18
朝の図書室は、王宮の中でもひときわ静かだった。
高い窓から差し込む光が、本棚に並ぶ背表紙をやさしく照らしている。
「今日は図書室のお仕事だよ。」
マーサから仕事表を受け取ったリアは、小さく頷いた。
「返却された本を棚へ戻して、それから机の拭き掃除。」
「はい。」
図書室の仕事は、あとしまつ係の中でも人気だった。
本好きのルルは羨ましそうに唇を尖らせる。
「いいなぁ。私も図書室担当がよかった。」
「静かにできるならね。」
サーシャの一言に、ルルは「うっ」と肩をすくめた。
⸻
リアは返却された本を、一冊ずつ棚へ戻していく。
題名を確認し、決められた場所へ。
本は、持ち主の場所へ帰してあげる。
それも、あとしまつの仕事だった。
最後の一冊を持ち上げた、その時。
「……あ。」
一枚の封筒が、ページの間からするりと滑り落ちた。
真っ白な封筒。
封はされていない。
けれど、リアは拾い上げるだけで、中を見ようとはしなかった。
「しおり代わりだったのかな。」
封筒を本に挟み直そうとした時だった。
司書が困ったように近づいてくる。
「その本は、先ほど返却されたものです。」
「持ち主がお帰りになったあとで気づいて……。」
「どなたの本ですか?」
「ヴァルディス公爵令嬢様です。」
リアは静かに頷いた。
「お届けします。」
⸻
客室へ向かう廊下。
磨き上げられた窓から、春の日差しが差し込む。
その途中だった。
「おはようございます。」
前から歩いてきたのは、レオンハルト王子だった。
リアは慌てて一礼する。
「おはようございます。」
王子の視線が、本と封筒へ向く。
「届け物ですか?」
「はい。図書室にお忘れでしたので。」
「ロゼッタ様へお届けします。」
王子は小さく頷いた。
「そうですか。」
少しだけ間があく。
リアは思い切って尋ねた。
「あの……もしよろしければ、お渡しいただいた方が早いでしょうか。」
王子は少し驚いたように目を瞬かせた。
それから穏やかに笑う。
「いいえ。」
「預かった方が届けた方が、安心して受け取れることもあります。」
リアはその言葉に、自然と笑みを浮かべた。
「そうですね。」
王子は軽く会釈し、そのまま廊下を歩いていった。




