ヘルフェブル夜戦(十)
一
まさに戦場。そして乱戦。三人の敵と兵士達を自身の異能で圧倒する志貴はまさに鬼神。しかし、それに対抗する三人もまた強者。荒れ狂う屋上には爆風と銃弾の嵐。
「さすがは怪物。殺し屋界で最強と呼ばれているだけはあるな」
「なんだ?急に。そろそろ、疲れたのか?」
「んなわけ!」
「正直、私は疲れてはないけど、少し飽きた。・・なんで、ここらで戦況を少し変えてみようか」
志貴は爆風で巻き上げられた粉塵の煙の中から飛び出して、空中へと躍り出る。そしてそのまま着地すると、真っ直ぐ走り出す。それを追う三人。
「どこへ行くっ!志貴っ!」
「逃げたんじゃないっすか?」
「いや、アイツは逃げるなんて真似はしない。何か企んでやがる!」
「!?」
三人は驚いて立ち止まる。あろうことか志貴は建物から飛び降りたのだ。
「なっ!?本当に、何を考えていやがる」
「自害っすか?」
「いや、何かある・・」
建物から飛び降りた志貴は落ちていく最中、振り返り、ビルの方向へと向き両手を伸ばす。
「一旦、全部壊すか」
志貴は建物のいたるところに空気の層を固め強引に回転させる、まるで先ほどの人間の頭を捻る様にして。
そして音を立てて建物は崩れ出し地震のような轟音が鳴り響く。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「まじっすか!これ、ヤバくないっすか!?」
「やばいな」
「まさか、建物ごとやる気か!」
三人はライラが固めた血の上に乗って建物から出る。ビルは倒壊、凄まじい砂煙が巻き上がり、視界が見えなくなる。
壊した張本人、志貴はすでに地上に降り立って、空を見上げる。
「さて、アイツらが降りてくるまで時間があるな」
志貴はさらに空気を固めて、そこらに転がっている死体ごと、周りのビルを順番に吹き飛ばす。
その様子をゆっくりと下降する三人は見ていた。
「あれは、何をやっているんだ?」
「多分だけど、俺の本体を探しているんだろうな」
「無茶苦茶っすね」
そうして、一通り一掃し終えた志貴のもとに三人は降りてきた。辺りは原型をとどめた建物はなく、死体が転がり、瓦礫の山。そこはまるで戦場の様な有様だった。
「おい、遅いぞ。待ちくたびれたから、全部ぶっ壊したぞ。・・・それにしても、君はどこにいる?」
「無駄だ、俺は見つけられない」
「そう見たいだな。それじゃあどうする?続きでもするか?」
「当たり前だ!っと、言いたいが・・・」
「ん?」
志貴は足元に何かを見つけた。それはペラペラの何かだった。次の瞬間、それは志貴の体へと巻きついた。
「おっと?」
三人はその一瞬の隙を見逃さなかった。鹿目は志貴が纏っている空気の壁を切り裂く。それは全身ではなく足元を狙った攻撃だった。瞬間、手持ちのナイフを投擲、志貴の足に傷が付く。
その瞬間、ライラは手をのばすと志貴の傷口から血を抜き取りだした。
「おっと、これは」
「この時を待っていた!後は血を全て抜き取れば終わり!さすがのお前でも死ぬだろう」
「なるほど。このペラペラ、何かと思えばさっき私が殺した夜月か。たしかにペラペラになったとしても、死体は死体。操って、私へと巻き付かせたか。まさかここまで用意周到だったとは、恐れ入る」
「お前はもう身動きが取れない!油断したな志貴っ!空気を操作するには手を動かす必要があるんだろ?さぁ、終わりだ夕凪志貴!!」
志貴はどんどん傷口から血液を抜き取られていった。しかし、志貴の表情は余裕そのものだった。
「どうした?なんだその顔は?」
「いや、なんでも。さて、もうちょっと楽しもうと思ったんだけど・・・まぁいいか・・・真無宇宙空壊帯」
そう言って志貴が指を鳴らすと、突如、黒い空間が広がり、辺りを包み込んだ。
「!?」
三人は驚いたが声が出なかった。それ以前に息ができなかった。
「苦しいか?・・・これは創生術と言って、俺が作り出した真空世界。そこへお前達を案内してやったんだ。これは私の取って置きの一つだ。・・ん?なんで真空なのに声が聞こえるのかって?それは、今お前達の耳にだけ空気を通しているからだよ。まぁ、わかりやすく言うなら、糸電話とでも言っておこうか。ここでは自在に空気を操作できる。真空なのに空気がどこにあるか不思議か?それは私が作り出しているからだよ)
(そんな、バカな!?それじゃあ・・・最初から遊びだったということか)
ライラは震えた。それは恐怖なのか、怒りなのか、わからなかった。志貴が空間を作り出して数分、鹿目が意識を無くして、音もなく倒れる。
「まずは一人だね」
(なるほどな。これが怪物の所以か・・・)
焦るライラを他所にカバネは何食わぬ顔で立っていた。
「そうか。やっぱり君には意味ないか。元々死んでいるからね」
(無念だが・・・カバネなら・・対抗・・できるか・・・)
遂にライラも息絶え倒れる。志貴はそれを確認すると創生術を解いた。残された二体の死体をカバネはただ見下ろしていた。その顔には、心配や同情なんてものはなかった。
「あとは君だけか。どうする?やるか?」
「いいや、いい。依頼人は死んだ。ここにいる意味はない」
「そうかい。ところで君は何者なんだい?未凪にはいなかった顔だ」
「俺は、雲月カバネ。ただの殺し屋さ」
「殺し屋ね。雲月カバネ、覚えておこう」
「ふん。今回は俺の負けだが次は勝つ。さてと、もう一つの依頼は果たされたから俺は帰る」
「依頼?」
「異能にとっての厄災、それの回収が目的だからな。お前や咲夜遊、シャオや夕凪姉妹の足止めが俺たちの目的だ。また会おう、夕凪志貴」
「待てっ!」
カバネはそのまま倒れた。残されたのは三人の死体と志貴。
「何者なんだ、アイツ・・・いや、それよりも厄災の回収・・・嫌な予感がする。槍士たちの元へ急ぐか・・・」
志貴は駆け出し、槍士達のいるA地区へと向かう。
二
「さっきのでかい音、B地区の方で聞こえたぜ」
「おそらく先生ですね」
「戦闘中ってことですよね・・・」
「急ぎましょう」
キメラとの戦いを終えた真宵達四人はB地区へと向かっていた。
その時、四人の前方から黒いフードを被った、怪しい男が歩いてくる。
「あいつ、敵か?」
「おそらく、そうですね」
「あれ?」
ミツギは目の錯覚かと思った。さっきまで離れていた男が消えては現れ、徐々にゆっくりと近づいてきていことに気づく。
「なんだ!?おかしいぞアイツ!姿が消えて、現れたと思ったらいつの間にか近づいて来てやがる!」
「!?」
四人は驚いた。さっきまで、おそらく数百メートル先にいたであろう男は槍士の目の前に突如、現れた。
「みんな、にげ・・・!?」
次の瞬間、男の手から光が放たれた。その光は、槍士の腹を真っすぐに貫いた。そして槍士は静かに倒れる。
「先輩っ!」
真宵は咄嗟にフードの男に銃を向けて弾丸を放った。しかし、男の姿が透けて弾丸は男の後方へと抜けた。真宵は何が起こったのか理解できず唖然としていた。
男は無言で手をかざす。瞬間、男の後ろから光の剣が飛び、狙われた真宵とミツギは、何もできずに倒れる。
「ミツギッ!」
神無は小太刀を構えて男に斬り込むが、またも姿が透けて空を斬る。
「なっ、なんだお前は!?」
男は何も答えず、神無の背後に一瞬で現れて、手刀を首に当て気絶させた。
気を失う神無を担ぐと男は突然、眩い光に包まれる。
「ま、まてっ!!てめぇは何者だ?」
槍士はかろうじて声を発するが男は何も答えず、光に包まれ、神無と共に消えて行った。
一瞬の出来事だった。数分後、志貴がやってきてその惨状を見つける。一番重症の槍士へと駆け寄ると空気を固めて、腹から流れる血を止血する。
「大丈夫か!?槍士!何があったんだ!・・神無は、どこだ?」
「先生・・か、神無は連れていかれちまった!光る男が現れて・・・」
「くっそっ!やられた!」
その後、志貴はすぐに三人を夕凪家専属の病院へと運び、一命は取り留めた。
・・・神無が連れ去られてしまった。この一報を聞いた、神薙にいる遊達はすぐに夕凪邸へと帰還した。神薙とヘルフェブルで二人も失い、長い夜がこうして幕を閉じる。




