ヘルフェブル夜戦(四)
「こりゃ、まじでやばいな・・」
槍士はヤシラによる斧での連撃で、致命傷にはなっていないがかなりの傷を負ってしまっていた。
「それにしても、さっきの爆発音一体何だったんだ。まぁさっさと終わらして、カラクの所にでも行くかな」
斧を両手に余裕の表情でゆっくりとした足取りで迫り来るヤシラ。槍士は槍を杖にして立ち上がる。
(小僧、俺を杖代わりにするとはいい度胸だ)
「悪いー悪いー。こうでもしねぇと立てねぇもんで」
(小僧、前回みたいに限界がきたら俺がやってやろうか?)
(いいや、それは勘弁だぜ)
(なぜだ?)
(そりゃ、この後も戦いが控えてるかもしれねぇからな。動けなくなったら困る)
(この後か・・だが、ここで死んだら元も子もないぞ)
(なら、どうしたらいい?擲槍)
擲槍は驚いた。今まで戦闘について、槍士が自分に相談してきた事など今までなかったからだ。
(ふん、まぁいいだろう。・・・・その前に一つ聞くが、お前は憑依術には二種類あることを知っているか?)
(何だそりゃ、初耳だ)
(ならいい。まずは頑張って奴の体にこの俺を刺せ。刺されば何処でもいい、刺せなければ小僧が死ぬだけだ。まぁそうなる前にこの俺がお前の体に憑依するがな。まぁせいぜい頑張れ)
(よくわかんねーけど、何処でもいいんだな!)
「やってやるさ!」
「何をやってやるんだ?」
槍士は首を傾げながらゆっくりと近づいてくるヤシラへと駆け出した。
「なんだ、頭ごなしに突進してきやがって。何のつもりかは知らんが、そんなに死に急ぎたいなら殺してやるよ!」
ヤシラは斧を振り上げ、向かってきた槍士へと投げ飛ばした。槍士は槍をしっかりと握り、飛んできた斧を槍で打ち返す。
「何だ、やるじゃないか。さてさて、どこまでもつかな!」
ヤシラも向かってくる槍士へと駆け出して、通り過ぎる足元の斧を拾い連投する。
投げられた斧の一つが槍士の肩を掠めた、その瞬間、ヤシラは気づく。槍士の持っていた槍が短くなっていることを。
(・・ん?短くなった・・いや!槍の先端が無い!何処へ行った!?)
気づいた時にはもう遅かった。ヤシラは背中に痛みを覚える。ヤシラは後ろから槍の先端が接近していた事に気づかず見事に刺さってしまった。
「なるほど。さっき打ち返した時に槍の先端を切り離し、俺の視界から外して背中から狙ったな。思ったよりもやるじゃないか。だが、残念。急所は見事にはずれだ」
「・・・これでいいんだな」
「?」
ヤシラが自身の背中に突き刺さっている槍の刃先を掴み取ろうとした瞬間、ヤシラの視界に工場とは別の景色が広がる。そこは暗い洞窟で、地面には幾つもの槍が刺さっていた。そしてそんな中、場違いな玉座を見つけるとそこには、見覚えのない着物の男が偉そうに座っていた。
「小僧にしてはよくやったな。いや、ただこいつが間抜けなだけか・・・」
「何者だ?それにここはどこだ?」
「質問は一つずつにしろ人間よ。俺は擲槍、あの小僧の持っている槍の宿主だ。そしてここは俺の精神世界」
「なるほど。そういえばあのガキ、朝霜って言ってたな。朝霜の人間とは初めて戦ったが、これも例の憑依術の一種なのか?」
「そうだな。今日は機嫌がいいから教えてやろう。それに久しぶりの客人だしな。朝霜家の憑依術には二種類あるのだ。従来、朝霜家で使われているのは、武器の宿主を自身に憑依させる術。そしてもう一つが、対象に武器を突き刺すことによって、そのものを武器の宿主の領域、まぁ精神世界の方がわかりやすいか・・そこへ引きずり込める術だ」
「それはわかった。それで、いつここから出してくれるんだ?」
「力づくで出て見たらどうだ?」
ヤシラはそう言われて、持っていた斧で玉座の擲槍に襲いかかる。
「!?」
気づくとヤシラの背後には擲槍が立っていた。
「つまらん芸だ」
ヤシラは振り向き、擲槍に猛攻する。しかし擲槍はまるで意に介さず、余裕の表情でヤシラの攻撃を躱し続ける。擲槍はヤシラに見える速さで蹴りを入れるが、それにギリギリ反応したヤシラは腕で受け止め、そのまま後方へと飛んだ。
「ほう、丈夫な体だな。こいつはいい。丈夫な体、それに面も悪くない。バラすのはやめだな」
「!?」
瞬間、擲槍はヤシラの心臓を槍で貫いた。
「お前とこれ以上、戦う意味はない。小僧の中で見ていたからな」
「・・・・」
「なんだもう逝ったのか。本当につまらんな。まぁだが安心しろ。お前の体は腐ることなく永遠にここに残り続ける」
ヤシラの魂は消えた。そして現実世界、槍士は突如消えたヤシラに困惑していた。
「何が起こったんだ?おい!擲槍!何したんだ!」
「ふん、秘密だ小僧。奴は始末してやった、だから俺は少し寝る。まぁせいぜい死ぬなよ・・」
「おい!」
(・・・・)
「マジで寝やがったな、本当に勝手な奴だ。まぁ、勝てたのはいいが、なんかすっきりしねぇな」
「せんぱーい。こっちは終わりましたよ」
槍士がモヤモヤしていると、真宵が走ってやってきた。
「おう、真宵か。あぁ、こっちも終わったよ。残念だが、全然何も聞き出せなかったぜ。っで、そっちは?」
「あー、それが・・・」
真宵は神妙な顔つきで槍士に、何が起こったのか端的に話した。
(さぁカラク、はいてもらおうか)
(ふん、お前なんかに誰が・・)
グサッ!
会話の途中、何処からともなく一本の針が飛んできて、カラクの首へと突き刺さる。
(なっ!?)
真宵はカラクに近づいて体を揺するが、すでに反応がなかった。真宵は辺りを警戒して針が飛んできた方向を見るがそこには誰もいなかった。
(くそっ!いったい誰が・・・いや、こんなやり方、夜月の者しか考えられない)
真宵の話はそこで終わり、二人は複雑な心境になっていた。
「なるほどな。そんな事が・・・夜月に未凪・・なんかきな臭くなってきたな」
「そうですね・・・いったんみんなと合流しましょう。ここから一番近いのは、神無さんとミツギさんですね。二人と合流して先生のところへ合流しましょう」




