ヘルフェブル戦(八)
槍士と真宵が神無達と合流した同時刻、志貴はB地区にある、ある建物にいた。その建物はかつて、ヘルヘェブルを一望できたアミューズメントタワー。そして、その内部へと足を踏み入れていた。その建物の下には吸血の成れの果てと化した無数の有象無象と一人、未凪家一派がいたが・・・
「いやー、下の連中、弱すぎでしょ。一人だけ未凪の奴がいたけど瞬殺だったな。仮にも夕凪家の分家なんだからさぁ、もっと強くならなきゃ、っね君たち」
階段の影から武装した兵士が数人、志貴へと襲いかかるが、志貴に近づく前に全員首が捩れて倒れる。志貴は屍を踏み進んでいくとひと際大きな扉を開けた。
「おや、まだこんなにいたのか」
扉の先は展望台だったが、ガラスは無くなり風通しがかなり良くなっていた。そこには無数の武装した兵士がいた。
「吸血鬼の成れの果て・・・かと思ったが少し違うな。ゾンビ?さっきから声も上げないし、目の焦点があっていない。そろそろ君たちにも飽きてきたんだけどなー」
兵士達は志貴に次から次へと襲いかかる。ライフルで撃つ者、ナイフで襲いかかる者、その兵士達を志貴は、片手を伸ばして空気中に透明な何かを放ち、建物から吹っ飛ばし、建物から兵士たちを落としていく。
「おー、いっぱい落ちていってるな」
志貴は呑気に眼下を見下ろしていたその時、背後から足音がする。
ジャリッ
「ん?」
志貴は足音を聞き振り返ると、目の前に血液が飛んできた。正確にはナイフの形をした血液が無数に目と鼻の先へと迫る。しかし志貴には当たらない。いや、当たる前に弾けたのだ。
「おいおい、挨拶も無しか」
「今さら挨拶なんて必要か?夕凪志貴」
影から二人の男が現れた。一人は陰気で気だるそうな男で、もう一人が真っ赤なスーツを着た男だった。
「お前、相変わらず趣味の悪いスーツだな。それで、裏切りの理由は聞けるのかな?」
「裏切りだと?違うな。最初から、てめぇら夕凪家に組したつもりはない。それより足元・・・」
「ん?」
志貴は言われて足元を見ると、先ほど殺したはずの兵士が一人倒れていた。その手には手榴弾。有無を言わせず、それは爆発した。
ドーーーンッッ!!!
「危ないねー・・・というかさ、次から次にやりすぎじゃない君たち。そろそろ休みたいなー」
志貴のいた階は20階、展望台。手榴弾によりその部分は半壊。確実に死ぬ爆発に巻き込まれた志貴。だが、爆発で舞い上がった粉塵は風で吹き飛び、志貴は無傷で少しビルから離れた空中に立っていた。
「さすがに、これくらいでは死なんか・・まぁ、ゆっくりしているとこっちがやられてしまうからな。お前に休む暇も与えない」
「ライラ、あれが夕凪志貴か・・・浮いている」
今まで、顔色ひとつ変えず立っていた陰険な男が驚いた表情で口を開く。
「カバネ、あれが奴の異能、超能力だ」
「超能力?それって異能なの?」
「あぁ、奴がそう言ってはいるが本当はそうじゃない。奴は空気を固めたり、浮いたり、浮かせたり、捻ったり、空気を操りあらゆる攻撃を仕掛けてくる。本当に厄介で鬱陶しい異能だ。そして一番厄介なのは、その目に見えない空気の攻撃だ」
「ヤバいじゃん・・・見えないならどうやって戦う?」
「大丈夫だ」
二人の会話の途中、目に見えない何かが飛んで来るのを感じたライラはそれを躱す。
「おいおい、今のを躱すのか。何故わかった?」
「お前の能力は粗方わかっている。何回殺し合ったと思ってるんだ?お前の飛ばした異能で操作された空気は、目を凝らせて見れば、固めた空気の回りが揺れていることがわかるんだ。それを見極めただけさ」
「へぇ、よく見ているなー。まっ、それがわかっていても、集中力はそれなりに使うはずだ。私との戦いの中でそれをずっと続けられるのかな?」
「なーに、何も一人で戦うわけではない」
「?」
空中にいた志貴の上空から何かが急降下してくる。それは一瞬で志貴へと落ちてきて攻撃を加え通り過ぎ、空中で静止する。そこには、何かの動物の羽を生やした人物がいた。
「本当に人間か?今のを当てられて無傷なんて」
「それを君が言うのか?・・・それで、見たところ、それは異能じゃないな・・・そうか。お前たち夜月とも組んだのか。それでなんで俺たちを狙うんだ?ライラ。首謀者は誰だ?」
「宗谷だよ。今俺たちは共謀しているんだ。夜月と宗谷とな。宗谷の目的、真意は知らんが、奴の話には乗ってやった。そして未凪家は全員一致で、お前たち夕凪家とその傘下を皆殺しにすることを決意したよ。俺たちはこの時をずっと待っていた!お前達兄妹が作り上げた今の夕凪家がつまらなかった。だから出て行った。夕凪家の分家なんて汚名だ。だから、お前らぶち殺して、俺たちが夕凪家を名乗る!」
「兄さんは奴を殺し損ねたのか。・・・宗谷か・・これで確証が取れた・・・それにしても良く喋るな。それに、出て行ったんじゃなくて、見限られたんだろ?俺たちに」
「黙れッ!なら今度は俺たちが見限る番だ!」
「あー、うるさいなー。とりあえず、君たち未凪家は殺すとして、夜月の君。君たちは何故なんだい?」
「さぁ、俺たちは爺に言われたから動いている。何をしたいかは爺しか知らない」
(あの老いぼれ、何を考えているんだ?・・・夜月に未凪、それに宗谷か。予想していた展開だが、最悪だな)
「はぁー、三対一・・・いや、何対一だ?」
建物にいるライラたちの背後にはいつの間にか無数の兵士がいた。
「なるほど。さっきから思ってたけど、そこの兵士たちさぁ、陰気の君の眷属か何かなのかな?」
「そうだよ。これ俺の異能で、屍を操れるんだよ」
「やっぱり。まぁ、それはちょっと多いのがめんどいだけで、何とかなるな。それでライラは血液操作の異能。夜月の君は、鳥人間か。速さが自慢かな・・・こりゃ、楽しめそうだ」
「余裕でいられるのも今のうちだぞ。今夜こそお前を仕留める!」
ライラはそこらに飛び散っていた兵士の血液を集めると、それを固めて無数の剣を作る。
「それにしてもお前、異能を使える様になったのか。俺達から盗んで」
「あぁ、血液を操る異能。お前を殺すための力だ!」
無数の血液の剣が志貴に向かって飛んでいく。同時にカバネは兵士たちを操り、銃弾を放ち、夜月は再び上昇、そのまま志貴へと急降下する。三人同時攻撃。
だが志貴は眉一つ動かさずその場から動かなかった。向かってくる血液の剣は手前で弾け、銃弾は空中で止まる。急降下した夜月は志貴に当たる手前で空中に停止していた。否、空気に捕えられる。
「残念。まずは、鳥人間、君からかな」
夜月は見えない空気の手によって、全身を外側から圧縮される。そのまま骨は砕け、絶命した。ライラは血液を操作して、夜月の傷口から血液を抜き取る。その血液を使い、志貴ごと取り囲み血液のドームの中に閉じ込める。
志貴は血液のドームの中、動かず待っていた。すると、ドームの内側の壁から血液が針の様に志貴の体を突き刺しにかかる。それらはいくつも伸びてきて、志貴に当たる前で散っては再び針になり向かってくる。無数の針が志貴を連続で襲う。
「こんなんで私を封じたとでも」
志貴は空気を操作して、内側から膨張させて血液のドームを破裂させた。
「おや?」
ビルの方を見る。そこにはさっきまでいたはずの無数の兵士と二人の姿がなかった。
「なるほど。次は接近戦かな・・・とりあえず、一人」
空気で捕えていた夜月の死体を手放す。夜月の死体は、血液を抜かれていて干からびていたため、風に乗って彼方へと飛んでいった。




