやく攻撃が通ったな」
「なるほど。もう一人居たのか。まぁ攻撃が通ったとしても、すぐに傷口を空気で固めれば問題ない」
カバネの方を見る。いつの間にか、その横にはもう一人の男が居ることに気づく。その男も陰気な雰囲気を纏っていた。そして片手にはナイフ。
「この攻撃の嵐。私に、そこの男の攻撃を悟らせないようにするため、有象無象の中に潜ませたな。それから私の空気のバリアを貫通したという事は、おそらく何らかの異能を使ったのだろう」
「こいつは鹿目、宗谷がよこした刺客だ!対お前の、とっておきだ」
「どうも、よろしくっす」
そんな陰気な男は、なんとも軽薄な態度だった。
「興味深いな?君には興味ないけど、その異能には興味ある。なんせ、この私の空気を破り、傷をつけたんだから」
「秘密っす」
「残念」
志貴の周りに落ちていた瓦礫が突如。宙に浮く。
それを三人へと飛ばす。速さもバラバラ、飛んでくる瓦礫を躱しながら、飛び散った兵士たちの血液を集め壁を作るライラ。カバネは死体を縦にして守り、鹿目は飛んでくる瓦礫の合間を縫って空中を切る。目に見えない刃は志貴のバリアを破り、ライラが集めていた血液を槍にして志貴へと投げる。志貴はギリギリでそれを躱す。
(なるほどね、そういうことか)
志貴は体制を崩したがすぐに後退して、空気を固め、バリアを作り、さらに目に見えない攻撃を三人に飛ばす。
カバネの前の死体は吹き飛び、陰気な二人は後方へ飛ばされる。直後、カバネに接近する志貴。カバネは志貴に心臓を貫かれると、手に隠し持っていた手榴弾を爆破した。
「おっ!」
ドーーーンッッ!!
「いやー、危なかったね。あと一歩、手を抜くのが遅かったら巻き込まれていたよ」
煙が晴れる。心臓を貫かれ、爆発に巻き込まれたはずのカバネはそこに居た。体はボロボロ、かろうじて原型を保っていた。
「チッ、遅かったか。でも見えたぞ!お前の空気の力!慣れれば問題ないな!」
「問題ないっすか。陰気な奴と思ったが、陽気に喋るな。というか何故、心臓を貫かれて、あの爆発で死なないんだ?」
「そんなの簡単だぜ。俺はもう、とっくに死んでるからな」
「へぇ、ゾンビか。自分も操れるってか?面白いな。ならこれは?」
突如、カバネの首周りの空気が少し揺らぎ、首が徐々に捩れ、折れる。
「面白いものを見せてくれた礼だ。私のこの技の秘密、っていうか、別に秘密にはしてないんだけど。なーに、簡単な話さ。この技は空気を固めて両サイドから回転させ、捩るだけ」
「なるほどな。いいことを聞いた」
ライラと鹿目が瓦礫から這い出てくる。
「難しいことはわかんないっすけど。俺のかまいたちだとそれが斬れる、ってわけっすね」
「おい!なんで自分で言いやがるんだ!」
ライラは呆れて顔を抑える。
「はっはは、面白い子じゃないか。そうかそうか、かまいたちか。それなら納得だ、真空をも切ると言われている現象だからな。そっちの彼、カバネだったか。お前やっぱりゾンビだな」
志貴が指差した先、カバネが瓦礫の上に座っていた。その首は元に戻っていた。
「さっきも言っただろ!俺はゾンビ、自分自身を異能で操ってるんだよ!」
「はっはっはっ!全員厄介だ!コイツは、骨が折れそうだ」
そして志貴は考える。カバネという男はゾンビだと言った。それを間に受けるなど、単純すぎる。死体を操る。なら単純に、そこだけを切り取って聞けばいいんじゃないのかと。
「君は本体じゃないな。死体を操る、顔や姿も意のままに変えられる。死んでも異能が使えるなんて聞いたことないからね。本物はどこかで操作しているな」
「さすがは志貴。聞いていた通りの洞察力だ。だが、それがわかったところで俺の本体の居場所はわからないだろ」
「わからないな。まぁそんなのは探せばいいだけだろ?・・さて、三対一に戻ったわけだ。それで、まだ隠し玉があるのかな?」
「さぁな!」
ライラが先に仕掛けた。血液を操り、無数の弾丸を作り出す。それを一気に志貴へと放った。カバネは同時に、志貴へと駆け出す。その手には手榴弾。鹿目が手で切り裂く様に、志貴へとかまいたちを飛ばす。一番最後に放った、それが志貴へと到達するが躱される。怒涛の攻撃の嵐を紙一重で躱し続ける志貴。
(空気を斬るっていうのは厄介だな。だが、警戒すべきはそれだけ。他は空気で止めれる。だが手榴弾の爆発で、どこからあのかまいたちが飛んでくるのかがわからない以上、三人を同時に警戒しつつ、反撃するしかないか)
爆風の中で志貴は、空気の塊をライラへと飛ばす。ライラは駆け出し、無数に飛んでくる空気の弾丸を躱しながら、血液の弾丸を飛ばし続ける。カバネは志貴の一番近くにいた。カバネの手榴弾は尽きることがなかった。それは自身が操る兵士がカバネへと手榴弾を投げ渡し、爆発し続ける。最後の一人、鹿目はかまいたちを飛ばし続ける。
「いつまで続けるのかな?」
「お前の集中力と体力が尽きるまでだよ!さぁ、どっちが先に果てるかな!」




