責任
「壊すって・・・まぁ、いいでしょう。お手伝いましょうか?」
「いえ、大丈夫です。これは、うちが頼まれましたから」
涼香はメイの僅かな変化に気づいていた。真剣な眼差しで、どこか迷いが少しあるような焦りを。
「メイ、あなた迷ってますわね」
「・・・・・」
メイは涼香の言葉には答えなかった。正確には答えることができなかったのだ。今ここでそれを口にしてしまったら決心が鈍るからだ。恐怖とは違う、見えない感情。今メイの中にあるものはそういう感情。そんなメイを見て涼香は言葉を紡ぐ。
「安心しなさい。一緒に背負いますから」
「涼香さん・・・」
メイはその言葉に一瞬、涙しそうになる。それは何故だかわからなかったが、涼香のその言葉はメイにとって今、最も欲しい言葉だったからなのか。その言葉を聞いたメイの決意は強固なものとなった。
「よし・・・やります」
気を取り直して、メイは全身に電流を発電させる。トゲがあるようで少し荒く、洗練された電撃。目を閉じて、集中する。己に流れる電流の嵐を操り、一点に集中させるために。傍にいた涼香はその様子を静かに見守る。
(なるほど。中々面白い子ですわね・・・しばらく一緒にいたけれど、たしかに糸音の言う通りでしたわね。バカだけど、こと戦闘においては前向きで真剣。尚且つ、失敗や、成功を糧にして己の技術、持ち味に消化する・・・私好みの戦闘マニアですわね)
しばらく自身に流れる電流と対話していたメイは静かに目を開けた。全身に流れていた電流を今はそのたった一つの拳に集中していた。
(優しく、放つ時は一瞬!!)
メイは球体へとその雷撃がのった、洗練された拳を叩き込む。
ドーーンッッッッッッ!!!!!!!!
それはまるで雷神の一撃。音速を超えた光だった。その時、メイの心にルナの声が響いた。
(◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯)
ニ
(粘るねー、もう鬱陶しいくらいに。いい加減諦めて、その手を離しなよ)
「ルナ!!私はここにいるから!!目を覚ませ!!お前は私の大切な・・」
バキッ
その時妙な音が聞こえた。そしてその異変はすぐにやってくる。
(え?うそでしょ・・)
バキバキバキバキバキバキ!!!!!!
真っ白な空間が瓦解していき、消失する。その時、今まで喋らなかったルナの目が光を取り戻し声を上げる。
「ありがとう、お姉ちゃん」
「ルナ?」
そしてルミの意識は途切れて世界が変わる。ルミの意識は次第にハッキリとしていく。しばらく真っ暗な世界が続いた。しばらくして僅かな光が漏れてくる。
「ここは・・ルナは・・」
「おう!やっと・・気づい・・たか」
メイはルナが意識を取り戻した途端に、まるで電源が切れたように倒れた。傍にいた涼香が支えるようにそっと抱く。
「なるほど・・己の中にある異能を使い果たしたら、こうなってしまう。そういえばそんなことも糸音が言ってましたね・・・お疲れ様、メイ。あとは私が見届けます」
ルミはしばらく呆然としていたが次第に意識がはっきりとする。
「ルナ!どこだ!」
「ここだよ、お姉ちゃん。今までありがとうねルミお姉ちゃん」
辺りには球体は無くなっていて、ルナは少し離れた玉座の間にいた。
「何を言ってるんだルナ?助かったんだろ?帰ろう、なっ、ルナ」
ルナは涙ぐみながら首を振る。溢れそうになる雫をまるで、落とすまいと天を仰いだ。
「まだ、終わって、ないよ。私が世界を救わなくちゃ。だって私が始めたから、私が終わらせないとね。ルミお姉ちゃんよく言ってたよね、私が小さい時におもちゃで遊んでいたら、自分で出したものは責任を持って後片付けするまでが自分の仕事だって、だから・・・私がやらなきゃ」
ルナは抑え切れなかった涙を流しながら笑顔で懐からナイフを取り出した。そして、そのまま自身の心臓に突き刺した。
「ルナッ!!!!」
ルミは、膝をつき倒れそうなルナの元へと駆け寄り、その体を抱き抱える。
「なんで・・こんな」
「あぁ・・痛いな・・怖いな・・苦しいな・・寂しいな・・でも、私は・・・」
(あーあ、最悪だ・・惜しかったんだけどな、まぁいいか、次があるといいんだけど・・・)
ルミはどこからとも無く聞こえるその耳障りな声を無視した。その声の主の存在が消えるのと同時にルナは、ぐだっとなり意識を無くした。ルミは次第に冷たくなるルナの亡骸を抱えて肩を震わせる。ガラスの城は煙のように消え、気づいたら神薙の館の大広間になっていた。
「異能を止めるには、やはりこの方法しかありませんでした。ルナさんはご自身で選んだんでしょう、形はどうあれ彼女は彼女の意思で行動したんです。その勇気に敬意を評するすべきです」
「・・・・・」
ルミは涼香の言葉には答えず、ルナを抱きしめ続けて静かに泣いていた。
「ルミさん・・・今は酷ですが、私たちと来てください。約束は果たせませんでしたが、せめてルナさんを弔わせてください」
涼香がルミに近づこうと踏み出すと、唐突にルミ達を庇うように謎の黒い塊が現れる。そしてその中から低く、涼香にとっては懐かしい声が聞こえてくる。
「・・・悲劇。やはり、こういうことは望まなかったんだ」
「!?」
涼香は知っていた。その声は紛れもない、夢でもなく幻でもない本物の彼女を。真祖の吸血鬼、夜月六花が何処からともなく現れた。
「その雰囲気、間違いなく本物の六花さんですね・・・お久しぶりですね六花さん。今まで何を?」
「久しぶりだな涼香」




