ヘルフェブル夜戦(七)
「よっしゃあー!」
槍士はでかい得物を狩った後の安堵感からか、その場で倒れた。その横では神無が冷めた表情でそれを見ていた。
「お前は馬鹿か」
「なんだよ、いきなり」
「戦いの最中にそんな無防備に倒れるやつがあるか」
「いいだろう!もう終わったんだし!」
二人は少しだけ険悪なムードになった。そこへ、真宵とミツギがやってきてそれを仲裁にする。
「まぁまぁ、神無。落ち着いて」
「先輩も落ち着いて。たしかに気を抜くのには、まだ早いですよ。ほら、立って」
「・・・まぁ・・たしかにそうだな。悪かったよ、神無ちゃん」
「だから、ちゃんはやめろって・・・!?」
「!?」
四人は驚愕した。近くに落ちていた、斬ったはずのキメラの首が動いていた。さらには胴体の切断面がぐにょぐにょ動き出す。
「まずいっ!まだ、終わってないぞ!」
「うそだろ!?こいつ不死身かっ!」
「くそっ!なら心臓だ!心臓を狙え!神無!」
ミツギの声に反応して、一番キメラの胴体に近かった神無は小太刀をキメラの心臓目掛けて突き刺す。しかし、それは呆気なく防がれる。まだ、地を這う首なしキメラは両手で神無の小太刀を掴んで、刀ごと神無を吹っ飛ばす。キメラの攻撃は終わらなかった。次いで瞬時に反応した槍士は槍を突き刺そうとするが、見事に躱される。
「こいつ、マジか!?」
首無しキメラは槍士の体を掴み、ビルの壁へと叩きつけた。
追撃。真宵は懐から銃を取り出し、銃弾を放った。しかしキメラは、銃弾を躱すことはせずにその身に受ける。まるで効かないと言った感じで、銃弾は鋼鉄の壁にでも当たったかのような音を響かせる。
「!?」
真宵は急接近してきたキメラに殴り飛ばされて、ミツギ共々、壁へと叩きつけられる。
「ふざけた野郎だな!」
砂煙を舞い上げ、神無は再び飛び上がり、キメラの胴体へと小太刀を突き立てる。しかしやはり心臓には届かず。さらには、小太刀が突き刺さったまま、再び神無は殴り飛ばされる。
「神無!」
ミツギはその様子を見てすぐに立ち上がり、縄を振り回してキメラの胴体へと巻き付ける。しかし、キメラの猛攻は止まらない。胴体を回転させて縄を持つミツギを空中へと舞い上げる。
(くそっ!なんて力だ!)
キメラは空中に上がったミツギへと飛び、かかと落としで地面へと叩きつける。
グサッ!
そこへ空中にいたキメラへと槍が突き刺さる。だが、刺さっただけで心臓までは到達していなかった。
「ったく・・かてぇなぁ・・はぁ・・」
槍士はビルにもたれかかったまま、キメラを見上げていた。
「いや・・いけますよ!先輩っ!あいつは今ミツギさんの縄で手が使えません。神無さんっ!」
「あぁ、わかってる!」
キメラが空中から降りてきたのと同時に、真宵の銃弾が刺さった槍へと真っすぐ放たれた。
ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!
銃弾は突き刺さる槍に順番に命中した。槍が奥へとゆっくりと刺ささっていく。そこへ神無が二本目の小太刀を手に、キメラに刺さるその槍へとハンマーのように叩き込む。槍が心臓へと到達、キメラは少しふらついた後、盛大に音を立て倒れた。
「・・やったか・・みんな生きてるか?」
「なんとか、な」
「僕も、なんとか」
「先輩。ナイスでした・・いえ、皆さんナイスです」
ついに化け物キメラを仕留めた四人は安堵する。
「しっかし、焦ったぜ。まさか首なしで動くんだからな。再生するかと思ったぜ」
「その可能性はありましたよ。でも、マジで死ぬかと思いましたよ」
「まぁでも、皆さん無事ということで」
「おい、ミツギ。これが無事に見えるのか?」
四人は気が抜けて笑い合う。
「はっは・・おい!・・そういや頭はどこだ?」
「あれ?そういえば・・・」
「神無、どこに行ったか知ってる?」
「なんで私に聞くんだ・・知るわけないだろ」
「まぁ、いいじゃん!今はさっさと先生と合流しようぜ!あっ、そういや救難信号のやつあったな、飛ばすか?」
「いえ。こちらから向かいましょう。幸いにも敵の気配は無さそうですし」
「なら早く行こう。疲れた。さっさと合流して休みたい」
「あっ、神無!みんなを置いて行くなよー!」
先に歩き出していた神無の後を追いかけてミツギが走る。その様子を見て、残された真宵と槍士は顔を見合わせると、二人の後を追う。だが、まだ彼らは気づいていなかった。窮地の戦いが終わった安堵感、安心感のせいなのか、疲労感のせいなのか誰も、彼の視線に気配に気づかなかった。




