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春宵舞踏会から数日。
王宮では、小規模なお茶会が開かれていた。
舞踏会ほど華やかではない。
けれど、色とりどりの花が飾られ、焼きたてのお菓子の甘い香りが廊下まで漂っている。
そして、お茶会が終われば——。
「リア。」
マーサが声をかけた。
「あとしまつを始めようか。」
「はい!」
私はほうきを持ち、大広間へ足を踏み入れた。
そこには、静かな時間だけが残っていた。
椅子は少しだけ動き。
ティーカップは下げられ。
床には花びらが数枚。
私は一つずつ確認しながら歩いていく。
その時だった。
「……あ。」
窓際に、白い布が落ちている。
しゃがんで拾い上げる。
それは、上質なレースのハンカチだった。
端には銀色の糸で、一輪の白百合が刺繍されている。
とても繊細な手仕事だった。
「落とし物かな。」
そこへルルがやって来る。
「何かあった?」
「ハンカチが落ちてたの。」
「ほんとだ!」
ルルは刺繍を見るなり、小さく目を丸くした。
「あれ……?」
「どうしたの?」
「この刺繍……見たことある。」
その時、後ろからマーサが歩いてきた。
「見せてごらん。」
マーサはハンカチを見つめ、少しだけ表情を和らげた。
「ヴァルディス公爵家の家紋を模した百合だね。」
「ヴァルディス公爵家……。」
私は聞き覚えがなかった。
ルルは慌てて私の耳元で囁く。
「ロゼッタ様のお家!」
「え?」
「ほら、あの……。」
さらに声を小さくする。
「悪役令嬢って噂の。」
私は瞬きをした。
「悪役……令嬢?」
その言葉が何を意味するのか、よく分からない。
「リア。」
マーサが静かに言う。
「噂話は後。」
「まずは仕事だよ。」
「はい。」
私はハンカチを丁寧にたたんだ。
「届けてまいります。」
「うん。」
マーサは優しく頷いた。
「落とし物は、持ち主へ返すまでがあとしまつだからね。」




