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2.最悪の転機

2021/6/26 更新いたしました。


「すまない、ミュリエッタ。婚約を解消させてくれないか」


 後頭部を鈍器で殴られたような衝撃、とはよく言ったもので、今私が受けた衝撃は、まさにそれだった。


「…正気なの?」


 私はテーブルの向かいに座った婚約者、カイン・ダーヴェンに目を向ける。パルサス侯爵家の長男で、気が少し弱いが心優しく誠実な子息…なはずだった。少なくとも、6歳の時に政略でも親の都合でもなく、お互いを愛し合って将来を誓った婚約者に、結婚まで2年を切った今、婚約解消を申し入れるような、そんな不誠実な男ではなかったはずなのだ。それなのに…


「…すまない」

「謝るだけじゃ何もわからないわ。私達の婚約が、ただの婚約でないことは貴方も知っているでしょう?」

「………」

「今度はだんまりってわけね。…一度お父様と相談します。もう帰ってちょうだい」


 

 私達がこうなってしまったのには理由がある。でも、だからと言って納得はできない。

 まだ何か言いたそうなカインを強引に応接室から追い出した私は、ソファに座ったまま頭を抱えた。何度だっていうが、結婚まで2年を切っている。それも、私たちの婚約はここ2、3年で結んだものではなく10年も前から(ミュリエッタ)とカインは婚約しているのだ。いくら婚約『解消』申し入れであったとしても、周りが勘繰らないはずがない。それなのに、それなのに…



「だから、人間なんてやめなっていったのにぃ」

「…クロード、空気を読め」


 頭の上から降ってきた声に顔を上げると、いつの間にか部屋に入ってきていた双子の義兄のアンレリウスとクローディウスが心配そうに私を見下ろしていた。


「大丈夫か?ミュリー」

「アンリお兄様…!」

「あんなポンコツ坊ちゃん、こっちから捨てちゃえばよかったのに」

「…クロードお兄様」


 心から私を心配してくれているアンリお兄様に思わず泣きそうになったが、心配というよりも呆れているような態度を取るクロードお兄様のせいで涙も感動もすっこんでいった。


「だぁってぇ。僕さんざん前世(まえ)にも言ったじゃない、人間にこんなに永くて重い約束は守れないよって」

「あぁ、カインとミュリーは前世から結婚を誓った…んだったか?だとしても、あれじゃあ、なぁ」


 前世…。そう、私たちには、前世の記憶がある。厳密には、(ガーネット)クロードお兄様(サファイア)、そして、婚約者のカインだけだが。アンリお兄様は、双子の弟であるクロードお兄様から幼い頃より包み隠さず話を聞かされ続けていたので、事情は知ってくれているし、それを疑うこともなかった。


「で、どぉすんの?カインが婚約解消したい理由って、あの胸焼けしそうな女でしょ?」

「そうでしょうね…あんな子供みたいな女、何がいいのかしら」

「子供みたい、ねぇ…ミュリーから比べたら、大抵の令嬢は子供みたいなんじゃない?ね、アンリ」

「…同意するが、下品だぞ、クロード」


 お兄様方が私の方を見た後、アンリお兄様は少し顔を赤くしてから慌てたように顔を背け、クロードお兄様はじーっと無遠慮に私の胸元を凝視した。こう言っては何だが、私のスタイルは、おおよそ一般的な16歳の令嬢のものではなく、胸は人よりもずっと重量感があり豊かで、ウェストはコルセットをしなくたって美しくくびれているし、お尻だってしっかりとふっくらある。要は、扇情的なスタイルなのである。


「我ながらスタイルは抜群だと思うけれど、見過ぎよクロードお兄様。貴方は昔から無遠慮なんだから…」






「まぁ、何はともあれ、このまま身を引くわけにはいかないわ。この()()はそんなに簡単なものではないし、何より、このミュリエッタ・パッフェルが黙ってやられるだけなんてありえないもの」

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