The gears of fate turn(一)
一
昼頃、糸音は同時に起きてきた紅羽と廊下で鉢合う。
「おはよう、紅羽」
「あぁ、おはよう」
「なんだ?起床早々に不服そうな顔して、椿が心配か?」
「そりゃあな。だけどあの強さなら納得するしかない。俺は負けた」
「そうだろ。椿は強い。心配しなくても一人でなんとかするさ。それにジータもいるんだ」
「強い・・そうだな。だがそれだけだ・・・なぁ、お前が教えたのかあれ」
「いいや。私は何もしていない。どうやら独自で考えた技らしい。私も一度やられたことはあるが。あれは強烈だったな。その時はギリギリ受けとめれた」
「ギリギリかよ。はぁ、将来とんでもないことになりそうだな」
「楽しみだな」
「楽しみねー。不安と期待で胸いっぱいだぜ」
紅羽はため息をつき、肩を落としてリビングへと赴く。リビングではミナモが昼食を並べていた。
「やっと起きましたか、二人とも」
「ミナモさん、もしかして起こしにきてくれた?」
「そうですよ。行ったのですが、全然起きませんでしたから諦めました」
「はっは。すまねぇ。まぁ、食べようか」
食事中は特にそれ以降何も話さなかった。糸音は二人より早く食べ終わり、外へとでかける。
「久しぶりに一人だな」
糸音はここ最近、椿と常に一緒だったから、本当に久しぶりなのである。
「おい!糸音!」
歩き出した糸音を今し方、家から出てきた紅羽が呼び止める。
「なんだ、何か用か?」
「まぁ、そう邪険にするなって。暇なら付き合えよ」
「まぁ、いいけど」
糸音は紅羽に連れられて治安維持局の裏にある、大きな山へと連れてこられた。
「そういえば、前にここを登った時はこんなに綺麗な道ではなかったな」
「俺が整備を頼んだんだ。歩きやすくなっただろ」
「たしかに」
見ると登山道の脇には手すりや街頭があった。地面も塗装され歩きやすい道になっていた。
「あれから三年、年々月日が経つのが早く感じるな」
「歳だな」
「おいおい。俺とそんなに変わらないだろ」
「はっは、違いない」
「椿もいつの間にかでかくなっちまって、もう一人で何でもやれる。それにしてもお前も大きくなったな」
「なんだ?セクハラか、この変態め」
「違ぇよ・・・なぁ、もう誰も殺してねぇのか?」
「そういえば最近誰も殺してないな。というか実戦で誰かと戦ってないな」
「じゃあ、もう殺し屋は引退か?」
「必然的そうなるね。まぁ今の生活も悪くないしね」
「そうか。おっと、着いたな。ここも前より整備されていて、ちゃんとした展望台になってるな」
二人は頂上へと辿り着くと眼下を見渡せる近くのベンチへと座った。
「へえ、悪くないじゃん」
「いいだろ。これで誰でも気軽にここへ来れる。観光地になるかもな」
「それが狙いか」
「まぁな、それもあるが、安全に椿にも見て欲しいからかな」
「ふん、シスコンが」
「はっは、そろそろここに連れてこようと思うんだ椿をな」
「なんだ、まだ連れて来ていないのか?」
「あぁ、ここの整備が完了するまで待ってたんだ。それに俺も忙しくてな。あいつが帰ってきたら合格祝いでもしようぜ。そしてこの景色を見ながら皆んなで酒でも呑めたら最高だな。俺の夢でもあったし」
「合格するのは確定かよ。それに私たちはまだ未成年だ」
「何だよ今さら硬いこと言いやがって。お前昔、詩織と二人でルクスリアの目を盗んで、酒盛りしてたじゃねーか」
「はっは。あったなそんなこと」
「ふっふ・・・合格は当たり前、なんせ俺の妹だからな」
「シスコンか。ふん、まぁ付き合ってやるよ」
「あんがと・・なぁ、もし俺になにかあったら椿を頼めるか?」
「なんだよいきなり。縁起でもない。お前が死ぬことなんてないだろ?」
「はっは。俺は人間だぜ。そりゃあ寿命がくりゃ死ぬさ。寿命がね・・」
「?・・まぁ、わかった」
「すまねぇな」
その後二人はしばらく話した後、山を降りた。盃を交わす約束を胸に山を後にしたがその数日後、椿とジータが約束の日に帰ってくることはなかった。




