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夜中に、誰かが鳴いている  作者: 宍戸 耀


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第7話 今夜も

俺が階段を降りていくと、三人はダイニングで話していた。


圭一と母親。


それから、仕事から帰ってきた父親だ。


俺は少し離れたところで足を止めた。


どうやら、圭一が何かを話しているらしい。


「だから、本当なんだって」


圭一の声が聞こえる。


「昨日からずっと変なんだよ。この家」


「変って、何がだ?」


父親が聞き返した。


「昨日の夜、変なベルみたいな音したでしょう?」


「ああ。父さんも聞いたよ」


「それ、さっき俺の部屋でも鳴ったんだよ」


父親の表情が少し変わった。


「部屋でも?」


「うん。それで今日は階段で……」


圭一は今日あったことを順番に話し始めた。


学校から帰ってきた時、誰もいない家の中で音がしたこと。


階段を上がると、後ろからカタン、カタンと何かがついてくるような音がしたこと。


部屋へ逃げ込んで、しばらくスマホを見ていたら、また昨日と同じような変な音が突然鳴ったこと。


俺はその話を聞きながら、少し首を傾げた。


俺が今日見回った時には、何もなかった。


家中かなり念入りに確認したつもりだったんだけどな。


「お母さんは、その音を聞いたのか?」


父親が尋ねる。


母親は首を横に振った。


「私が帰ってきてからは、何も。圭一がそう言ってるだけなの」


「じゃあ、やっぱり気のせいなんじゃないか?」


「そうよねえ……」


両親にそう言われて、圭一の顔が歪んだ。


「違うって!」


いつもより大きな声だった。


「本当なんだよ! 俺の部屋、なんかいるんだって!」


圭一の目に、うっすら涙が浮かんでいる。


「勝手に変な音するし、階段でもずっと後ろから音がついてくるし……俺、本当に聞いたんだよ!」


父親は困ったように頭を掻いた。


「分かった、分かった」


「本当に?」


「ああ。ただな、今のところ圭一しか聞いてないんだろ?」


「……うん」


「だったら、今日はもう一度自分の部屋で寝てみろ」


圭一の顔が強張った。


「え……」


「もし今日も何か変なことが起きたら、その時はちゃんと調べる」


「今日もあそこで寝るの?」


明らかに嫌そうだった。


「何かあったら、すぐ呼べばいい。お父さんもお母さんもいるんだから」


「でも……」


「大丈夫だ」


父親が圭一の肩を軽く叩く。


「本当に今日も何かあったら、ちゃんと考えるから」


圭一はしばらく黙っていた。


やがて、小さく頷く。


「……分かった」


俺は三人のやり取りを聞きながら考えた。


やっぱり、この家には何かいるらしい。


今日一日見回ったのに、見つけられなかった。


それなのに圭一は、今日も何かあったと言っている。


「くそ……」


俺としたことが。


せっかく戻ってきたのに。


見回りまでしたのに。


結局、圭一を怖がらせているものを見つけることはできなかった。


これじゃ、まだ本当に役に立ったとは言えない。


でも、今夜また何か起こるかもしれないという。


だったら今度こそ。


「俺が見つけてやる」


圭一を怖がらせているもの。


この家で変な音を出しているもの。


今夜こそ、その正体を突き止めてやる。


三人はそのまま話を続けていた。


俺は少し離れたところで考える。


今夜また何か起こるなら、圭一の部屋の近くを見張った方がいい。


昨日も今日も、あの部屋の周りで妙なことが起きている。


だったら、部屋の入口あたりにいれば、何か来てもすぐ分かるはずだ。


「よし」


今夜はそうしよう。


圭一が二階へ戻ったら、俺もついていけばいい。


そう決めた時だった。


ダイニングから父親が出てきた。


「ん?」


父親はこちらへ歩いてくる。


俺はその場で父親を見ていた。


すると、父親がふと足を止めた。


どうやら俺を見つけたらしい。


「これ……なんだ?」


父親は不思議そうな顔をしながら俺を見る。


しばらく眺めたあと、少し首を傾げた。


「こんなの、あったか?」


忘れたのか?


俺はずっと前からこの家にいたんだけどな。


父親はもう一度俺を見る。


「圭一のか?」


そうか。


やっぱり圭一のものだとは分かっているらしい。


当然だ。


俺はまだちゃんと役に立てる。


今日だって、勉強を始める時間を教えてやった。


父親の手が伸びてきた。


「ん?」


次の瞬間。


身体がふわっと浮いた。


「うわっ」


突然持ち上げられた。


何をするんだ?


俺はこれから圭一の部屋の近くで見張るつもりだったんだけど。


父親は俺を持ったまま廊下を進む。


「お、おい」


どこへ連れていくつもりなんだ?


そのまま玄関までやってきた。


父親は下駄箱の上を見ると、そこへ俺を置いた。


「あんなところに置いてたら危ないだろ」


そう言いながら、俺の位置を少し直した。


下駄箱の奥。


簡単には落ちない場所だ。


「……危ない?」


俺は少し考えた。


そうか。


父親は、俺があんなところにいたら危ないと思ってくれたのか。


だからわざわざ持ち上げて、安全なところへ置いてくれた。


「なんだ」


ちゃんと大事にしてくれてるじゃないか。


少し心配して損した。


やっぱり、この家に帰ってきて正解だったんだ。


それに。


俺は改めて玄関を見渡した。


正面には家の外へ続く扉。


横には廊下。


少し向こうには階段も見える。


「……なるほど」


そういうことか。


俺は圭一の部屋の近くを見張るつもりだった。


でも父親は、もっといい場所を考えてくれたらしい。


ここなら、誰かが外から入ってきてもすぐ分かる。


家の中で何か起きても、すぐ動ける。


さっき圭一が、父親に今日のことを話していた。


だから父親も思ったんだろう。


俺に玄関を任せよう、と。


「見る目あるじゃないか」


さすが父親だ。


ちゃんと俺の役割を分かっている。


圭一の部屋だけを守るんじゃない。


ここから家全体を守れということなんだろう。


父親は俺を置くと、そのままダイニングの方へ戻っていった。


俺は一人、玄関に残った。


「よし」


今夜はここだ。


今日はずっとここで見張ろう。


この家に何か変なものがいるなら、絶対に見逃さない。


圭一をあれだけ怖がらせているんだ。


放っておくわけにはいかない。


俺は玄関を見渡した。


今のところ、何もおかしなものはない。


でも、夜はこれからだ。


「今夜こそ、見つけてやる」


今日の俺は、まだ十分に役に立てていない。


だったら。


今夜こそは、本当にみんなの役に立ってやる。

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