神薙夜戦(五)
「片手が使えんだけや、問題ない」
「そうか。だが手負いに変わりはない」
ルミはゆっくりと歩きはじめ、メイは警戒をし構える。メイへと向かう足を止めないまま、ルミは懐から黒いなにかを取り出して手に嵌める。メイにとって、それは馴染みのある物だった。
「へぇ、ハーフフィンガーグローブか。わかってるやん、面白くなってきたな」
「あぁ、これも付喪神だ。よろこべ、お前の好きな近接格闘技で戦ってやる」
瞬間、ルミは駆け出し、一飛びでメイの元へ。そのまま振り上げた拳に続き、一の手、二の手と、打撃の雨が次から次へとメイへとヒットする。その打撃は鋭く、まるで剣撃のよう。メイは器用にも片手で受け身を取りながら、それらを躱し続ける。
「どうだ、殺し屋の打撃は!このグローブはな、ある殺し屋の愛用していたものらしい。そいつは己の拳一つで殺しを行ったと言われている。この鋭い、斬撃にも衰える事のない瞬発の打撃。そして、奴の手刀は刃物よりも斬れると評判だったんだと。そんな奴のグローブに私の力を与えて、この世に顕現させた。言い忘れていたが、私の能力は何もモノを使役するだけではない。命を吹き込み、その物に宿る記憶を再生させることで、その所有者が身に着ける、または扱うとオートで動くようになるんだ。だから、格闘が苦手な私もこの通り・・」
ルミの動きはより速く、読めぬものへとなる。いくつかの打撃が繰り出される最中、その握る拳は手刀へと変わりメイの腹を裂く。
「っく!・・・やるなー!たしかに、斬れ味抜群やな・・・おっとと」
メイは若干の眩暈を感じ、足元がふらつく。
(まずったな・・・血が足りんわ)
「終わりだな。お得意の電撃も、その傷ではもう使えないだろ。詰みだ、さっさと殺してかえ・・・」
その時ルミは謎の寒気を感じた。どうということはないのが、ただの寒気ではないようなそんな気を感じる。
「・・なるほどな。だから言うたやろ、死ぬわけないて・・」
「来るのが遅れてしまいましたが、なんとか間に合いましたわね」
ルミは声のする方を振り返る。ルナの座る玉座の横に着物の女、そこには涼香が立っていた。
「なんで氷のお姉さんがここに!?」
「ルナ!」
「おっと、動かないでください。武器、というのでしょうか。抵抗はやめて、大人しく私たちと来なさい。あなたの返答次第で、妹さんを氷の檻に一生閉じ込めることになりますよ。・・・私たちは何も、あなたたちを殺しにきた訳じゃないのですよ。場合によってはそうなるかもですが。私たちが今欲しいのは、あなた方の持っている情報。それさえ教えていただけるのでしたら、悪いようにはしませんよ」
「貴様!・・卑劣な殺し屋共が!信用できないね。殺し屋は大嫌いだからな」
「そうですか・・では」
反抗的な態度に対し、涼香は冷たい態度で接すると、ルナの肩へとそっと触れる。そこから少しずつ氷が張っていく。
「冷たっ!」
「ルナ!・・わかった!やめろ!教えてやるから・・妹にだけは・・」
「ダメだよ、お姉ちゃん!殺し屋の言うことなんか信用できない!私たち両方殺される!お姉ちゃんだけでも!」
「さっきから何やら私が悪者の様な言い草ですね」
「実際、悪者だろうが・・」
「否定はしませんわ。たしかに殺しは悪ですが、それを抑制するのもまた悪ですわ。私たち夕凪家は、どれだけ悪者と言われようが、一般市民を悪から守るためにその悪名を被る。それが夕凪家の務めですから」
「世界を滅ぼす元凶が、なにを言って・・・」
「意味がわかりませんわね。とりあえず、話はあと、私たちと来なさい。メイ、動けるならその子をお願いします。まぁ、そこで呑気に寝ているシャオさんはほっといて、とりあえず遊さんたちと合流しましょうか」
「了解やで!」
「ルミ姉さん・・・」
(ルナのせいでお姉ちゃんに迷惑がかかっている。自分がお姉ちゃんの言う事聞いていれば。自分がふざけたせいで、遊んだせいで、弱いせいで、人質になったせいで、また殺し屋の悪い人にまた、また、悪い事や痛いことされるんだ。ルナが、ルナが、ルナがやってしまった。失敗した。また、また、また、また、また奪われる。ルナのせいだ、ルナのせいだ、ルナのせいだ、ルナのせいだ、ルナのせいだ、ルナのせいだ、ルナのせいだ、ルナのせいだ、ルナのせいだ、ルナのせいだ、ルナのせいだ、ルナのせいだ、ルナのせいだ、ルナのせいだ、ルナのせいだ、ルナのせいだ、ルナのせいだ、ルナのせいだ、ルナのせいだ、ルナのせいだ、)
・・・夢になっちゃえばいいのに・・・
「!?」
涼香は座るルナから何かを感じとり後退する。すると異変はすぐに起きた。ルナの周りから白い靄が広がっていき、やがて何もない真っ白な空間が広がる。
「これは、まさか!?」
「なんや、これは!?なんもなくなったで!・・いや、涼香さんあそこっ!」
メイが指した方向、さっきまで扉のあった入り口には見覚えのある庭があった。
「まさかとは思いましたが・・しかし、なぜ開花したばかりの異能力者が使えるのですか・・」
「涼香さん!ここから早く抜け出した方がええんちゃうかなっ!少なくとも、あそこが出口っぽいんやけど、どんどん離れていってる気がするんやけど」
「メイ、推察自体は正しいですわ。あれは本邸の外にあった庭ですから。ですが、ここから出られたとしてもこの進行を止めない限り、この街、あわよくば世界が飲まれますわよ」
「なんやてっ!?」
「おい!殺し屋、これはどういうことなんだ!ルナは、ルナはどこへ行ったんだ!」
ルミは取り乱しながら、声を荒げて涼香に問いかける。
「落ち着きなさい。ルナさんはおそらくこの空間のどこかにいます。これは創生術。私が見つけた異能力の最終到達地点。それは世界、空間、次元を自らの力で生み出すことのできる力。この能力は異能力者全員が使えるものではありません。能力によっては、どうやっても到達できない場合もありますの。シャオやメイの異能では、おそらくこれは使えないでしょう。これは制御がかなり難しいのですわ。半端な力量、精神状態でこれを使うと最悪、世界が滅びますよ。そして、今のこの状態、明らかに力の暴走。だから、あの子は今、私たちにとって、世界にとってかなり危険です。殺してでも止める必要があります」
「ふざけるなっ!!・・殺すなんて、できるかっ!ほかに方法はないのか?」
「なくも、ないですが・・まぁ、見たところ創生の進行は遅いですし。この力の根本は、精神状態によるものです。ですから、彼女を見つけることができればあるいは・・・しかし、与えられた異能力で、しかも短期間で到達できる領域ではないはずのですが・・・」
「ルナは・・・・ルナの力は与えられたものじゃない」




