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王宮で働くことになった日。
私が最初に教わったことは、礼儀作法でも、紅茶の淹れ方でもなかった。
「ほうきの持ち方が違うね。」
開口一番。
それが、私の教育係となる人の言葉だった。
「……はい?」
思わず間の抜けた返事をしてしまう。
目の前の女性は、白髪の混じった髪をきれいにまとめ、背筋を伸ばして立っていた。
優しそうな雰囲気を持っている。
けれど、その瞳には長年王宮で働いてきた人だけが持つ、揺るがない強さがあった。
「新人メイド、リアだね。」
「はい。本日より王宮勤務となりました、リアです。よろしくお願いいたします。」
深く頭を下げる。
女性は頷いた。
「私はマーサ。今日からあなたの教育係だよ。」
「よろしくお願いいたします。」
「うん。挨拶はできる。」
少し間を置いて。
「でも、ほうきの持ち方は直そうか。」
私は慌てて手元を見る。
確かに、言われてみれば力が入りすぎていた。
マーサは私の手からほうきを受け取り、正しい位置を示す。
「掃除はね、力でするものじゃない。」
「……はい。」
「見るんだよ。」
「見る?」
私は首を傾げる。
マーサは床へ視線を落とした。
「同じ床でも、毎日違う。」
朝の足音。
夜の靴跡。
こぼれた飲み物。
誰かが落とした小さな欠片。
「ちゃんと見れば、その日の状態が分かる。」
その言葉は、不思議と心に残った。




