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『恋物語のあとしまつは、モブメイドの仕事です。』  作者: てぃな


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プロローグ

恋物語は、たいてい誰かの前で幕を閉じる。


王子が愛する人へ手を差し伸べる。


「君だけを愛すると誓う。」


その瞬間、会場は歓声に包まれる。


楽団は祝福の曲を奏で、花びらが舞い、シャンデリアの光が二人を照らす。


誰もが思う。


美しい恋物語だった、と。


けれど。


物語というものは、主役たちが去ったあとも続いている。


「……さて。」


静まり返った大広間。


さっきまで数百人の笑い声が響いていた場所には、今は誰もいない。


残っているのは、


床いっぱいの花びら。


飲みかけのグラス。


倒れた椅子。


そして。


「今年も見事な壊れ方ですね。」


天井を見上げる。


大きなシャンデリアの一部が、見事に破損していた。


私は手帳を開く。


「花びら三百十二枚。」


一枚ずつ確認する。


「グラス二十七脚。」


視線を移す。


「装飾布二枚。」


最後に。


「……シャンデリア一基。」


ペンを走らせる。


「あとしまつ係として、記録しておきます。」


私はモップを肩に担いだ。


これが私の仕事。


誰かの恋が始まる場所を整えること。


そして。


誰かの恋が終わったあとを、元の姿へ戻すこと。


「リア。」


後ろから声がした。


振り返る。


工具箱を持った青年が立っている。


黒髪。


落ち着いた表情。


修繕係の制服。


「また大変な夜だったな。」


私は少し笑う。


「王宮の舞踏会ですから。」


青年は壊れたシャンデリアを見る。


「直せそうだ。」


「さすがですね、エリックさん。」


名前を呼ぶ。


もう何度も呼んできた名前。


彼は壊れたものを直す人。


私は散らかったものを整える人。


私たちの仕事は違う。


でも。


見ているものは少し似ているのかもしれない。


誰も気づかない傷。


誰も拾わない欠片。


それを見つけて、元の場所へ戻すこと。


「朝までに終わりますか?」


私が聞くと、エリックは小さく笑った。


「リアが床を終わらせるなら。」


「私の仕事が遅いと言いたいんですか?」


「逆。」


彼は工具を取り出す。


「リアの仕事が早いから、俺も急がないとなって思うだけ。」


その言葉に、なぜか少しだけ心が温かくなる。


でも。


私は手帳を閉じた。


仕事中に余計なことは考えない。


それが私の決まりだから。


夜が明ける頃。


舞踏会場は、何事もなかったように元の姿へ戻っていた。


恋物語は終わった。


けれど。


私たちの仕事は終わらない。



あとしまつ記録


担当者:リア


場所:王宮大広間


回収物


・花びら 三百十二枚

・グラス 二十七脚

・破損装飾 一式


備考


恋物語のあとには、必ず誰かの仕事が残る。

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