神薙夜戦(四)
「うっ・・・ここは・・」
メイは目を覚まし、辺りの様子を伺う。そこは、先ほどいた屋敷の入り口である大広間ではなく、皇室とよばれる開けた場所だった。奥には玉座があって、そこには小さい少女が一人眠っていた。
「なんや・・・戻れたんか?」
両横を見る。傍には濡れた床と女性が一人眠っていた。
「あっ!母さん!」
メイは眠っていた女性、シャオの元へと駆け寄る。
「なんや、寝てるんか?おーい・・おーい」
スー、スー、スー
静かに寝息を立てているシャオを揺さぶり起こそうとするが反応がなかった。
「すごい・・ね・・お姉さん」
玉座に座っていたルナが目を覚ます。その様子は、少しだけやつれているように見えた。
「せやろ、うちの勝ちや。それで、母さんは寝てるだけなんか?」
「そうだね・・ルナもこんなこと、初めてだからわかんないけど。寝てるだけ、じゃないかな・・・そのうち目を覚ますかもね」
「そうか・・・涼香さんは?」
「あー、あの氷のお姉さんは死んだよ」
「は?」
「死んだんだよ。でも、誤解しないでね。ルナは直接殺してないし、だって自分で死んだんだから。ほら、そこの床濡れてるからそれじゃないかな」
「そんなわけないやろが!そんな簡単に、あの人が死ぬかいな!」
「知らないよ、そんなこと。・・それで、どうするのここから」
メイは立ち上がり、ゆっくりとルナのいる玉座へと歩く。ルナは動くことも、逃げることもせず鎮座していた。
「まぁ、ぶっ飛ばさんけど。気絶くらいさせてから連れて行くわ。すまんが、これで本当におねんねや」
ルナの目の前へとやってきたメイは、その肩へと触れようと少しだけ電気の帯びた手を伸ばす。
「妹には手を出すな」
触れる寸前、ルナの座っている玉座の後ろ、柱の影の中からルナに似た女が現れる。
「!?」
メイはその女の威容な雰囲気に警戒心をあらわにし、後ろへと飛び後退する。
「なんや・・なにもんや?」
「ルミ姉さん、ありがとう!」
ルナは傍に寄って来たその女へと笑顔で抱きつく。そんな女は少しだけ表情和らげに微笑むが、すぐに鋭い視線をメイへと向ける。
「よくも妹を虐めてくれたな・・」
「はぁ?言いがかりやで。そっちが先に手を出してきたんやし、それに戦いに虐めもくそもないやろ。それで、あんたも敵か?」
「ふん、見ての通りだ。まぁとりあえず、名前くらい名乗ってやるよ。私はこの子の姉のルミだ」
「姉妹ね・・うちは雷々メイ!それでどないするんや?」
「もちろんお前を殺す、それからそこの女もな。・・・ルナ、私が言った通り、こいつらが眠ったところで私が殺せば、もっと早く片付いたんだ」
「えー、だって遊びたかったんだもん!色んな人と・・」
ルナは少し泣きそうになっていた。ルミはそんなルナをやさしく撫でた。
「まぁ、後のことは任せなさい。憲兵たちが起きてくる前に片付ける。もっとも、敵が増えたところで全員殺せば問題ないんだけどな」
「へー、えらく自身満々やな。・・まぁええわ。とりあえず、二人とも捕えてそれで終いや」
「ふん、ならやってみろ・・・ルナ、少しだけ大人しく座って待ってるんだよ」
「うん!頑張ってルミお姉ちゃん」
「優しいお姉ちゃんやな・・」
(・・・もしかしたら、二人同時かと思たけど。まぁ、一対一なら好都合やな。それにしてもこいつ、何か不気味やな・・)
「さぁ、さっさと終わらせよう。そっちからどうぞ」
「ほな、遠慮なく!」
メイは駆け出した。拳を振り上げ大振りでルミへと襲いかかる。
「バカ正直に真っすぐ大振り、隙だらけだ」
ルミは拳をひらりと躱し、カウンターの拳をメイの胴体へと叩きつける、が当たる寸前で片方の手でメイはそれを受け止める。
「はっはーん!引っかかったな!」
メイは手に電流を流す。
バチッバチッバチッ!!!
「くっ!・・」
凄まじい電流がルミの体を駆け巡る。それにたまらずメイを蹴り飛ばした。メイは空いた手でそれをガードしたが、その一撃は重く、後方へと飛ばされる。
(なんや!?・・この力!・・)
「中々、痺れる・・・まぁでも問題ない。気を付けていこう」
「強がるなや・・」
「ふんっ。私は元々、格闘技は得意じゃ無いんだ。だから、さっさとこれで終わらせて帰る」
そう言うとルミは懐から小さなクマの人形を取り出して、メイへと掘り投げる。
「なんや?爆弾か?こんなもん、避けるだけやで!」
メイは向かってくる人形を避けようと後ろへと下がった。だが、人形は落下の直前、メイの方を向き、飛んできた。
「な!?」
「単純でよかった・・」
人形が目前に迫り、メイに拳を打ってきた。油断したメイはガードが間に合わず、顎に強烈な一撃もらったがなんとか耐える。そのクマの人形は宙に浮いたままメイを見ていた。
「バカだがタフネスだな。」
(どういうことや!?・・・パンチ力ありすぎやろ?てか、硬すぎや)
「驚くか。そりゃそうだ。それはな、五十年使われたクマの人形らしい。拳が硬いのは怨念の重さだよ。私の異能は、人が使った物に魂をふきこみ使い魔にできる能力、付喪荒玉。そしてこの子達もそう」
ルミの周りにはいつのまにか様々な人形が居た。その全てが目を光らせメイを睨みつける。
「ええー怖っ。聞いたことあるな。たしか、神様にそんなのがいたような?」
「以外と物知りだな。そうだな、この子達はいわば付喪神だね。人に使われ、無惨にも捨てられた怨念でこの子達は動く。そんな神様をありがたく使わせていただいている。さぁ、行きな」
ルミの声で人形たちは一斉にメイへと襲いかかる。
「おっと、まじか!」
メイは凄まじい形相で向かってくる人形たちから逃げまわる。そして向かってくる攻撃を器用にも躱しながら、近づいてきた人形を電流が流れる拳で無力化する。
「わあー!鬼ごっこだ!」
ルナは足をバタバタさせて嬉しそうに笑う。
「へー、器用なやつだな」
「ふぅー、これで全部かな」
メイは最後の一匹を無力化すると一息つく。人形はメイの拳打によってそのすべてが粉砕された。
「もう終わりなんか?」
「まさか」
ルミは懐から銃を取り出すと再び宙に投げた。
「今度は銃か」
放り投げられた銃は空中で静止した。そして、引き金が一人でに引かれ弾丸を放った。
ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!
メイは弾道を予測し躱した。駆け出し、静止した銃へと近づき手に取る。そのままルミへと銃口を向けて引き金を引く。
ドンッ!!
「ッッ!!」
引き金を引いた瞬間、弾丸は放たれず銃が暴発する。メイの手は血にまみれて使い物にならなくなる。
「撃ったのは間違いだな。私の異能で付喪神となった物で私を攻撃はできない。もし、私に牙を向いたら自爆するようになっている」
「やってもうたな。へへへ・・・」
「お前に傷を負わせたのは良かったが、今ので手持ちがなくなった。まぁ、お前は手負いだし、その出血だと長くは持たないだろうから、そろそろ私自身が相手してやるよ。めんどくさいけどな」




