神薙夜戦(三)
「あー、またやってしもうたな・・・これ完全に、迷子やな」
メイは涼香と逸れて一人、長い廊下の途中で立ち止まっていた。
「どうしよかな・・・まぁでも先に進んで、母さんか涼香さんを見つければええか!」
メイは再び歩きだす。しんとした長い廊下、等間隔に灯っている灯篭の火が少し揺れた。
「・・・・・よっ、よし!だっ、誰もおらんし、走ろっかなー」
メイは廊下の雰囲気に少し怯える。その時、廊下の先の両端が薄く光った。
「へー、なっ、なるほどなー!うちを驚かそうとしとるんかなー、怪しいなー!・・・んん?」
メイは、僅かに光る廊下の先を凝視する。よく見ると、灯篭と灯篭の間に扉が一つあった。
「・・・そういえば、誰か言うてたなー・・・お化けって、こっちから驚かすと逃げていくってー・・・・・・・・・よしっ!」
メイは少しだけ戸惑ったが、次の瞬間、駆け出す。そして、猛スピードで扉までやってくると、その勢いのまま扉を蹴り壊して中へと入る。
ドンッッッ!!!!
「あはは、ははは!最初から壊すなんてすごくバカな人だね!いや、たしかこういうのって破天荒、っていうんだっけ。でも、それが正解」
部屋の中、壁際の灯篭が灯り、部屋の奥、メイと対峙する形で一人の少女が椅子に座っていた。
「だーれが、バカや!そっ、そんなんより、あんたはお化けか・・?」
恐る恐る聞いてくるメイを見て、少女は笑う。
「ふっふ、ざーんねん。お化けじゃないよ、私はルナ!お姉さんは引っ掛からなかったね。一番引っかかりやすそうなのに」
「へー、ならええわ!お化けはな、苦手じゃないんやけど、嫌いや!」
「見栄っ張りで面白いね!お姉さんとは楽しく遊べそう」
「見栄っ張りちゃうわ!・・・まぁええわ。それでなんで子供が一人でこんなとこおるねん?」
「端的にいうとねー。ルナはお姉さんたちの敵だよ」
「そうか・・・まぁ、子供やし、手加減したるわ。子供は大人しく、おねんねしときいや!」
次の瞬間、メイは距離をつめ、ルナの体へと拳で急所を狙う。だがしかし、体に触れる寸前でルナの体は霧へと変わる。
「なんだ!?」
「はーい、ざんねーん!」
霧へと変わったルナは空中をふわふわと浮いていた。
「異能か・・」
「そう。ここではルナに対する攻撃は、ぜーんぶ無意味。だってここは、夢の世界なんだから」
「夢やと?・・いつからや!いつから夢の中やったっていうんや!」
「そうだねー。お姉さんたちがこの建物に入って来たところからかな。言っとくけど、どれだけ攻撃しても一生ルナには届かないよ。だって、本物のルナは夢の外だもん。誰かが外でルナを殺さない限り、ここからは抜け出せないよ。さぁどうするの、お姉さん?」
「なるほどな。まんまと罠に嵌ったっちゅうわけやな。・・・夢ねぇ・・ところで、この夢の世界ってどこまでも続いてるんか?」
「うーん、わからない。なんで?」
「そうか・・・」
「?」
メイはルナの問いには答えず静かに目を閉じた。数秒の静寂ののち、メイの体は白い光を帯び、やがてそれは稲妻となる。
「えーー!!なにそれ!?すごいね、お姉さん!でも、それでどうするの?」
「こう、するんや!」
次の瞬間、メイは後ろを振り向き、目にも止まらぬ速さでその場を去った。それはまるで稲妻のような閃光。
「うそ・・・何して・・ん?」
ドンッッ!!
突如、ルナは遠くの方で妙な音を聞く。それはまるで雷が落ちたような、凄まじい響きだった。
「何の音?・・入口の方から・・」
ルナは音がした、屋敷の入り口へと向かう。しばらく、ぷかぷかと浮きながら屋敷の入り口へとやってくると、音の正体を知る。
ドンッッ!
「まだ、あかんか・・」
そこではメイが屋敷の入り口の扉を拳で殴ってた。正確にはその前にある何かを。
「何してるの?」
「うん?あー、これか?見ての通り扉を壊してるんやけど、なんか扉の前に透明な壁みたいなものがあるねんなー。多分やけど、ここが夢と現実のラインみたいなもんなんかな」
「え?・・はっは、無理だよ。ルナも、今見て理解したよ。やっぱり、ここからは出れないようになっているんだね。いくら殴っても意味ないよー。だって傷一つないもんねー」
「今はな・・・なら、ここが夢の果てっちゅうやつかな。まぁ、それがほんまやったら、ここをぶっ壊せば出れるんとちゃうか?」
「ふーん、わかんない。やってみればー?無駄だろうけどねー」
「ほな、遠慮なく!」
ドンッッ!!ドンッッ!!ドンッッ!!
メイは無言で扉を殴り続ける。そんな様子をメイの傍で空中を浮きながら、ルナはつまらなさそうにその様子を眺める。
「無駄なことなのに・・ねぇー、そんな無駄なことよりさぁ、ルナと遊ぼうよー」
ドンッッ!!ドンッッ!!ドンッッ!!
ドンッッ!!ドンッッ!!ドンッッ!!
ドンッッ!!ドンッッ!!ドンッッ!!
ドンッッ!!ドンッッ!!ドンッッ!!
ドンッッ!!ドンッッ!!ドンッッ!!
ドンッッ!!ドンッッ!!ドンッッ!!
メイはルナを無視して見えぬ壁を殴り続ける。少しづつそのスピードを上げ、それは次第に凄まじいほどの速さで繰り出され、その拳には稲妻が走り出す。
ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッド
ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッド
「よっしゃー!温まってきたでー!」
「・・・うわ、ビリビリだ。すごいね・・」
ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッド
ピキッッ!
殴り続ける扉の前、見えない壁に小さなひびが入り、メイは一瞬だけ手を止める。ルナは僅かなひびを見て驚きの声を上げた。
「うそでしょ・・・」
「よっしゃー!」
ドンッッ!ピキッ!ドンッッ!ピキッ!ドンッッ!ピキッ!
ドンッッ!ピキッ!ドンッッ!ピキッ!ドンッッ!ピキッ!
「これで、終わり、かな!!」
ドンッッ!!!パリンッッ!!
最後に重い一撃を放ち、扉の前にある透明な壁が砕け散る音と共に、メイの意識はそこで途切れた。




