表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『恋物語のあとしまつは、モブメイドの仕事です。』  作者: てぃな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/22

9

ヴァルディス公爵家が滞在する客室の前。


深呼吸を一つ。


コンコン、と扉を叩く。


「あとしまつ係のリアと申します。」


少しして、侍女が扉を開けた。


「どのようなご用件でしょう?」


「こちらを、お預かりしておりました。」


ハンカチを差し出す。


侍女は「あら」と小さく声を上げた。


「お嬢様。」


部屋の奥から、静かな声が返ってくる。


「どうぞ。」


侍女に案内され、一歩だけ部屋へ入る。


窓辺に立つ、一人の令嬢。


陽の光を受けて、銀色の髪がやわらかく輝いていた。


その姿は、思わず息をのむほど美しい。


「ハンカチを……。」


そう言って差し出すと、令嬢は少し目を見開いた。


「まあ……。」


そっと受け取り、大切そうに両手で包む。


「探していたのです。」


その声は、とても穏やかだった。


「届けてくださって、ありがとうございます。」


私は思わず頭を下げる。


「いえ、お仕事ですので。」


令嬢は小さく微笑んだ。


その笑顔は、どこか少し寂しそうにも見えた。


「……助かりました。」


それだけ言うと、侍女に視線を向ける。


私はもう一度礼をして、部屋を後にした。



帰り道。


ルルが待ちきれずに駆け寄ってくる。


「どうだった!?」


「どう、って?」


「悪役令嬢様!」


私は少し考えてから答えた。


「……とても、丁寧な方だったよ。」


「えぇっ?」


ルルは目を丸くする。


「でも、噂じゃ——」


その時。


「ルル。」


マーサが優しく名前を呼んだ。


ルルは「はっ」として口を閉じる。


マーサはリアの方を見る。


「リア。」


「はい。」


「あなたは、何を見た?」


私は今日のことを思い返した。


探していたハンカチ。


安心した表情。


『ありがとうございます』という言葉。


私はゆっくり答えた。


「……優しい方でした。」


マーサは嬉しそうに微笑む。


「それでいい。」


「人はね。」


「噂で知るんじゃない。」


「自分の目で知るものだから。」


私はその言葉を、胸の中で何度も繰り返した。



その夜。


仕事記録を開く。


あとしまつ記録 第004号


担当者:リア


業務内容


・お茶会 あとしまつ


回収物


・レースのハンカチ 一枚


返却完了


備考


落とし物は、持ち主のところへ帰って初めて仕事が終わる。


そして、人のことも。


自分の目で見たことを、大切にしたい。


私は静かに手帳を閉じた。


窓の外では、夕暮れの風が庭の白百合をやさしく揺らしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ