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『恋物語のあとしまつは、モブメイドの仕事です。』  作者: てぃな


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9/22

8

春宵舞踏会から数日。


王宮では、小規模なお茶会が開かれていた。


舞踏会ほど華やかではない。


けれど、色とりどりの花が飾られ、焼きたてのお菓子の甘い香りが廊下まで漂っている。


そして、お茶会が終われば——。


「リア。」


マーサが声をかけた。


「あとしまつを始めようか。」


「はい!」


私はほうきを持ち、大広間へ足を踏み入れた。


そこには、静かな時間だけが残っていた。


椅子は少しだけ動き。


ティーカップは下げられ。


床には花びらが数枚。


私は一つずつ確認しながら歩いていく。


その時だった。


「……あ。」


窓際に、白い布が落ちている。


しゃがんで拾い上げる。


それは、上質なレースのハンカチだった。


端には銀色の糸で、一輪の白百合が刺繍されている。


とても繊細な手仕事だった。


「落とし物かな。」


そこへルルがやって来る。


「何かあった?」


「ハンカチが落ちてたの。」


「ほんとだ!」


ルルは刺繍を見るなり、小さく目を丸くした。


「あれ……?」


「どうしたの?」


「この刺繍……見たことある。」


その時、後ろからマーサが歩いてきた。


「見せてごらん。」


マーサはハンカチを見つめ、少しだけ表情を和らげた。


「ヴァルディス公爵家の家紋を模した百合だね。」


「ヴァルディス公爵家……。」


私は聞き覚えがなかった。


ルルは慌てて私の耳元で囁く。


「ロゼッタ様のお家!」


「え?」


「ほら、あの……。」


さらに声を小さくする。


「悪役令嬢って噂の。」


私は瞬きをした。


「悪役……令嬢?」


その言葉が何を意味するのか、よく分からない。


「リア。」


マーサが静かに言う。


「噂話は後。」


「まずは仕事だよ。」


「はい。」


私はハンカチを丁寧にたたんだ。


「届けてまいります。」


「うん。」


マーサは優しく頷いた。


「落とし物は、持ち主へ返すまでがあとしまつだからね。」

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