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コンコン。
扉が軽く叩かれた。
「失礼します。」
修繕係の制服を着た青年が顔をのぞかせる。
エリックだった。
「マーサさん。」
「修繕報告書です。」
「ありがとう。」
マーサが受け取る。
その後ろから、もう一人ひょこっと顔を出した。
「こんにちはー!」
明るい声。
栗色の髪をくしゃっとかき上げた青年が、にこにこと笑っていた。
「ロイ。」
エリックがため息をつく。
「勝手に入るな。」
「いいじゃん、休憩中なんだし!」
ロイは部屋を見回し、リアに気づいた。
「あれ? 新人さん?」
リアは慌てて立ち上がる。
「は、はい! リアと申します!」
「俺、ロイ!」
「修繕係!」
「エリックの同期!」
「よろしく!」
勢いに圧倒されながらも、思わず笑ってしまう。
「よろしくお願いします。」
ロイは満足そうに頷いた。
「よし!」
「エリックより先に仲良くなった!」
「競争じゃない。」
エリックが静かに言う。
部屋にまた笑い声が広がる。
⸻
帰り際。
エリックは扉の前で足を止めた。
「リア。」
「はい。」
「昨日。」
少しだけ間が空く。
「床、きれいだった。」
その一言だけ残して歩いていく。
リアは少し驚いて、その背中を見送った。
「……ありがとうございます。」
小さく呟くと、隣でマーサが微笑んだ。
「修繕係はね。」
「床なんて、普段は見てないんだよ。」
「え?」
「つまり。」
マーサは紅茶を一口飲んだ。
「ちゃんと見てくれてたってこと。」
リアは照れくさくなって、カップに目を落とした。
ほんの少しだけ。
今日の紅茶は、昨日より甘く感じた。
⸻
その日の仕事を終え、私は新しいページを開く。
あとしまつ記録 第003号
担当者:リア
業務内容
・大広間 点検
・報告書整理
・休憩室 清掃
備考
仕事のあとに飲む紅茶は、不思議と心まで整えてくれる。
そして、誰かに「きれいだった」と言ってもらえると、明日も頑張ろうと思える。
私は手帳を閉じ、小さく笑った。
「今日も、お疲れさまでした。」
その言葉は、誰に向けたものでもない。
王宮で働くみんなへ。
そして、自分自身へ。
そう言って休憩室の明かりを消すと、窓の外では、次の式典の準備がもう始まっていた。




